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第二話:血脈を封じる香
夜。薬房の灯火の下、凌華は手元の香灰を砕き、薬匙で分量を量っていた。
「……やっぱり、《沈心香》に間違いない。だが、精製度が異常に高い」
香料に混ぜられていたのは、通常宮中では出回らぬ“濃縮型”。
体質によっては、脳を眠らせ、気脈を封じ、死に至らせることすらある。
しかも――それを焚いていた部屋に、誰も香毒を感じていなかった。
(沈心香を毒として使うには、“補助術”が必要。つまり、ただの香では殺せない)
脈を封じる技――古の東医術《封気術》。
それを使える者は限られている。
だが、もしもこの後宮に“それを使う誰か”が潜んでいるとしたら――?
凌華は、小箱に入れていた“ある耳飾り”を取り出す。
それはかつて、父が亡くなった夜、そばに残されていた唯一の遺品。
「……また、あの時と同じ」
あの日の香。眠るように死んでいた父。
それは自然死で片づけられたが、違和感だけがずっと胸に残っていた。
凌華は静かに誓う。
(私は“治す”ためにここに来た。でも今は、“暴く”ために診る)