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元女王様Vアバター(中身♂)の皇女、奈落で配信中。~視聴者は最新VR神ゲーだと思ってますが、投げ銭がないと死んでしまいます~  作者:


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第13話:帝国は『報告』を握りつぶし、最強の暗殺者を奈落へ『出荷(バン)』する

 帝都、皇宮・謁見の間。


 俺は、氷のように冷たい大理石の床に額を擦り付けていた。

 ここは、かつてレン・ヴァーミリオン皇女が「無能」の烙印を押され、追放された場所だ。


 皮肉な話だ。

 今、俺もまた、彼女と同じ場所に立ち、彼女の命運を握る報告をしようとしている。


 背中を冷や汗が伝う。

 俺の言葉一つで、帝国の未来が決まる。


「――報告します。ターゲット、皇女レンの生存を確認」


 俺は声を張り上げた。

 震えそうになる喉を、意志の力でねじ伏せる。


「彼女は『無能』ではありませんでした。むしろ……帝国が保有するあらゆる魔導師を凌駕する、未知の力を有しています」


 俺の声が広間に反響する。

 だが、頭上から降ってくる気配は、期待していた「驚愕」ではなかった。

 肌を刺すような「冷笑」だ。


「……ほう? 無能ではない、だと?」


 宰相の声だ。

 書類をめくる乾いた音が、俺の神経を逆撫でする。


「鑑定結果は『魔力ゼロ』だ。これは神託にも等しい絶対の判定だぞ?それを覆すと言うなら……貴様、どのような『力』を見たのだ?」


「はっ! 彼女は……」


 俺は唾を飲み込み、あの奈落の底で見た光景を脳裏に再生した。

 あの理不尽なまでの暴力。

 魔法の概念を根底から覆す、未知のアーティファクト。


「彼女は、てのひらに収まるサイズの『白きアーティファクト』を所持していました。

 詠唱どころか、魔力充填の予備動作すら一切なし。ただ指先一つ動かすだけで……『上位クラスの熱と風』の暴風と熱量を放出したのです」


 思い出すだけで、顔の皮膚が引きつる。

 あの熱風は、人間の水分を一瞬で奪い取る即死級の攻撃だった。

 あれが量産され、軍事転用されれば、帝国の軍事バランスなど崩壊する。


「さらに、彼女は『唸りを上げる魔剣』も所有しています。刃そのものが高速回転し、触れるもの全てを切断する……。断言します。彼女一人で、一個師団を壊滅させることも可能でしょう」


 報告を終え、俺は頭を垂れたまま判断を待った。

 分かってくれ。

 あの皇女を敵に回してはならない。

  あるいは、今すぐ土下座してでも連れ戻さなければ、帝国は終わる。


 北のオークなどどうでもいい。真の脅威は、足元(奈落)にいるんだ。


 だが。


「……ぷっ」


 誰かが吹き出した。

 それを皮切りに、広間は嘲笑の渦に包まれた。


「くくく……聞いたか? 『掌サイズのアーティファクト』だと?」

「指先一つで暴風? 童話の読みすぎではないか?」

「回転する剣だと? 剣を回してどうする、曲芸師か?」


 宰相が、哀れむような目で見下ろしてくるのが気配で分かった。


「ガイルよ。任務に失敗した言い訳にしては、いささか稚拙ちせつすぎるぞ。あの小娘は、ただの『から』だ。ゴミ捨て場で拾ったガラクタを振り回していたのを、強力な兵器と見間違えたのではないか?」


「ち、違います! あれはガラクタなどでは……!」


 俺は顔を上げた。

 ふざけるな。あの兵器がガラクタなわけがあるか。

 だが、俺の反論は、雷のような一喝にかき消された。


「黙れッ!!」


 玉座の主――皇帝だ。

 彼は不愉快そうに頬杖をつき、汚物を見る目で俺を睨んでいた。


「余は忙しいのだ。北のオークごときに手こずる騎士団の再編もしなければならん。そんな時に……貴様のような『壊れた道具』の妄言を聞かされる身にもなれ」


「へ、陛下……!?」


「貴様は『影』だ。影が主に嘘を吐き、無能を晒したなら……処分するほかあるまい?」


 パチン。

 皇帝が指を鳴らす。

 その合図と共に、背後に控えていた近衛兵たちが、一斉に槍を向けてくる気配がした。


(……あぁ。そうか)


 俺の中で、何かが冷めていく音がした。

 彼らは、真実など求めていない。


「無能皇女を始末できなかった」という失態を犯した部下を、切り捨てたいだけなのだ。


 この国の中枢は、ここまで腐っていたのか。


 俺は、こんな愚か者たちのために、泥を啜り、血を流してきたのか。


「……処分、ですか」


 俺はゆっくりと立ち上がった。

 胸の奥にあった忠誠の火が消え、代わりに冷たい埋み火が灯る。

 俺の実力なら、ここで皇帝の喉笛を掻き切ることも可能だ。


 だが、それはしない。


 そんなことをすれば、国が乱れ、民が死ぬ。


「いいだろう。……この国には、もう俺の居場所はないようだ」


「……貴様、反逆する気か?」


「まさか。陛下の仰せの通り、俺は『壊れた道具』ですよ」


 俺は自嘲気味に笑い、自ら謁見の間の中央にある「処刑用の落とし穴」。

  奈落へと直結するダストシュートへと歩み寄った。

 処刑されるまでもない。


「自分できますよ。……ゴミ捨て場がお似合いだ」


 俺は最後に一度だけ、腐りきった玉座を振り返った。

 節穴共め。よく見ておくがいい。


(後悔することになるぞ。お前たちが捨てたのは、ただのゴミじゃない。

 ……この国を救える、唯一の『希望』だ)


 俺は躊躇なく、暗い穴へと身を投げた。


 ヒュオオオオオ……!


 風切り音が耳をつんざく。

 奈落の底へ落ちていく中、俺は不思議と清々しい気分だった。

 もう、くだらない命令に従う必要はない。

 俺の命を使うべき相手は、他にいる。


 ◇


 ドォォォンッ!!


 激突。

 第1層のゴミ山に、全身が叩きつけられる。

 俺は受身を取り、腐肉の山から這い出した。

 痛みが走るが、俺の目に宿る光は消えていなかった。


 俺は短剣を杖代わりに立ち上がり、奈落の深淵を見据えた。

 遥か下層。そこにいるはずの「希望」を目指して。


「……待っていてくれ、レン皇女」


 俺は口元の血を拭い、一歩を踏み出した。

 あの理不尽な暴力。あの圧倒的な支配力。

 あれこそが、滅びゆくこの世界に必要な「王」の器だ。


「この命、貴女の覇道のために使い潰してやる」


 傷ついた体を引きずり、俺はひたすらに潜った。

 第1層、第2層、第3層……。

 魔物を殺し、かつてレンが通った道を、鬼気迫る執念で追いかけていく。


 全ては、あの規格外の皇女に追いつくために。

 帝国最強の『影』は死んだ。


 これより生まれるのは、女王の忠実なる『盾』だ。

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