浄化3【恋炎】前編
このお話の主人公の名前【澪】読みはみおです。
---
声をかけられたあの日から、澪の心には小さな炎がじわじわと灯っていた。
最初は軽い気持ちで、ただ少し楽しい時間を過ごしただけだった。
しかし、数回のデートを重ねるうちに、心の炎は知らぬ間に大きくなり、澪を燃やし尽くす勢いになっていた。
夜の街の冷たい風も、胸の熱を冷ますことはできず、連絡が来ないたびに胸が締めつけられる。
思わずスマホを握りしめる手が震え、唇も小さく震えた。
次に会う日を決める日のラインを送ってから、
彼からのラインの返信が来なくなって7日がたった。
「どうして返事くれないの…?」
頭の中は、彼の笑顔や言葉、仕草で埋め尽くされていた。
仕事中も、家に帰っても、思考のすべてが彼でいっぱいになる。
自分でも止められないこの想いに、胸が押し潰されそうだった。
「まだ付き合ってもいないのに、どうして……こんなに苦しいの……」
毎日暇があれば返信がないかスマホを気にして過ごす日々、返信が無くても駄目だとは分かっているのに続けて追いラインをしてしまう。
そんな苦しい恋の炎が、澪の心を焦がしていた。
彼からの返信を待ち続ける日々。
心の炎が焦げるように熱く、何も手につかない。
そんな時——スマホの画面がひとつ光った。
思わず息を飲む。指先が小さく震える。
久しぶりの連絡。
胸の奥で期待と不安が入り混じり、小さな鼓動が早鐘のように鳴る。
目の前の光を、どうしても見逃せず、澪はゆっくりと画面をタップした。
画面を開いた瞬間、胸の奥で喜びが弾けた。
けれど次の一文を読んだ途端、その光は粉々に砕け散る。
待ち望んだ連絡は、2週間も前から楽しみにしていたデートの約束のキャンセルの連絡だった。それも前日の夜になってだ。
「仕事でトラブルが起こり申し訳無いけど、行けなくなってしまった」と、
たったそれだけの返信だった。
画面を開いた瞬間の喜びが大きかっただけに、絶望は胸を締めつけるほど激しかった。
その知らせが届いた瞬間、澪の中で抑えていた感情が一気に爆発した。
頭では分かってる、仕方ないことだって——
でも、心はどうしてもそれを受け入れられない。
楽しみにしていた気持ちが、痛いほど胸を締めつける。
涙が溢れ、頬を伝い、夜風に混じってこぼれ落ちる。
「なんで……会えるって…凄く…楽しみ…に…」
声が途切れ途切れに呟き、嗚咽を漏らしながら、澪は帰宅途中で立ち尽くした。
冷たい夜の空気の中で、心の炎はますます熱く、そして苦しく燃え上がる。
声も出せず、ただ涙だけが止まらなかった。
胸の奥で、抑えきれない想いが、彼の不在が全身を貫くように痛みとして響いた。
手が震え、指先に力が入らない。
澪はその場にしゃがみ込み、両手で顔を覆い、夜の街に一人で泣き続けた。
心の中の恋の炎は燃え盛るばかりで、どうすることもできない。
この苦しさ、この熱、この孤独——すべてが彼への想いの形だった。
やがて、遠くに街灯の光が揺れ、澪は嗚咽を漏らしながらも、少しずつ心を抱え直す。
きっとまた返信を待つだけで苦しくなるのは分かってるのに。
「大変だね!大丈夫??」とだけ返して
この夜の苦しさと情熱を抱えながら、家への帰り道を歩き出した。
こんなにも苦しいのにどうしても返信を待ってしまう。
スマホを見ながら歩くのを辞められない。
画面には彼からの連絡はまだ届かない。
胸が締めつけられるようで、心臓が早鐘を打つ。
焦る気持ちと、まだ消えない想いが手元の小さな光に反射し、涙で画面がぼやけていく。
そんな中、ふと目の前にひっそりと佇む神社が現れた。
「こんな所に神社あったんだ……」と、澪は小さく呟いた。
鳥居をくぐると、夜の静けさと木々の香りに包まれ、街のざわめきや胸の痛みが少しずつ遠ざかる。
参道には古い灯籠が並び、風に揺れるその小さな光が、澪の涙で濡れた頬に柔らかく反射する。
澪は深く息を吸い込み、そっと涙を拭った。
社殿に向かって歩みを進める足取りは、まだ重いけれど、少しだけ柔らかくなった。
まだ恋は終わらない——その想いを胸に抱えたまま、澪は夜の神社にたどり着いた。
初めて、自分の心にほんのわずかな安らぎを感じ、涙は静かに落ち着きを取り戻した。
肩の力を抜き、灯籠の光が道を照らし、夜風に揺れる木々の影が頬に触れる。
後編に続きますー。




