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元女王様Vアバター(中身♂)の皇女、奈落で配信中。~視聴者は最新VR神ゲーだと思ってますが、投げ銭がないと死んでしまいます~  作者:


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第11話:帝国の密偵は『水着(スキン)魔術』の脅威に戦慄する

 帝国の密偵、ガイル。

 俺は今、第5層の岩陰に潜み、自身の正気を疑っていた。


「……なんだ、あれは」


 視界の先、水中を猛スピードで疾走する二つの影がある。

 ターゲットである皇女レンと、その従者だ。

 だが、俺が驚愕したのはその速度ではない。


 彼女たちの「服装」だ。


 従者は、身体にピッタリと張り付く紺色の極薄素材(スク水)を纏っている。

 そしてレン皇女に至っては、黒い艶やかなビキニで、白い肌の7割が露出している。


「……防御を捨てた、だと?」


 常識的に考えれば自殺行為だ。

 水棲魔物の牙にかかれば、あの柔肌など一瞬で裂けるだろう。

 だが、彼女たちの動きには迷いがない。

 それどころか、あの露出度で、魚よりも速く深海を制圧している。


 俺の脳内で、戦慄と共に一つの仮説が組み上がった。


「まさか……特攻の儀式か……!?」


 ダンジョン内の高濃度な魔力を、皮膚からダイレクトに取り込むための儀礼用装束。

 通常、魔導師はローブで身を守る。

 だが、彼女はあえて防御を捨て、その全身を媒介にすることで、爆発的な機動力を得ているのだ。


「命をチップにして、出力を底上げしているというのか……!  なんて恐ろしい覚悟だ……!」


 さらに、彼女たちが掴まっている奇妙な流線型の機械。

 無詠唱で水をかき分け、推進力を生み出す未知のアーティファクト。


 そして――決定的な瞬間が訪れた。


 ゴゴゴゴゴ……ッ!


 前方の暗がりから、第5層の主、巨大鮫『メガロドン』が現れたのだ。

 遭遇すれば部隊が全滅する、海の災厄。

 だが、黒い水着の皇女は止まらない。

 彼女はただ、左手首を軽く掲げただけだった。


 ――キィン。


 俺の耳には届かない「何か」が放たれた瞬間。

 殺意の塊だったメガロドンが「ビクッ!」と痙攣けいれんし、恐怖に怯えるように反転して逃げ出したのだ。


「……バカな」


 魔法の光は見えなかった。

 ということは、あれは『覇王の威圧』。  

 生物としての格の違いを、視線だけで理解させたというのか。


「……報告しなければ」


 俺は震える手で、懐から通信石を取り出した。

 彼女を「無能」と断じた帝国の判断は、致命的に間違っている。

 これは「から」ではない。底なしだ。


 ◇


 ――ザザッ……ザザザッ……


『……ガイルか。定時連絡には早いが、報告はなんだ』


 通信石から、宰相の不機嫌そうな声が響く。

 背後で書類をめくる音や、慌ただしい足音が聞こえる。どうやら向こうも忙しいらしい。


「報告します。ターゲット・レン皇女を捕捉。……結論から言います。彼女は『無能』ではありません。第4層のボスを単独撃破し、現在は第5層を『散歩』する余裕を見せています」


『……は? 何を言っている?』


 宰相の声が冷ややかになる。


『貴様、ダンジョンの瘴気ガスにやられたか?  あの娘は鑑定で「魔力ゼロ」と出た、正真正銘の無能だぞ。ボス撃破? ありえん。どうせ、皇家の宝物庫から盗み出したアーティファクトでも使ったのだろう』


「違います! 私も最初はそう思いました!ですが、彼女が使う術は未知の系統です。物質を書き換える錬金術に、皮膚から魔力を吸う高速機動……!彼女は、帝国が切り捨ててはならなかった『傑物』の可能性があります!」


 俺は声を荒げた。  だが、返ってきたのは呆れたような溜息だった。


『フン。恐怖で目が曇ったか、ガイル。……いいか、今、北の国境で小規模な魔獣の暴走が起きているのだ。たかがオークの群れだが、数が多い。騎士団の手配で忙しいのだよ。そんな時に、追放された小娘の妄言を聞いている暇はない』


「……北のオーク、ですか」


『そうだ。貴様もプロなら優先順位を理解しろ。……その娘が強力なアーティファクトを持っているなら、娘を殺してでも「それ」を奪い取れ。道具だけ持ち帰れ。それが命令だ!』


 プツッ。ツーツー……。


 通信が一方的に切られた。俺は通信石を見つめ、深いため息をついた。


「……やれやれ。現場を知らない上司を持つと苦労する」


 北のオーク騒ぎなど、帝国の騎士団なら数日で鎮圧できるだろう。

 そんな「日常茶飯事」と、目の前の「異常事態」を天秤にかけ、あまつさえ見誤るとは。


 俺は、水流の彼方へ消えていく黒い水着の背中を見つめた。


「殺して奪え、か」


 宰相は簡単に言うが、相手は深海の王者メガロドンを目だけで追い払う化け物だ。

 俺が奇襲を仕掛けたところで、あの第4層の残骸ゴミのように「処理」されるのがオチだろう。


「……命令通りの特攻アタックは御免だ」


 俺は首を横に振った。

 暗殺は無理だ。リスクが高すぎる。


 ならば、プランBだ。


「接触して、探りを入れる」


 彼女が何者なのか。その「力」の正体は何なのか。

 直接会話をして、こちらの敵になるか味方になるかを見極める。

 あわよくば、上手く丸め込んで「帝国に復帰させる」ことができれば、俺の手柄にもなるし、命も助かる。


 まあ、十中八九、不審者を見るような目をされるだろうが……殺されるよりはマシだ。


「……さて、どうやって声をかけたものか」


 あの格好の美女に、薄暗いダンジョンの奥底で声をかける。

 どう考えても事案だが、背に腹は代えられない。


 俺は影に溶け込み、彼女たちが上陸するであろうエリアの出口へ向けて移動を開始した。

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