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第四話:薬壺に潜む影
診療所の薬棚。その一角で、凌華は眉をひそめていた。
「……これは、おかしい」
棚に並ぶ薬草の中に、一種類だけ配合の異なる薬包が混ざっていた。
見た目は同じ。だが香りが微かに鋭く、指先がわずかに痺れる――“何かが入っている”。
(沈心香の微粉……? まさか、薬房にまで手が入ってる?)
後宮内で使われるすべての薬は、基本的にここの薬房を通す。
つまり、ここが毒を仕込む“最短経路”でもあるということ。
凌華は見習いの宦官を装った青年・翠道を呼び寄せる。
「この薬包、どの妃に送る予定だったか分かる?」
「はい。これは……白蓮妃様です」
胸がざわついた。
(やはり――白蓮妃も“次の標的”にされていた)
その時、薬棚の裏に小さな巻紙が差し込まれていることに気づく。
引き抜くと、そこには墨でこう記されていた。
>《同じ香を焚く者は、同じ死を得る。》
そして巻紙の下部には――以前見た、父の耳飾りと同じ、三日月紋の印。
(あの死の夜と、同じ印……)
父を殺した者が、今もこの後宮にいる。
その事実が、まるで毒よりも鮮明に、凌華の胸に広がっていった。