第七話:縫い封じ
花妃の衣裳を預かる縫製部屋。
凌華は、衣の襟裏に細く刺し込まれた“銀の細線”を見つけた。
「やっぱり……。刺繍の糸に見せかけた“封導糸”。これは、気脈を部分的に閉じる術糸よ」
金ではなく銀。それは気の流れを“沈黙”へ導くための糸だった。
「どうしてこんな高度な手口が使われてるの……?」
悔しげにそう呟いたとき、宦官見習いの翠道が、衣装目録の控えを手に駆け寄ってきた。
「凌華様、この衣、妃様の姉君から送られたものとあります。“寧家”の家紋が――」
また、寧家。
(沈心香、銀糸、封導の香術……すべて寧家が関わっている)
凌華の脳裏に浮かぶのは、あの夜の父の姿。
なぜ父は“寧家の薬帳”を手にした直後に死んだのか?
その答えが、この後宮の中に、香と衣の中に、まだ眠っている。
「翠道。裁縫場の女官たちで、寧家出身の者を調べて。できれば、香術に通じる者も」
「はいっ!」
凌華は沈黙する花妃をもう一度診ながら、胸に誓う。
(あなたの言葉も、父の死も、そして後宮の闇も……必ずすべて暴く)
香は、目に見えない刃となり、今日も誰かを沈黙させている。
ならば、医の手で――その刃を断ち切る。