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ピッチとピクセル  作者: やしゅまる
5/10

第5話『“がんばるサッカー”からの脱却』

「東龍館……か」


義隆は、対戦カードが記された紙を見つめながら小さく息をついた。

福岡県屈指の強豪校。インターハイ常連。清田高校とは文字通り“格が違う”。


「気持ちでぶつかるしかねぇな」

義隆は拳を握る。

「全員、最初から最後まで、全力で走り切れ! 絶対に諦めるな!」


だが、Zoom画面越しの湊は冷静だった。


「“がんばるサッカー”じゃ、勝てないよ」


「……は?」


「“がんばったつもり”になるだけで、勝つための“設計”がない。東龍館は、個の力と戦術、両方ある」


沈黙。義隆は唇を噛んだ。


「……じゃあ、どうする」


「提案がある」


湊の声が低くなる。

画面に戦術図が映し出された。


「守備時は5-3-2。後ろを5枚で固めてブロックを形成。東龍館のウイングに縦を使わせない」

「攻撃時は3-2-4-1に可変。中盤に厚みを出して、蓮を孤立させない。

 中央に人を集めて、前線のサポートに厚みを作る」


「……そんなに動けるか、うちの連中」


「“動かす”のは人じゃない。“配置”が勝手に動かすようにする。それが戦術ってものだよ、父さん」


義隆は、ふっと小さく笑った。


「……分かった。お前の戦術で行く。俺は現場で、お前の目になる」


そして試合当日。


快晴のグラウンド。スパイクを履いた部員たちの顔には、緊張と期待が入り混じっていた。


キックオフ。

前半15分。清田のブロックは崩され、ゴール前で押し込まれる。0-1。

さらに30分。左サイドを突破され、クロスからのヘディングで追加点。0-2。


ハーフタイム。ベンチの雰囲気は沈んでいた。


「やっぱり無理かもな……」

「相手、速すぎる……」


そのとき、義隆が言った。


「おい、湊。どう見る?」


スピーカーから響いた声は、静かで力強かった。


「最初から想定内。あの2点は、こちらが“動ける時間”を稼ぐための捨て駒。

 後半、相手が緩んだタイミングで、こっちの構造が効いてくる」


義隆が立ち上がる。「よし、後半は“考えて”動け!」


後半開始。


まるで別のチームのように、清田の動きが変わった。

DFラインの3人が連動し、SBが中へ絞り、柴田と蓮が中盤の密度を保つ。


57分、中央のパスワークから蓮が抜け出し、1点を返す。1-2。

67分、相手のビルドアップを柴田がカットし、ショートカウンター。再び蓮。——2-2。


スタンドがざわつき始めた。


強豪・東龍館が、無名の公立高校に追いつかれている。


そして、残り2分。


相手の右WGがカットインし、強烈なミドルシュート。

GKの指先をかすめて、ゴール右上に突き刺さる。——2-3。


試合終了の笛が鳴る。


だが、負けたはずの清田高校には、誰もが感じたことのない熱が残っていた。


「……これが、本気で戦うってことか」

蓮が、息を切らしながら呟いた。


ベンチに戻った義隆は、湊に向かって言った。


「“がんばる”じゃなく、“考えて戦う”サッカーを、ようやく始められたな」


湊は、少しだけ笑った。


「じゃあ、次は“勝つ”ための設計をするよ」


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