表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元女王様Vアバター(中身♂)の皇女、奈落で配信中。~視聴者は最新VR神ゲーだと思ってますが、投げ銭がないと死んでしまいます~  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/23

第17話:武人の魂は『誇り』と共に砕け、白き雪原は『紅蓮』に染まる

なぜか更新前の古い方を投稿してしまいましたので削除しました。こちらを正史としてお願いいたします。

 氷てつく風が、刃のように肌を切り裂く。

 北の丘の上で対峙するのは、二人の騎士。


 一人は、現代の帝国最強とうたわれる猛将、ゼス。

 もう一人は、百年の時を超えて蘇った伝説の英雄、剣聖アルガン。


 舞い散る雪が、二人の間合いに入った瞬間――世界が弾けた。


 ガギィィィィィンッ!!


 刹那の交錯。

 ゼスの大剣が唸りを上げて振り下ろされるが、アルガンの剣はそれを「流し」ていた。

 受け止めるのではない。

 剣の腹で軌道を逸らし、その運動エネルギーをそのまま回転斬りへと転化する。


「ぐぅッ!?」


 ゼスは本能的に上半身を逸らした。

 鼻先を冷たい風圧が掠める。

 回避が遅れていれば、首が飛んでいた。


(速い……! 腐った身体など関係ないというのか!)


 ゼスは追撃を防ぐためにバックステップを踏むが、アルガンは影のように追随してくる。

 その歩法。呼吸。剣筋。

 すべてが、ゼスが騎士学校の教科書で学び、理想とし、模倣し続けてきた「剣聖の型」そのものだった。


「あははっ! すごいすごい!やっぱりアルガンくんは最強だねぇ!」


 氷の玉座から、リリィの無邪気な拍手が響く。

 彼女にとって、これは殺し合いではない。

 最高級のヴィンテージ・ドールを使った人形遊びだ。


「さあ、見せてよ。そのおじさんを、バラバラにしちゃえ!」


 リリィが指を振るう。

 強制命令コマンドが下る。

 アルガンの虚ろな瞳が赤く明滅し、その体からどす黒い闘気が噴き出した。


 ヒュンッ!

視界から英雄が消えた。

いや、踏み込みが速すぎて視認できなかったのだ。


「――舐めるなァッ!!」


 ゼスは叫んだ。

 このままでは殺される。ならば、躊躇している暇はない。

 彼は奥歯を噛み締め、己の腕に刻まれた「紋章」を解き放った。


「――紋章解放、『金剛の守護者アダマン・ガーディアン』ッ!!」


 ゼスの身体から黄金のオーラが噴出する。

 皮膚が鋼鉄のように硬化し、筋繊維が悲鳴を上げて膨張する。

 帝国の将軍クラスに相当する紋章は、超人的な身体能力強化。


 ゼスは、アルガンの神速の剣を、硬化した左腕で強引に弾いた。


 空気が爆ぜる。


「捉えたぞ……ッ!」


 ゼスの眼光が鋭くなる。

 紋章の力で反応速度が跳ね上がった今なら、剣聖の動きが見える。

 ゼスは踏み込んだ。


 英雄の首へ、必殺の大剣を叩き込むために。


 だが――。


「あ、それ知ってる。ズルい技だよね」


 リリィがつまらなそうに呟いた。


「アルガンくんも、使っちゃいなよ」


 アルガンの朽ちた鎧の下、心臓部から、眩いばかりの白銀の光が漏れ出した。


 ゼスは目を見開いた。

 (アンデッドが。死した肉体が。生者の特権であるはずの「紋章」を使うだと!?)


「――紋章解放、『天剣のヘヴンズ・ウィング』」


 死者の口から、無機質な詠唱が漏れた。


 瞬間。

 アルガンの背中から、魔力で構成された光の翼が出現した。


 次元が違った。

 ゼスの黄金のオーラごと、彼を弾き飛ばす圧倒的な出力。

 重戦車に撥ねられたかのような衝撃で、ゼスの巨体が吹き飛び、雪原を転がる。

 受け止めた大剣の刀身には、亀裂が入っていた。


 ミスリル合金製の剣が、たった一撃で悲鳴を上げている。


「ガハッ……! 馬鹿、な……アンデッドが……紋章を……!?」


 ゼスは血を吐きながら、剣を杖にして立ち上がった。

 左腕の感覚がない。肩の骨が砕かれている。


 圧倒的だった。

 紋章すらも使いこなす英雄ゾンビ

 技量、力、速度。すべてのパラメータにおいて、現代の将軍を凌駕している。


(勝てぬ。……万に一つも)


 武人としての本能が、敗北を告げていた。

 だが、ゼスの心に恐怖はなかった。

 あるのは、沸々(ふつふつ)と湧き上がる「怒り」のみ。


 自分の死への恐怖ではない。

 憧れの英雄が、あのような魔族の幼子の指先一つで弄ばれ、聖なる紋章すら汚されていることへの、耐え難い屈辱と義憤。


 アルガンがゆっくりと近づいてくる。


 トドメを刺すために。


 その時、ゼスは見た。

 兜の奥。

 腐敗し、光すら失われたその暗い瞳から、ドロリとした黒い液体が流れているのを。


(……泣いているのか?)


 剣を握る手が、微かに震えている。

 肉体はリリィの魔力に支配されている。


 だが、その奥底にある魂――かつて帝国を救い、民を愛した高潔な魂は、自らの手で子孫を殺戮することに、血の涙を流して拒絶していたのだ。


「……聞こえるぞ、英雄アルガン


 ゼスは砕けた左腕をだらりと下げたまま、右手の剣も雪に突き刺した。


 完全なる無防備。

 死を受け入れる姿勢。


「その慟哭どうこくが……。貴公ほどの御方が、死してなおそのような辱めを受けているとは……」


 ゼスは血の泡を吐き捨て、ニヤリと笑った。


「ならば、介錯つかまつるのが後輩の務め」


「なに独り言ブツブツ言ってんの? アルガン、殺しちゃえ!」


 リリィが苛立たしげに叫ぶ。

 それに呼応するがごとく、アルガンが疾走する。


 神速の突き。

 一撃で貫く、必殺の軌道。


 ゼスは動かない。

 避けない。

 防御もしない。


 ただ、一点を見据えて――自らの身体を突き出した。


 ズプッ……!


 鈍く、湿った音が雪原に響いた。

 アルガンの剣が、ゼスの鳩尾みぞおちを貫き、背中へと突き抜けた。


「ぐ、ぅぅッ……!!」


 焼けるような激痛。

 命が崩れ落ちる感覚。


 だが、ゼスは倒れない。

 それどころか、貫かれたまま一歩踏み込み、目の前の英雄アルガンを、残った右腕で強く抱きしめた。


「捕らえたぞ……!」


 自らの肉体を「さや」として、英雄の剣を封じたのだ。


「はぁ? なにしてんの、気持ち悪い! アルガン、剣を抜いて! 首を刎ねて!」


 リリィが金切り声を上げる。  アルガンが腕に力を込める。


 だが、抜けない。


 ゼスが全身の筋肉を収縮させ、あばら骨を剣のあごに食い込ませ、文字通り「命がけ」でロックしているのだ。


 至近距離。


 ゼスの顔と、アルガンの兜が触れ合う距離。


ゼスは、血まみれの口を開いた。


「――『帝国の剣は、折れてもなお誇りを失わず』」


 それは、帝国騎士団に代々伝わる「入団の誓い」。

 かつて、英雄アルガン自身が記したとされる、騎士の誇り。


 ピクリ。

アルガンの全身が痙攣した。

リリィの強制支配に、ノイズが走る。


「――『魂はくろがねの如く……死してなお、国を護る盾となれ』!!」


 ゼスの咆哮。

 それは魔力ではない。

 魂の叫びだった。


 百年の時を超え、後輩から先輩へ送られる、魂の合言葉。


「う……あ……ぁ……」


 アルガンの喉から、錆びついた風のような音が漏れた。

 兜の奥の赤い光が消え、一瞬だけ、澄んだ青い光が宿ったように見えた。

 突き刺さった剣から、力が抜ける。


 英雄の手が、迷うようにゼスの背中に回されようとして――止まった。


 呪縛が揺らいだのだ。


「な、なに!? 何が起きてるの!? 言うことを聞きなさいよ! ボクの人形でしょう!?」


 リリィが玉座から立ち上がり、杖を振り回す。

 だが、もう遅い。


 ゼスは懐に手を入れた。  

 そこには、最後の切り札が握られていた。


 『対城門用・魔導爆薬』。


 城壁を粉砕するための、極大の破壊エネルギーの結晶。


「……思い出したか、英雄アルガン。こんなガキの遊び道具にされるなど……あんたも、さぞ無念だったろう」


 ゼスは、抱きしめた英雄アルガンの耳元で、優しく、友に語りかけるように囁いた。


「安心されよ。この身をまきにして、貴公の魂を解放する」


 アルガンの兜が、微かに頷いたように見えた。


「……一緒に逝こう。地獄の底で、酒でも酌み交わそうではないか」


 ゼスが信管を噛み砕く。


 ゼスの胸元から、太陽のような閃光がほとばしる。


「さらばだ、ガイル……後は頼むッ!!」


 轟音。

 音すら置き去りにする衝撃波。

 全てを白く塗りつぶす紅蓮の爆炎が、北の空を焦がした。


 それは、ただの爆発ではない。

 一人の武人が、命と引き換えに放った、帝国最後の意地の輝きだった。


 ◇


 爆風が収まり、黒煙が晴れる。

 そこには、雪原を抉り取った巨大なクレーターだけが残されていた。


 死体はない。

 ゼス将軍の肉体も。

 英雄アルガンの肉体も。


 塵一つ残さず、消滅していた。


 しん、と静まり返る戦場。  丘の上には、ただ一人、リリィだけが立ち尽くしていた。


 彼女のドレスはすすで汚れ、大切にしていたウサギのぬいぐるみは、爆風で片耳が千切れ飛んでいた。


「……ボクの……」


 リリィの肩が震える。

 悲しみではない。純粋な怒りで。


「ボクのアルガンがぁぁぁッ!! よくもッ! よくもボクの最高傑作おもちゃを壊したなぁぁぁッ!!」


 子供の癇癪かんしゃくのような絶叫が、北の空に木霊こだまする。

 リリィは地団駄を踏み、雪を蹴り散らした。


 だが、ふと彼女は動きを止めた。


「……はぁ。やっぱダメだね」


 彼女の声から、ストンと感情が落ちた。


 冷徹な魔女の声色。


「人間ベースの死体アンデッドは、すぐ壊れるし、変な『誇り』とかが邪魔をする。アルガンも最後、動きが鈍ったし……。これだから『人間』は信用できないんだよ」


 リリィは、クレーターを見下ろした。


 そこにはもう、ゼスもアルガンもいない。

 あるのは、雪原に染み込んだ二人の英雄の「血」と、凝縮された「闘気」の匂いだけ。


「いいや。もう借り物は使わない。素材スペックは最高なんだから……ボクが『1』から作ればいいんだ」


 リリィが指先を振るう。

リリィの紋章が赤黒く光る。


 クレーターに散らばっていた血液とマナが、一箇所に吸い寄せられていく。

 将軍の剛力と、剣聖の技量を、極限にまで圧縮する。


「魂はいらない。記憶もいらない。欲しいのは、絶対的な力」


『至高の玩具創造スプリーム・トイ・メイカー


 紋章の光がより強くなり、一つの方向に向かっていく。

 その赤い光が収束し、一人の「人間」が形作られた。


 全裸の青年のようなシルエット。

 透き通るような青白い肌。

 髪は雪のように白く、瞳は血のように赤い。

 その体躯は細身だが、鋼鉄のような密度を感じさせる。


 美しく、そして――決定的に「から」だった。


「うん、完璧」


 リリィがにっこりと笑い、虚空から漆黒の剣を取り出して彼に渡した。


「はじめまして。キミは今日からボクの玩具おもちゃ。名前は――そうだな、『ネロ』でいいや」


 生まれたばかりの人造人間は、表情一つ変えず、無言のまま剣を受け取り、リリィの前にひざまずいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ