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プロローグ: ──後宮・診療所。夜更け。

茶を一口飲み、眠そうな目をこする女医見習い・凌華は、山積みの症例簿にため息をついた。


「また妃様が倒れた? 今度はどこの?」


 


返事をしたのは下女の一人。


玉瓔ぎょくえい妃様です……。昨夜の晩餐の後、眠ったままお目覚めにならず……今朝には……」


 


「死んだのね」


 


「は、はい……」


 


凌華は立ち上がり、鞄を持って振り返る。


「現場は?」


 


「すでに片付けが……」


 


「無駄なことを。医者にとって現場は“初診”よ。片付ける前に呼ぶこと。次に死んだら、あんたが殺したも同然よ」


 


冷たい口調。けれどそれは、本当に命を見つめている者だけが持つ言葉。


 


凌華は妃の寝所へ向かうと、体を冷静に診て、ある異常に気づく。


「この脈の止まり方……呼吸の途絶……ありえない。まるで“術で封じられた”ような……」


 


そして、枕の下に落ちていた“香の灰”。


 


「……あの香。まさか……《沈心香》?」


 


心を沈めるはずの香が、逆に命を奪う?

誰が、なぜ、そんな矛盾した薬を使ったのか。


 


「なら、これから診るのは《体》じゃない。**後宮という“病”**そのものね」


 


そうして彼女は、静かに白衣の袖をまくった。



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