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元女王様Vアバター(中身♂)の皇女、奈落で配信中。~視聴者は最新VR神ゲーだと思ってますが、投げ銭がないと死んでしまいます~  作者:


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第19話:天空の支配者(ハーピー)は『配送ドローン』で一方的に撃墜(デリバリー)する

「……なによ、これ」


 第7層の灼熱地獄を抜け、階段を降りた先に広がっていたのは――「絶景」だった。


 視界を埋め尽くすのは、どこまでも広がる青い空と、眼下に広がる純白の雲海。

 そして、その空中にプカプカと浮いている、大小様々な岩の島々。


 第8層『天楼の浮島スカイ・アーキペラゴ』。

 ファンタジーRPGなら、もっともテンションが上がるエリアだ。

 だが、それはあくまで「画面越し」の話だ。


「ひゅっ……」


 俺は思わず、喉の奥で情けない音を漏らした。

 足元を見る。

 断崖絶壁。

 その先には、底が見えない雲の切れ間が広がっているだけ。


(た、たけぇぇぇぇぇぇッ!!)


 俺の中身おっさんが絶叫した。

 俺は高所恐怖症だ。

 ジェットコースターも観覧車も無理な人種だ。

 それなのに、ここは手すりすらない。一歩踏み外せば、奈落の底へ逆戻り(即死)。


 ガクガクガク……。

 膝が笑うどころか、爆笑している。

 ドレスの下で脚が小刻みに震えて止まらない。


「わぁ……! すごいですレン様! 空に島が浮いています!」


 隣では、リーナがはしゃいで崖のふちまで駆け寄っている。


 正気か? 死ぬぞ?


「見事な地形ですね。敵の接近も視認しやすい」


 ガイルも平然と下を覗き込んでいる。

 こいつらの三半規管どうなってんだ。


(やばい、動けない。一歩も動けない)


 恐怖で硬直する俺に、二人の視線が集まる。

 ここで「怖いから帰りたい」と言えば、女王の威厳は崩壊だ。

 俺は震える脚をドレスの裾で隠し、必死に虚勢を張った。


「……ふん。悪くない眺めね。下界を見下ろすのは気分がいいわ」


 俺はあえて動かず、腕を組んでドヤ顔を決めた。

 動かないんじゃない。


「風景を楽しんでいる」という演出だ。


『レン様、高いところ平気なのか』

『俺ならちびる』

『足場狭すぎワロタ』

『ここ、風で煽られたら終わりだぞ』


 コメント欄が不穏な予測を立てる。

 やめてくれ。想像させないでくれ。


 その時だった。


 ヒュオォォォッ!!


 突風が吹いた。

 雲海の中から、数十の黒い影が舞い上がる。

 人の頭と鳥の体を持つ、不気味な魔物の群れだ。


(な、なんだあれ!? 鳥人間!?)


 俺がギョッとしている間に、視界のコメント欄が警告色で埋め尽くされる。


『うわ、出た!』

『ストーム・ハーピーだ!』

『集団で襲ってくるぞ!』

『風魔法持ちだ、気をつけろ!』


「……ッ! ハーピーか!」


 リスナーの情報で敵の名を把握するのと同時に、ハーピーたちが翼を羽ばたかせた。


「キェェェェェッ!!」


 カマイタチのような真空の刃が、無数に飛んでくる。


「ッ! レン様、下がってください!」


 ガイルが前に出て短剣を振るう。


 キンッ! キンッ!


 飛んでくる風の刃を弾くが、敵は遥か上空だ。

こちらの攻撃は届かない。


「くそっ、遠い! 降りて来い、鳥野郎!」


 ガイルが叫ぶが、ハーピーたちは嘲笑うように旋回し、遠距離から一方的に風魔法を撃ち込んでくる。  


 足元の浮島が揺れる。

 俺の平衡感覚も揺れる。


(無理無理無理! 立ってられない!)


 俺はしゃがみ込みそうになるのを堪え、コメント欄に助けを求めた。


『ハーピーうざ』

『あいつら旋回パターンがあるぞ』

『風上に回り込んでくる』

『弓がないと無理ゲー』

『近づくと突風で落とされるぞ』


攻略班リスナーの情報は絶望的だった。

近寄れない。届かない。落とされる。

空を飛ぶ相手には地形が悪すぎる。

 俺の脳内で、逆転の発想が閃いた。


(弓か……そうだ。届かないなら。こっちから『届けて』やればいい)


 俺は『Amazone』を開いた。

 武器カテゴリじゃない。

 俺が選んだのは、[家電・カメラ > ドローン] カテゴリだ。


「ガイル。そこを退きなさい」


 俺は震える手で購入ボタンを押した。


 『アマ仕様ドローン(農薬散布・配送対応)』×4機セット

 『FPVゴーグル(没入型フライト体験セット)』

 『リクライニング・アウトドアチェア(ドリンクホルダー付き)』


 合計:¥75,000


「――配送デリバリー、開始」


 俺が指を鳴らした瞬間、頭上の空間が歪んだ。


 ポシュッ!


 空間の裂けゲートから、見慣れた「ロゴ入り段ボール箱」が3つ、重力に従って落下してくる。


 ドスッ! ドスッ! ズガンッ!!


 最後の一つ、巨大な椅子が入った箱が重々しい音を立てて浮島に着地した。

 砂煙が舞う中、俺はパンドラからカッターを受け取り、手際よく開梱アンボックスしていく。

 現れたのは、巨大なプロペラを持つ4機の黒い機体と、王座のように立派なクッション付きチェア。


 俺はすぐさま椅子に座り込んだ。

 優雅に足を組み、背もたれに深く体を預ける。

 これでいい。これなら「腰が抜けた」のではなく「玉座に座った」ように見える。


「ガイル。貴様は私の椅子の脚を押さえていなさい。風で玉座が揺れるのは不快よ」


「は、はい!? こ、こうですか!?」


 ガイルが慌てて椅子の脚にしがみつき、自身の体を鎖のように巻き付けた。

 俺の体重に加え、強風で煽られるリクライニングチェアの負荷。

 さらに、俺が恐怖で無意識に体を揺らすたびに、椅子の脚がガイルの横腹に食い込む。


「ぐっ、ぬぅぅぅ……ッ! 風圧が……! レ、レン様……もう少し静かに……あばら骨が……ッ!」


「うるさいわね。今から集中するの。動かないで」


「理不尽んんんッ!!」


 頼もしい仲間だ。

 俺は安心して、FPVゴーグルを装着した。


 カチッ。


 視界が暗転し――次の瞬間、鮮明な4K映像が網膜に飛び込んできた。

 そこに広がるのは、デジタルな数値(UI)が表示された「モニターの中の世界」。


「……ふぅ」


 俺の震えが、嘘のように止まった。

 足元の断崖絶壁? 底なしの雲海?


 関係ない。

俺の視界にあるのは、ただの液晶画面だ。

 これはもう「現実リアル」じゃない。

ただの「高解像度なVRゲーム」だ。

 モニター越しなら、幽霊だってエイリアンだって怖くない。

それが現代っゲーマーという生き物だ。


「――出撃ランチの時間よ」


 手元のコントローラーを操作する。


 ブウウウウウウウンッ!!!


 4機のドローンが、重低音を響かせて一斉に離陸した。

 そのプロペラは、ヤワなプラスチックじゃない。

 硬質カーボン製。高速回転すれば、それは「空飛ぶ凶器カッター」だ。


「キェッ!?」


 ハーピーたちが、見慣れない「黒い怪鳥」の出現に動揺する。

 だが、遅い。

 FPS(一人称視点シューティング)なら、数千時間はプレイしている。


「そこね」


 俺はジョイスティックを倒した。

 1号機が急加速。風魔法の隙間を縫うようにスライドし、先頭のハーピーへ突っ込む。


 ガギィッ!!


「ギャアアアアッ!?」


 高速回転するカーボン・プロペラが、ハーピーの翼に直撃する。


 ギャギギギギギッ!!


 肉と骨を削り取る不快な音が、クリアな音声としてヘッドホンに届く。

 通常ならドローンが墜落する衝撃。だが、『Amazone』の商品説明ルールがそれを許さない。


『パワフルな推力で、悪天候でも荷物を確実にお届け』


 この世界において、そのキャッチコピーは絶対命令へと変換される。

 ハーピーは「生物」ではない。

 配送ルートを塞ぐ「悪天候(障害物)」だ。

 ならば――突き抜ける(届ける)のみ。


 ドチュンッ!!


 推力が減衰することなく、ドローンはハーピーの胴体を物理的に貫通した。


「ギャアアアアッ!?」


 鮮血がレンズに飛び散り、ワイパーがない視界を赤く染める。


「……チッ。画面が汚れたわね」


 俺は無機質に呟いた。


「な、んですあれは!? 遠隔操作の自律兵器ゴーレム!?」


 リーナが空を見上げて叫ぶ。


「しかも、レン様は目隠し(ゴーグル)をしたまま……! まさか、視覚を使い魔と共有する禁呪『天眼通サード・アイ』ですか!?  安全圏から一方的に敵を殲滅するなんて……まさに『天空の支配者』!」


 リーナの解説が冴え渡る。

 実際は、高くて怖いから椅子に座ってラジコン遊びをしているだけなのだが。


『ドローン爆撃きたあああw』

『ゴーグルフェチの俺たすかる』

『ハーピーがゴミのように落ちていくw』

『配送(物理)』

『お急ぎ便(即死)』

『安全圏から虐殺とか、ゲーマーの鑑だな』


 コメント欄が盛り上がる中、俺は次々とドローンを操作した。

 右旋回。上昇。急降下アタック。

 空の戦いは、完全に俺の独壇場だった。


 俺がスティックを倒すたびに、椅子が揺れ、その下でガイルが「ぐふっ」「ごふっ」と謎の悲鳴を上げているが、ノイズキャンセリング機能のおかげで気にならない。


 数分後。

 空には、電子音を響かせる4機のドローンだけが残った。


「……ふぅ。制空権、確保完了ね」


 俺はゴーグルを外し、乱れた前髪を払った。

 ガイルが、強風と重量と俺の体重移動に耐えきり、ボサボサの頭で顔を上げる。


「ぜぇ、ぜぇ……。み、見事です、レン様……。一歩も動かずに、空の敵を全滅させるとは……」


「貴様もよく支えたわね。褒めてあげるわ」


 俺は椅子の背もたれから体を起こし、『Amazone』を開いた。

 勝利の後は、もちろんこれだ。


「――お茶にしましょうか」


 俺が取り出したのは、『雲海カフェ風・厚焼きスフレパンケーキ(メープルシロップ&ホイップ)』と『アールグレイティー』。

 ふわふわのパンケーキが、空の青さに映える。


「わぁぁ……! 雲みたいにふわふわです!」


 リーナが歓声を上げる。

 俺はナイフで切り分け、シロップたっぷりの一切れをフォークに刺した。

 そして、足元で荒い息を吐いているガイルの口元へ差し出した。


「ほら、口を開けなさい。アンカー役の駄賃よ」


「えっ? あ、あぐっ!?」


 ガイルが反射的に口を開ける。

 甘いシロップと卵の風味が、疲労した男の脳に染み渡る。


「……う、美味い……! 疲れが溶けていくようだ……」


「パンドラも、お食べ」


 パンドラも箱をパカパカさせてパンケーキをねだる。

 俺たちは天空の浮島で、死闘ラジコンの後の優雅なティータイムを楽しんだ。


『空の上でパンケーキとかお洒落すぎ』

『ガイル、餌付けされてて草』

『完全にペット扱いw』

『絶景かな絶景かな』


 ¥5,000『ドローン代支援』  ¥10,000『ガイルのおやつ代』


 こうして、俺たちは「高所」という最大の敵を、文明の利器と下僕の筋力でねじ伏せ、次なるエリアへと進むのだった。

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