ある剣の物語
ワタシの最初の主は小国の王であった。小さな国ではあったが、民は皆満足ではなかった
が幸せな生活を送っていた。王は人望があり、また民の声に耳を傾けるよき王であった。
しかし小さな平和が長く続くことはなく、隣国の侵攻により国は落とされた。
そうしてワタシの主は小国を落とした隣国の王族のものへと移り変わっていった。
その王族は栄華を極めた。数多くの戦争に勝ち、領土も金も得た王族はその大陸の帝国の主として君臨し、王族の代が変わるとともにワタシの主も変わっていった。
代々王のモノとして扱われたワタシは人々にとって強さの象徴となった。
王族は栄華を極めたが、その下に多くの民の苦しみや不満が募っていたのは火を見るよりも明らかだった。
革命により王族は皆殺しにされ帝国は崩壊、統治者をなくした人々は散り散りになり大陸には多くの小国が発生した。
そこからは血の嵐だ。
小国の長たちは終わりのない戦争の中で力の象徴を求めた、それがワタシであったことは言うまでもない。
長たちはワタシを求め殺しあった。ワタシを手に入れた者は別の者に殺され、その者もまた別の者に殺される。
ワタシは長の欲望に応え我が力を見せつけた。
そんなことを何年も繰り返すうちに、人々にある一つの噂が流れ始めた。
ワタシを手に入れたものは死の報いを受ける。ワタシは災禍の火種であると。
長たちの態度は一変し、ワタシを求めることはなくこれまでとは正反対にワタシを避け、人々はワタシを恐れるようになった。
力を求めることから離れるようになった長たちは戦争をやめ、平和的解決で各々の領土を決めるようになっていき血で血を洗った時代が嘘のように静かに、そして穏やかに時は流れた。
ワタシはこの結果を実に皮肉的で人間というものを見せつけられたように思う。
それから数年がたち、それぞれの小国を共和国としてまとめる者が出てきた。
この者が私の最後の主となった。
こやつは本当に面白く感動を与えてくれるものであった。
人柄は最初の王のように穏やかで民の話をよく聞き、多くの人に愛された。
その様子を間近で感じているとなぜかワタシも救われるように感じることさえあった。
共和国の宣言をする際この者は災禍の火種といわれたワタシを皆の前に出し、高らかに
「これは災禍の火種なんてものではない、ただ誰よりも戦を民を見続けた王の剣である」
と言った。
そのときに気づいたのだ、ワタシを災禍の火種にしていたのは、力を求める者だけでなくそれに応え、力を振るい続けたワタシ自身だったのだと。
この者はワタシをただの剣に戻し、そして国を見渡すことのできる丘に突き刺した。
時代が流れ人々は戦いの歴史を忘れワタシのことも記憶から薄れていった。
こうしてワタシは民を見守る名もなき剣となった。