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元女王様Vアバター(中身♂)の皇女、奈落で配信中。~視聴者は最新VR神ゲーだと思ってますが、投げ銭がないと死んでしまいます~  作者:


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20/23

第20話:決死の帰省(タッチ・アンド・ゴー)は『強制送還』で未遂に終わる

 第8層の空をドローンで制圧し、続く第9層の湿地帯をなんなくクリアし、丸二日が経過していた。


 そして今、俺たちは一つの「壁」にぶち当たっていた。

 第10層『水晶の回廊』。

 壁も床も、天井さえもが透明度の高い水晶で構成された、美しくも残酷なエリアだ。


 その最奥部。

 俺たちの行く手を阻むのは、この階層の守護者


『クリスタル・ゴーレム』


「……硬いわね。これだから石ころは嫌いよ」


 俺は見上げるような巨体を見据え、不愉快そうに鼻を鳴らした。

 全身がダイヤモンド並みの硬度を持つ結晶体。

 生半可な剣撃は弾かれ、魔法はその鏡面ボディで拡散・反射される。

 まさに、物理と魔法を否定する歩く要塞だ。

 動き自体は遅いので、俺でも簡単に敵に攻撃を出来るのだが、困ったものだ。


「ガイル。下がっていなさい。貴方の短剣じゃ、爪楊枝にもならないわ」


「し、しかしレン様! 魔法も通じない相手にどうやって……!」


 ガイルの焦燥を他所に、俺は『Amazone』のウィンドウを展開した。


 硬い? 頑丈?

 だからどうした。

 人類の歴史は、自然界の「硬度」を文明の力でねじ伏せてきた歴史だ。


 俺が購入したのは、[DIY・工具 > 電動工具] カテゴリの怪物。


『プロ仕様・電動ハンマードリル』


 キャッチコピー:『コンクリートも岩盤もどんなものもバターのように粉砕! 毎分3000回の打撃で道を切り拓く!』


「道を開けなさい。工事はかいの時間よ」


 俺はトリガーを引いた。


 ズガガガガガガガガガガッ!!!!


 鼓膜を破壊するような轟音が、密閉された水晶の回廊に反響する。

 俺の手の中で、鉄の塊が生き物のように暴れる。

 凄まじい振動が腕を駆け上がり、歯の根が合わないほど全身を揺さぶる。

 だが、俺は構わずその先端を、ゴーレムの左足首へと押し当てた。


「オ、オオオオオッ……!?」


 ゴーレムが悲鳴のような軋みを上げる。

 魔法障壁? 物理耐性? 知ったことか。

 先端にかかる圧力と、超高速のピストン運動。

 一点集中された物理エネルギーは、結晶の結合を分子レベルで破壊していく。


 パキィッ!!


 乾いた音が響いた瞬間、ゴーレムの足首に亀裂が走った。

 そこからは一瞬だった。

 亀裂は蜘蛛の巣のように全身へ広がり――自重を支えきれなくなった巨体が、ガラス細工のように崩れ落ちる。


 ズガァァァァァァァンッ!!


 粉塵が舞う中、俺はドリルを止めた。

 残心などない。ただの解体作業だ。


「……ふぅ。手が痺れたわ」


 崩れた残骸の山。

 光の粒子となって消えていくゴーレムの中心に、一つだけ、消えずに残った青白い石があった。

 俺はそれを拾い上げる。


『ハンマードリル最強説』

『ゴーレムが豆腐みたいにw』

『音やばすぎ』

『お、レアドロップじゃん』

『【帰還石】だ!』


 帰還石。

 使用すれば、一瞬で地上へ転移できるレアアイテムだ。

 ただし、このダンジョンの「呪い」により、地上にいられるのはたったの2時間。

 それを過ぎれば、強制的にこの場所へ引き戻される。


(……俺には必要ないな。地上のベッドより、今のテントの方が快適だし)


 俺は興味なさげに石を放り投げようとした。

 その時だ。


 ガシッ。


 横から伸びてきた震える手が、俺の腕を強く掴んだ。


「……レン様。その石……私に、お貸しいただけないでしょうか」


 ガイルだった。

 いつもは飄々としている男が、今は余裕なく顔を引きつらせ、縋るような目で俺を見ている。


「……どうする気?」


「確認したいのです。……あの報告(ゼスの死)が、真実なのかどうか」


 ガイルの声が震えている。

 たった2時間だ。移動時間を考えれば、現地に滞在できるのは数分もないだろう。

 それでも、彼は自分の目で「主の最期」を見届けなければ、前に進めないのだ。


(ここで「ダメだ」と言って腐られても、メンタルブレイク起こす可能性が高いか……)


 俺は中身おっさんの計算機を弾き、石を彼に投げ渡した。


「好きにしなさい。……ただし、お土産はいらないわよ」


「……ッ! 感謝、致します!」


 ガイルは石を握りしめ、深く頭を下げた。

 次の瞬間、彼は青い光に包まれ、その場から掻き消えた。


 ◇


 帝都、ダンジョン入り口。

 転移したガイルの視界に、懐かしい帝都の夜景が広がる。

 だが、感傷に浸っている時間はない。

 残り時間は119分。


(走れ……! 北までは馬でも数日かかる。だが、あの男なら!)


 ガイルは裏路地を疾走した。

 全力疾走で飛び込んだのは、スラム街の奥にある薄汚い酒場。

 彼はカウンターの奥にいた、元部下の「闇の運び屋」の胸ぐらを掴み上げた。


「北へ飛ばせ! 今すぐだ!」


「た、隊長!? 生きてたんですか……って、無茶ですよ! 北の国境までなんて、俺の魔力が空になっちまう!」


「命以外なら何でもくれてやる! だから頼む、送ってくれッ!」


 ガイルの鬼気迫る形相。血走った目。

 運び屋は息を呑み、震えながら頷いた。

 限界まで魔力を注ぎ込んだ、特大の転移術式。

 視界が歪む。内臓が裏返るような浮遊感。


 バシュッ!!


 空間が弾け、ガイルの体は北の果てへと弾き飛ばされた。


 ◇


 ヒュオオオオオオオ……。


 転移した瞬間、鼓膜を打ったのは、死者のような風の音だけだった。

 ガイルが目を開ける。


「……あぁ……」


 そこは、白と赤の地獄だった。

 雪原は一面の血で染まり、見渡す限りアンデッドの残骸が散らばっている。


 そして、その中心には――巨大なクレーター。


 何もない。

 騎士団の旗も。兵士たちの遺体すらも。

 すべてが消滅していた。

 報告は真実だった。


 ゼス将軍は、自らの命を犠牲にして、この地ごと敵を焼き払ったのだ。


 ガイルはその場に膝をつき、血の混じった雪を握りしめた。

 指の感覚がない。心臓が凍りついていくようだ。


「……いい景色でしょう?」


 頭上から、鈴を転がすような無邪気な声が降ってきた。

 ガイルが弾かれたように顔を上げる。


 クレーターの縁。

 そこに、喪服のようなドレスを着た少女が座っていた。

 その傍らには、青白い肌をした全裸の青年ネロが、虚ろな目で立っている。


「……貴様か。この惨状を引き起こした元凶は」


 ガイルが低い声で問う。

 少女は退屈そうに頬杖をつき、ゆっくりと視線をガイルに向けた。


「うん、そうだよ。……あ、キミ。この間の雪原にいた『ネズミさん』だ」


 少女――リリィは、悪びれる様子もなく微笑んだ。


「また覗きに来たの? 物好きだねぇ。もう何もないよ? ボクの新しいおもちゃ(ネロ)のテストも終わっちゃったし」


 リリィが隣の青年――ネロの髪を撫でる。

 ガイルの視線が、ネロの右手に吸い寄せられた。

 彼が握っている、刃こぼれだらけの大剣。

 その柄に刻まれた、誇り高き『黄金の獅子』の紋章。


 ――ゼス将軍の愛剣だ。


 ブチッ。


 ガイルの脳内で、理性の弦が焼き切れた。


「……その薄汚い手で。剣に、触れるなァッ!!」


 ガイルは地を蹴った。

 殺意のままに双剣を抜き、リリィへと突撃する――と見せかけ、その姿が雪煙の中に消えた。


「――遅い」


 次の瞬間、ガイルはネロの背後(死角)に出現していた。


 帝国暗殺術『影走り』。

 視覚ではなく、相手の意識の隙間を縫って接近する必殺の歩法。

 双剣が、ネロの延髄を刈り取るべく交差する。


「ネロ、後ろ」


 リリィの気の抜けた指示。

 ネロは振り返りもしなかった。

 ただ、背中に目がついているかのような正確さで、大剣を背後へ回し、ガイルの斬撃を受け止めたのだ。


 ガギィンッ!!


「なッ……!? 見ずに防いだだと!?」


 ガイルが驚愕に目を見開く。

 アンデッド特有の遅さがない。

 これは『剣聖アルガン』が生前持っていたとされる「心眼」


 ――殺気のみを感知して防御する達人の技だ。


「チッ、ならば速さで崩す……!」


 ガイルはバックステップで距離を取り、即座に再加速した。

 前後左右、あらゆる角度からフェイントを織り交ぜた高速連撃。

 雪原に無数の残像が生まれるほどの神速。


 キンッ! ギィンッ! ガガガガガッ!!


 だが、通じない。

 ネロは大剣を盾のように構え、最小限の動きですべてを弾き返す。

 それどころか、防御の合間に放たれる「蹴り」や「体当たり」の一撃一撃が、空気を震わせるほど重い。


「ぐぅッ! なんだこのデタラメな出力は……ッ!」


 技は剣聖。力は将軍。

 ガイルの刃は皮膚一枚切り裂けず、逆に剣を受けるたびに、ガイルの手首が悲鳴を上げる。


「あはは! 無駄だよネズミさん。ネロは最高の素材パーツで作ったんだから」


 リリィが退屈そうにあくびをする。


「アルガンの『技』に、あいつの『筋力』を上乗せしてるんだよ?小手先の技術じゃ、傷ひとつつけられないってば」


「……技と、力だと……?」


 ガイルの動きが一瞬止まる。

 その隙を、戦闘人形は見逃さなかった。


 ブォンッ!!


 大剣が横薙ぎに振るわれる。

 単純な暴力。

 だが、回避不能なタイミングと速度。


「しまっ――」


 ガイルは咄嗟に双剣をクロスさせて防御するが、それはトラックに正面衝突されたようなものだった。


 ドガァッ!!


 防いだ双剣ごと弾き飛ばされる。

 ガイルの身体は枯れ枝のように雪原を転がり、岩に激突して止まった。


「が、はっ……!」


 口から血の塊が溢れる。

 肋骨が数本イカれた感覚がある。


   圧倒的だった。

「影」としての技術が、純粋な「スペックの暴力」の前に無力化されたのだ。


「あーあ。もう壊れちゃった? つまんないの」


 リリィが冷ややかな目で見下ろす。

 ガイルは震える手で口元の血を拭い、ゆらりと立ち上がった。


 その目から、焦燥が消えていた。

 あるのは、底なしの暗い決意だけ。


「……影、か。そうだな」


 ガイルは、ボロボロになった上着を掴み、乱暴に脱ぎ捨てた。


 バサァッ……。


 雪の上に落ちた上着。

 露わになったのは、彼の上半身。

 鍛え上げられた肉体。


 そして――右腕。


 通常、紋章は「手の甲」にのみ現れる。

 魔族であるリリィでさえ例外ではない。


 だが、ガイルのそれは違った。

 手首から始まり、肘、二の腕、そして心臓に近い肩口に至るまで。

 びっしりと、呪いのような黒い幾何学模様が皮膚を侵食していたのだ。


「……なに、それ」


 リリィの笑顔が凍りつく。

 彼女は初めて警戒の色を見せ、杖を構えてネロを自分の前へ移動させた。


「手の甲だけじゃない……心臓まで繋がってるの? キミ、人間じゃないの?」


「さあな。……帝国の『実験体』とでも呼んでくれ」


 ガイルが、自身の秘孔を突くように、右腕の紋章に指を這わせた。


「――限定解除リミッター・カット。ファースト解放」


 ドクンッ!!


 ガイルの心臓が、早鐘のように爆ぜた。

 紋章が赤熱し、ガイルの全身の皮膚が、茹で上がったように赤黒く変色する。


 シュウゥゥゥゥゥッ……!!


 全身の毛穴から、汗が瞬時に蒸発し、白い蒸気となって噴き出した。

 筋肉が極限まで圧縮され、鋼鉄のワイヤーのように引き締まっていく。


 脳のリミッターを外し、筋繊維がちぎれる限界を超えて出力を回す。

 魔力を燃料にして加速する戦闘形態。


 ガイルが構える。

 ただそれだけで、周囲の空間が熱で揺らぎ、足元の雪が一瞬で消滅した。


「待たせたな、化け物ども」


 ガイルの声が、二重に重なって響く。


「ここからは――『戦争』だ」


 リリィが結界を張る。

 ネロが剣を構える。


 本気の殺し合いが始まる――その瞬間。

 ガイルが姿を消した。  否、速すぎる。


 ドンッ!!


 遅れて衝撃音が響く。

 踏み込んだガイルの拳が、ネロの顔面を捉える寸前まで迫っていた。


「――砕けろォォォッ!!」


 必殺の一撃。

 当たれば粉砕必至。帝国の歴史すら変えうる一撃。


 だが。


 ピロン♪


 無機質な電子音が、ガイルの耳元で鳴った。


【残り時間:00:00】


「……あ?」


 ヒュンッ。


 ガイルの姿が、かき消えた。

 拳がネロに触れる寸前、青い光に包まれ、その質量ごと別次元へと転送されたのだ。


 ドォォォォォォンッ!!!


 だが、次の瞬間。

 彼女の身体が、ゾクリと震えた。


 恐怖ではない。

 背筋を駆け上がったのは、極上の獲物を見つけた時のような、痺れるような歓喜。


「……あはっ」


 リリィの瞳孔が開く。

 網膜に焼き付いているのは、あの赤い肌。噴き出す蒸気。

 ただのネズミだと思っていた男が見せた、生物としての限界を超えたあの輝き。


 ――欲しい。

 ネロ(死体)にはない、あの煮えたぎるような「生」のエネルギーをもっと見てみたい。


 壊してみたい。中身を暴いて、ボクだけのモノにしたい。


(……いい玩具おもちゃになりそう。あいつの魔力波長ニオイは覚えた。……絶対に逃がさない!!)


 リリィは歪んだ笑みを浮かべ、舌なめずりをした。

 もう、興味本位の偵察じゃない。

 これは「狩り」だ。


「いくわよ、ネロ。――あいつを捕まえに」


 ネロは無言で頷き、主と共に消えた獲物の気配を追って転移魔法を唱え始めた。


 ◇


 一方、ダンジョン第10層。


 ドガアアアアアンッ!!!


 テントの横にある頑丈な岩盤が、凄まじい衝撃で粉砕された。

 砂煙の中から現れたのは、全身から高熱の蒸気を噴き上げ、肌を赤黒く染めたガイルだった。


「うおおおおおおッ!! 死ねェェェェッ!! ……あ?」


 拳を突き出したまま、ガイルは固まった。

 充血した目。焼き切れそうな呼吸。

 だが、目の前には雪原も魔王軍もいない。

 あるのは、のんびりと茶を啜るレンと、ビビって箱に隠れたパンドラだけ。


「……騒がしいわね。帰ってきたの?」


 レンは、ガイルの異様な姿――限界突破した肉体を見ても眉一つ動かさなかった。

 まるで、泥遊びをしてきた大型犬を見るような目だ。


「レ、レン様……!? 俺は……くそッ! あと一歩だったのに! あの化け物を、この手で……ッ!」


 ガイルが地面を殴りつける。

 行き場のない怒りと、暴走したエネルギーが燻っている。


「……暑苦しい」


 レンはため息をつき、テーブルの上を指差した。


「暴れる元気があるなら、食えるわよね?」


 そこには、場違いなほど豪華な「桶」が置かれていた。


 『特上寿司桶・極』


 艶やかなマグロの大トロ、黄金色のウニ、輝くイクラ。

 ダンジョンの無機質な空間に、極東の宝石箱が鎮座している。


「……す、し……?」


 ガイルの動きが止まる。

 肉体強化の代償。それは、爆発的なエネルギー枯渇だ。

 怒りが頂点に達していた脳が、突如として「猛烈な飢餓感」に上書きされた。


 グゥゥゥゥゥゥ……ッ!!


 腹の虫が、雷鳴のように響いた。


「……座んなさい。死者の分まで、生きているお前が食うのよ」


 ガイルはフラフラと席につき、震える手で大トロを掴んだ。


 口に入れる。

 人肌の温度で脂が溶け、濃厚な旨味が脳髄を直撃する。


「……うめぇ……」


 ガイルの目から、涙が溢れ出した。

 悔しさか、安堵か、それともワサビが効きすぎたのか。


「ちくしょう……うめぇ……!」


「……不味くなるわよ、涙が入ると」


 そういいながらレンはガイルの肩に手をかけて、例のティッシュを差し出した。


 彼は泣きながら、寿司を貪り食った。

 ガイルの肌の色が元へと戻っていく。

 その背中には、もう迷いはない。

 いつか必ず、あの雪原へ戻り――決着をつけるという、新たな誓いだけが残った。

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