表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元女王様Vアバター(中身♂)の皇女、奈落で配信中。~視聴者は最新VR神ゲーだと思ってますが、投げ銭がないと死んでしまいます~  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/23

第14話:腐海の森は除草剤(ハービサイド)で枯死する

「……ふぅ。やっと静かになったわね」


 自称・帝国最強の暗殺者、ガイルとかいう男が去って数分後。

 俺たちは、第5層『深淵の大水槽』の出口である岩場にいた。

 せっかく『サロン仕様ドライヤー』で髪を乾かし、完璧なコンディションに整えたところだ。


 隣では、パンドラ(ミミック)が俺の足元に擦り寄り、箱の蓋をパタパタさせて「撫でて」とアピールしている。

 パンドラも疲れたのだろう。俺はしゃがみ込み、その段ボールの表面を撫でてあげた。


「よしよし。いい子ね」


 パンドラが嬉しそうに震える。

 それを見たリーナが、羨望の眼差しで羨ましがっている。


 その時だった。


 ズズズズズズ……ッ!


 足元の岩盤が微振動を始める。

 水面が異常に盛り上がり、巨大な影が浮かび上がってくる。


「レ、レン様……ッ! 水面が……!」


 ドバァァァァァッ!!!


 湖面が爆発した。

 巻き上げられた水しぶきが、豪雨となって俺たちの頭上へ降り注ぐ。


 現れたのは、全長20メートルを超える巨大な影――第5層フロアボス『メガロドン』だ。

 サメ避けバンドで追い払ったはずの怪物が、出口を守る守護者の本能に従い、最後の最後で俺たちを喰らいに来たのだ。


「ギシャアアアアアアッ!!」


 鼓膜を破るような咆哮と共に、大量の水が滝のように俺を直撃した。


 バシャアアアッ……。


 ……。

 …………。


 俺は無言で、前髪から滴る水を拭った。

 ついさっき、5,980円も出して乾かした髪が。


 サラサラに仕上げた銀髪が。

 生臭い海水で、再びズブ濡れになった。


 パンドラを確認するとやはりパンドラも濡れていた。

 段ボールの大敵である水を浴びて、箱の角が少しふやけてしまっている。

 パンドラが「ひどい!」と言わんばかりにプルプルと怒りで震えると、リーナが血相を変えて駆け寄った。


「た、大変です! パンドラちゃんがふやけてしまいます!!」


 リーナが自分の服でパンドラを拭ってあげている。

 俺は濡れた髪をかき上げ、虚空を見つめた。


『あ』

『あっ!』

『ドライヤーが無駄にwww』

『レン様の無言が一番怖い』

『あーあ。サメ君、君もう死んでるよ』

『俺なら自害するレベルのプレッシャー』


 コメント欄が、俺の静かなる激怒を察知してざわめき立つ。


「……汚いわね」


 俺の声は、自分でも驚くほど低かった。


「私のセットと、パンドラのボディを台無しにしておいて……タダで済むと思ってるの?」


 俺は左手首を掲げた。

 そこには、以前購入した『サメ避けバンド』が巻かれている。


しつけの時間よ。――止まれ」


 俺はダイヤルを回し、出力を『MAX』に叩き込んだ。


 キィィィィィィィィィンッ!!!!


 人間には聞こえない、だが海洋生物の感覚器官を直接破壊するほどの強烈な電磁パルスが、至近距離で炸裂する。


「ギ、ギギッ!? ギャアアアアアッ!?」


 サメが白目を剥いた。

 脳を直接焼かれるような激痛に、巨体がビクンと跳ね上がり、そのまま硬直する。


 麻痺だ。

 神経系を完全に遮断され、ピクリとも動けなくなっている。


『うわぁ……』

『陸上でこれ食らうとか拷問だろ』

『完全に動き止まったw』

『レン様の目が据わってる』

『サメ空気読めなさすぎワロタ』


 コメントが盛り上がる中、俺は動けなくなったサメの鼻先へと歩み寄った。


 手には、愛用の『充電式チェーンソー』。


 ブォン。


 モーター音が響く。

 パンドラも怒っているのか、箱の中からピンク色の触手を伸ばし、チェーンソーの予備バッテリーを掲げて応援している。


 それを見たリーナも、拳を握りしめて叫んだ。


「そうです、レン様に予備電源を供給するのです!」


俺は怒りに唇を震わせながらやつに告げる。


ここは私の領域テリトリーだと言ったでしょう?」


 俺は冷たい瞳で見下ろした。


「さあ、解体の時間よ」


 俺は回転する刃を、麻痺して動けない無防備な眉間へと突き立てた。


「――消えなさいッ!!」


 ズチュンッ!!

 ギュルルルルルルッ!!!


 断末魔すら上げさせない。

 破壊された深海の覇者は、ビクンと一度だけ大きく痙攣し――そして、ただの肉塊へと変わった。


 ◇


 戦闘終了後。

 俺たちは巨大なサメの解体作業に入っていた。


「す、凄いですレン様! 見てください、この断面!」


 リーナが切り落とされたサメの巨大な肉塊を抱え、興奮気味に叫んだ。


回転剣チェーンソーによる超高速切断……細胞が壊れる間もなく断たれています!これなら、魔物の臭みが回る前に『鮮度』を完全に保存できますよ!ほら、パンドラちゃんもどうぞ!」


 リーナが肉塊を放り投げると、パンドラが「ナイスパス!」とばかりに蓋をパカッと開けてキャッチする。

 パンドラは触手を使ってギュウギュウと肉を押し込んでいる。


「ふふ。……まったく、二人して欲張りなんだから」


 俺が苦笑すると、リーナは「学術的標本の確保です!」と言い張り、パンドラは蓋をパクパクさせた。


『リーナちゃん、学者なのに解体手際よすぎん?』

『パンドラちゃんかわよ』

『無限に入るなこの箱w』

『殺伐としたダンジョンに舞い降りた天使(と箱)』

『平和だなぁ(目の前はバラバラ死体だけど)』


 ◇


 肉の回収を終えた俺たちは第6層へ向かった。

 そこは、『腐食の樹海』と呼ばれるエリアだった。


「……うわ、くさ


 足を踏み入れた瞬間、俺は顔をしかめた。

 パンドラも強烈な腐敗臭に反応し、バタン! と勢いよく蓋を閉じて「完全密閉モード」になった。

 箱の隙間から「ムリです」という気配が漂っている。


「ケホッ、ケホッ……! 見てくださいレン様、パンドラちゃんが拒絶反応を!なんでも食べるパンドラちゃんが蓋を閉じるなんて……よほどの猛毒です!」


 リーナが袖で口を覆い、涙目で警告する。


 俺は『Amazone』を開き、[安全・保護用品] カテゴリから対策グッズを購入した。


 『産業用・防毒マスク(有機ガス・粉塵対応フィルター付き)』

 『完全防水・使い捨て防護服(タイベック製・5着セット)』


 俺たちは全身を白い防護服で包み、ガスマスクを装着した。

 パンドラには着せられないので、『食品用ラップフィルム(業務用)』を取り出すと、リーナが「私がやります!」と名乗り出た。


「じっとしててね、パンドラちゃん。これはレン様が授けてくださった『透明な守護結界ラップ』よ……!」


 リーナが手際よく箱全体をグルグル巻きにして防水・防臭加工を施していく。

 テカテカになったパンドラが、少し誇らしげにポーズをとると、リーナも満足げに頷いた。


『なんか始まったぞwww』

『完全に業者のそれ』

『特殊清掃員レン』

『その白い服、Amazonで売ってんのかよw』

『ラップ巻きパンドラちゃんのテカテカ感すこ』

『毒エリアを物理で遮断するのは新しい』

『絵面がシュールすぎる』


 俺たちは霧の中をザクザクと進んだ。

 防護服のおかげで毒は無効。襲い来るゾンビ植物はチェーンソーで伐採。

 サメに比べれば、止まっている植物など雑草も同然だ。


 そして、数日かけてエリアの最深部に到達した。


 そこに鎮座していたのは、この腐海を統べるボス『ロッティング・トレント(腐食の古木)』。


『グオオオオオォォ……!』


 トレントが咆哮し、周囲に猛毒の霧を撒き散らす。

 だが、俺はマスクの下でニヤリと笑った。


(木属性? ……植物相手なら、もっといい手があるな)


 俺は『Amazone』を開き、[ガーデニング・園芸薬剤] カテゴリを検索した。


「……リーナ。下がっていなさい」


 俺が購入したのは、農家や林業従事者が使う「本気」の薬剤セット。


 『背負い式・電動噴霧器(タンク容量20L・高圧ポンプ搭載)』

 『林業用・強力除草剤 "デストロイ・ウッド"(木・竹・クズ用・原液タイプ)』


 キャッチコピーは『根こそぎ枯らす! 再生不可能! 悪魔の生命力もイチコロ!』。


 俺は20kgのタンクを背負おうとしたが。


 スッ。


 ラップ巻きのパンドラが触手を伸ばし、「私が持ちます!」とタンクを受け取ってくれた。


「ああっ、パンドラちゃん! 20kgもあるのに軽々と……!す、すみませんレン様、私の筋力が足りないばかりに……」


 リーナが自分の非力さを悔やんでいる。

 俺は「適材適所よ」と笑い、ノズルを構えた。


「助かるわ、相棒。――さあ、お水(毒)をあげるわ。たくさん飲みなさい」


 ブシュアアアアアアアアアッ!!!


 高圧ノズルから、青色の薬剤が霧となってトレントに降り注ぐ。

 巨木の表面が、液体に濡れたそばから変色していく。


『えっ、水? 水攻め?』

『いや、色がヤバい。青いぞ』

『トレントが……萎れていく!?』

『何今の? 呪い? それとも酸?』

『「除草剤」ってレベルじゃねーぞ!』

『ボス(木属性)に対する殺意が高すぎる』

『これがガーデニング……?』

『俺の知ってる園芸と違う』


『ギャ、ア……!?』


 バキバキバキバキッ……!!


 一瞬で茶色く干からびる。

 幹から水分が抜け、スカスカのスポンジのように風化していく。

 再生能力?

 そんなものは「根」が死ねば機能しない。


『ア……アァ……』


 数秒後。

 巨大なボスモンスターは、完全に枯死した「脆い枯れ木」となり――自重を支えきれずに崩れ落ちた。


 ドサァァァァァッ……。


 パンドラが「やったー!」と触手でピースサインを作り、蓋をパタパタさせた。

 リーナも横でぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「枯れました! 一瞬で枯れましたよレン様!

 これぞ『死の園芸デス・ガーデニング』……!」


 ◇


「……ふぅ。スッキリしたわね」


 ボスを処理し、周囲の毒霧も晴れた。

 俺たちは「浄化」されたボスの部屋(広場)に、拠点となるテントを設営した。


 数日ぶりの休息。

 俺は防護服を脱ぎ捨て、テントの前で優雅に椅子に座った。

 テーブルには、勝利の祝杯として『コーラ(1.5L)』と『ポテトチップス』。

 そして首元には、疲れを癒やす『温熱ネックマッサージャー』。


 足元では、パンドラがラップを解いてもらい、気持ちよさそうに俺の足置き(オットマン)代わりになっている。

 俺はパンドラの背中(蓋)に足を乗せ、その適度な弾力に癒やされていた。

 リーナも緊張が解けたのか、ポテチの袋を抱えてへたり込んでいる。


 ザッ、ザッ、ザッ……。


 その時、森の入り口の方から、重たい足音が聞こえた。

 パンドラが「ヴゥーッ……」と低く唸り、警戒モードに入る。

 俺はそれを足先で「よしよし」となだめ、面倒くさそうに片目を開けた。


 そこに立っていたのは――


「……はぁ、はぁ……ッ!」


 全身ボロボロで、泥とすすにまみれた男。

 見覚えのある、黒尽くめのアサシンだった。


「ひぃっ!? レ、レン様! あいつです! あの不審者です!」


 リーナが悲鳴を上げ、パンドラの後ろに隠れる。

 パンドラも「やんのかコラ」と蓋を半開きにして威嚇している。


「……あ?」


 俺は思わず声を漏らした。

 ガイルだ。

 数日前、帝都へ帰ると言って消えたはずの男が、なぜここに?


(忘れ物でもしたのか? いや、あの姿……)


 服は裂け、全身傷だらけだ。

 新品同様の装備で去っていった時とはまるで違う。

 まるで、身包み剥がされて放り出されたような――。


「……戻ったぞ」


 ガイルが、声を絞り出す。

 その目には、以前のようなギラついた任務への義務感はない。

 あるのは、どこか憑き物が落ちたような、それでいて芯の通った「覚悟」だけだ。


「報告してきた。……そして、捨てられた」


(……ははぁ。なるほどね)


 俺は瞬時に状況を察した。

 この男、馬鹿正直に俺の戦果を報告して、上層部に狂人扱いされたな?

 そして、「無能」の俺と同じように、ゴミとして捨てられたわけか。


「俺も、ここ(奈落)の住人になった。……帝国最強の『影』は廃業だ。これからは、ただのガイルとして、アンタの盾になろう」


 男が膝をつき、頭を垂れる。

 パンドラが「こいつ誰?」と俺を見上げてくる。

 リーナは「え? え? 盾? 襲ってくるんじゃないんですか?」と混乱して目を白黒させている。


 俺(中身)の計算機は冷徹に動いていた。


(……面倒くさい。人手が一人増えたら、食費もかかるし、テントも狭くなる)


 だが、同時にこうも思った。


(こいつは使える。リーナは知識担当だが、恐らく戦闘力は皆無だ。対してこいつは腐っても元・アサシン。重い荷物を持たせたり、雑魚を散らしたりする「前衛(肉壁)」としては、これ以上ない人材だ)


 俺はコーラを飲み干し、わざとらしく深いため息をついた。


「……ゴミが増えたわね」


 冷たい一言。

 しかし、このまま野垂れ死にされても、死体が腐って迷惑だ。

 俺は足元のパンドラをトントンと爪先で叩き、合図を送った。


「パンドラ、あれ出して」


 パンドラは「えー、あいつにあげるの?」と少し不満げに蓋を揺らしたが、すぐに渋々といった様子で中身を吐き出した。


 ポーン、ポーン。

 宙を舞ったのは『湿布』と『栄養ドリンク』。


「勝手についてくるのは止めないけど。死なれたら目覚めが悪いわ。……さっさと治して、荷物くらい持ちなさい」


 ガイルは飛んできた小瓶を受け取り、呆気にとられた顔をした。

 そして、俺の意図(というより打算)をどう解釈したのか、ククッと喉を鳴らして笑った。


「……御意」


「ええええええっ!? れ、レン様!? こ、この不審者を連れていくおつもりですか!?」


 リーナが驚愕して叫ぶが、もう遅い。

 俺はニヤリと笑った。


「リーナ、仲良くしなさい。これからは、汚れ仕事は全部この『新入り』にやらせるから」


『あ、あの時のストーカー!』

『生きてたのかよw』

『ボロボロで草』

『レン様、目が完全にゴミを見る目です』

『拾うの? この男拾うの?』

『ペット枠:ミミック、学者、不審者←New!』

『男への扱いが雑すぎるwww』


 こうして、レンのパーティに「勘違い学者」に続き、「元・帝国最強の暗殺者(無職)」という、最高に面倒くさい男が加わったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ