第十二話:香封の対決
禁苑の香炉に残された“封じ香”の灰をもとに、凌華はついに対抗香を完成させた。
それは気脈の封じを逆転させ、術者の痕跡を体外に浮かび上がらせる――いわば“解術香”。
その香を携え、凌華は白蓮妃の間へと再び赴いた。
「私が行かねば、また誰かが香に沈黙させられる」
妃は既に術香を焚かれ、またもや声を失いかけていた。
部屋には、かつての養母――寧 華蓮が、侍女として控えていた。
「……また医術か。あの者の娘が、何を治せると言うの?」
凌華は黙って香炉に解術香をくべる。
室内に立ち込めたのは、わずかに酸味のある香気。
寧華の表情が凍った。
「その香……まさか……!」
「これは術を“解く”ための香。あなたが縫い、焚き、封じたものを――私がすべて診て、断ち切る」
妃の指が震え、唇がわずかに動いた。
「……りょ、う……か……」
「妃様、もう少し。すぐに、言葉が戻ります!」
すると、寧華が懐から黒い香包を取り出し、香炉へ投げ込もうとする――
「させない!」
翠道が飛び込み、香包を弾き飛ばした。
「医術は、剣より早く香を断つ!」
凌華は一瞬の隙に、妃の喉元へ針を一本、正確に打ち込んだ。
その瞬間、妃の体が震え、咳き込んだあと、はっきりと叫んだ。
「寧華が……わたくしを殺そうと……した!」
部屋は静まり返った。
香の術は破られ、声が戻った瞬間、寧華の表情から血の気が引いていった。
「あなたの術は、香でも衣でも隠しきれない。“診た”私が、全部記録したわ」