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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

作者: Tuxedo cat


小5の夏休み、クーラーの効いた部屋で聴く蝉たちの合唱。外から自転車のベルと僕を呼ぶ声が聞こえる。

玄関の扉を開けるとそこには虫籠を持ったクラスメイトであり、友人のショウジ君がいた。


ショウジ

「マサト見てくれよ!俺もしかしたら新種の蝶を捕まえたかもしれないんだよ!」


そうして新種の蝶が入っている籠を目の前に掲げる。

しかしその蝶をよく見てみると大きさは大人の手ぐらいで、胴が太く、櫛状の触覚で、羽を広げて止まっている。


マサト

「ショウジ君、これ蝶じゃなくて蛾だよ…」


ショウジ

「え!?これ蛾なの、なんだよ〜期待して損した。」


マサト

「でもこんな蛾、今まで見た事ないよ。」


僕は今までにいろんな昆虫図鑑で蝶や蛾を見てきた。けれどもモヤがかかった赤黒い柄、人の充血した目の様な気味が悪い眼状紋、物凄く人に害を与えそうな見た目をした蛾なんて見たことがない。


マサト

「とりあえず、僕の家にある図鑑で調べてみよう。もしかしたら載ってるかも。こんな派手な見た目なんだし。」


ショウジ

「いいね、でも早く標本にしてみたいからさ、図鑑持ってきて俺の家で一緒に調べてみようぜ。」


マサト

「うん、わかった準備したらすぐショウジ君の家いくね!」


僕は家にあるいくつかの図鑑を持って、自転車を漕いでショウジ君の家に向かった。


ショウジ

「標本にする準備をするからさ、先部屋に行っててよ。」


ショウジ君は蛾を標本にする準備をするようだ。僕は先に2階にあるショウジ君の部屋へ入り、図鑑を開いてあの蛾を探してみる。けれど僕が持ってきたどの図鑑にも載ってはいなかった。ショウジ君の本棚から違う図鑑を手に取ろうとした時だった。


ショウジ

「うわ!なんだコイツ!」


下の階からショウジ君の驚く声が聞こえて僕はすぐに駆けつけた。駆けつけてみるとショウジ君の顔や腕に蛾の鱗粉のようなものが付着していた。


ショウジ

「コイツを窒息させようとしたら羽をバタつかせて鱗粉を撒きやがったよ。マジで最悪…」


マサト

「なんか拭くものが必要だね、蛾の窒息はできた?」


ショウジ

「うん、次は冷凍庫に30分くらい入れて完全に殺すところ。」


顔や腕を拭き、冷凍庫で殺しきっている間に再び部屋で探してみた。結局、ショウジ君の持っている図鑑からもあの蛾のことは一切出てこなかった。そこで1つ疑問があった。


マサト

「あの蛾ってどこで捕まえたの?」


ショウジ

「捕まえた場所は俺の家から歩いて20分くらいの所。

あれだよ周りにめっちゃ田んぼがあるけどそこだけ何も開拓されてないような森みたいなとこだよ。」


マサト

「もしかして鎮守の森こと?」


ショウジ

「そう、そこだよ。」


僕の住んでいる町には割と大きめの鎮守の森がある。

あそこは木が生い茂っていて、森の真ん中に社があるらしいがあまり手入れをされていないから昼間であってもとても暗いのである。

そのため皆気味悪がって近づく人などいない。周りの人は異界の森やら幽霊林と呼んでいる。


マサト

「よくあんな所1人でいけたね。」


ショウジ

「まぁ正直怖かったけどああいうところにいい虫がいる気がするんだよ。もしあの蛾が新種だったらどうする?」


マサト

「お父さんから聞いたんだけだたしか新種らしいものを見つけたら、形態とか生態とか調べて論文として発表する必要があるって言ってたな。論文をどこに出すかは聞かないとわからないけど。」


ショウジ

「論文か…そうだ!夏休みの宿題の自由研究の題材にして、一緒に研究しようぜ!」


マサト

「2人で作った自由研究って先生に許してもらえるかな…」


ショウジ

「2人分の量にすれば問題ないっしょ!生態調べるために明日ちゃんと生きてるヤツ捕まえるか!」


2人で自由研究の内容を話し合っているうちにあっという間に30分が経っていた。

下に降りて標本にする作業を僕は眺めてる。蛾を冷蔵庫から取り出し、展翅板の上に乗せて昆虫針を刺す。翅の形を整え、展翅テープで押さえてベランダで2、3週間乾燥をさせるらしい。


ショウジ

「よし、一旦ゲームしようぜ。」


それから僕らは蛾のことや自由研究の事を忘れてゲームに没頭していた。気がつけば門限の時間が近づいていた。


マサト

「うわ!もう僕帰らないと。とりあえず明日は何時に集まる?」


ショウジ

「明日は10時くらいに俺の家に集まるか。」


そうして僕はショウジ君の家を出たがふと疑問に思った。

(あの蛾って夜行性なのか、それとも昼行性かどっちなのだろう?)

僕は少しだけ急いで鎮守の森へ向かった。


少し急いで向かったので10分ちょっとで到着した。

森の近くのあぜ道に自転車を停めて森へ近づく、日が少し落ちかけていたのもあり、不気味さが際立つ。

森に入ろうとした時後ろから「おい!」と声をかけられた。僕は驚き振り向くと近くの田んぼで作業をしていたと思われるお爺さんが目の色を変えて話してきた。


お爺さん

「坊主そこで何をやってる!もうすぐ日が暮れて危ないから早く帰れ!特にこの異界の森は危険だから夜に近づくな!」


僕はお爺さんの一言に気圧されて森に入るのを諦め、逃げるように帰って行った。

門限ギリギリで家に着くとすぐ夕飯になった。父に新種らしき蛾の事を話す。父もかなり興味を持って話を聞いてくれたが話している最中に思い出した。

ショウジ君の家に図鑑を忘れていた事を。


翌日、僕はショウジ君の家に向かった。

ショウジ君の家に着き、家のチャイムを鳴らすが応答がない。もう一回チャイムを鳴らしても応答がなく、5分程待ってもやはり来ない。よくない事と分かりつつも玄関の扉に手をかけると鍵がかかっておらず扉を開くことができた。

家に入ると甘い刺激臭があった。香水や洗濯の柔軟剤の匂い、花や果物系といった甘い香りとは違かった。

昨日家に上がった時にはこんな臭いはしなかった。

玄関にはショウジ君と両親の靴があり、家にいる事は確かである。リビングに顔を出してみるとダイニングテーブルには昨日の夜の夕飯の皿やらがそのままになっていた。どうしても臭いが気になったので窓を開け、2階のショウジ君の部屋に向かう。2階はさっきに比べて臭いがキツくなっている。ショウジ君の部屋の扉を開けるとショウジ君が蹲っていた。しかしこの部屋はどこか異様雰囲気があった。


マサト

「ショウジ君どこか痛いの?」


ショウジ

「マサト…はやく…帰ったほうがいい。……自由研究とあの蛾の事を忘れて…」


どうしてそんな事を言っているのかさっぱりわからなかった。だがその意味をすぐ知ることになる。

ショウジ君はフラつきながらも立ち上がり、左腕を出す。ショウジ君の目は物凄く充血していて、身体中にあの蛾の眼状紋が浮き出ている。そこから剥がれ落ちるようにボロボロと大量の蛾が出て崩れ落ちる。よく見るとすでにショウジ君の右腕は無くなっていた。


ショウジ

「俺の父さんも…母さんも…崩れて蛾になって…飛んでいったよ…俺もそうなるから…はやく帰って…蛾の事は忘れて…」


僕はただ何もしてやらずにショウジ君のから蛾が出て崩れる様を見ることしかできなかった。

ショウジ君が完全に崩れて落ち、部屋を見渡すと蛾は羽ばたいてどこかにいってしまった。

僕は頭が真っ白になって何が起きたのか処理をしきれないまま図鑑を回収し、あの蛾の標本を乾燥させているベランダに行く。

しかしベランダには空の標本箱の中に折れた昆虫針しか残っていなかった。

真っ白な頭の状態でそのまま家に帰る。

僕は家に帰り、夜まで寝込んでいた。

その日の夜ショウジ君があの蛾を捕まえた鎮守の森で火災があった。

どうやら不良高校生たちが肝試し感覚で森に入り、花火をしたらしい。その高校生の言っていたことによると花火をしていたら大量の赤黒く、大きい蛾が襲ってきて、花火をそのまま置いて逃げ出したのである。

森は全焼、近隣の田んぼにも被害が出たらしい。

あの蛾について知る術を全て断たれてしまった。

夏休みが明けて普段の学校に戻り、朝の会でショウジ君一家は行方不明になったと伝えられた。

それ以降、ショウジ君に関することは一切耳にしなかった。


【後日談 とあるテレビ番組にて】

毎週火曜日の20時放送の動物に関するテレビ番組にて


夏の昆虫大特集スペシャルという回で話題の昆虫研究者が取り上げられた。紀州キシュウ 将人マサト48歳、彼は今までに多くの新種の昆虫を発見している。その中に彼のインタビューのシーンがあった。

最初はどうやって新種の昆虫を探しているといった質問であったが質問の中に「なぜ昆虫研究者になったのか?」といったものがあった。


紀州将人

「私が昆虫研究者になったワケとしましては昆虫が好きだからといった理由もあるんですけど第一に私には探している昆虫というか蛾がいるんです。それがこれです。」


そうして紀州将人本人が書いたのであろう赤黒い蛾の絵を出した。その絵を出した途端、スタジオは不気味なものを見せられたようなリアクションで溢れていた。


紀州将人

「私はこの蛾を探しています。もしご存知の方がいらっしゃるのであればご連絡ください。」


そうしてインタビューは終わり、番組は普通に進行して終了した。この番組がOAされた3年後、紀州将人は行方不明になった。






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