5.放っておかれるほど彼女のシルエットが膨らむ感じ
午前中のタスコはいつになく気分が上だった。本日バイトなし。側にはいつもチリホがいる。
「きーみはー どーしたいー」
「タスコ、何言ってんの?」
「歌だよ。最近気に入りの。」
「ふーん。タスコは何がしたいと思っているの?」
「……きーみはー どーしたいー」
チリホ、それは辛い質問だ。バイト戦士の気分がやや下降する。タスコは歌いながら優しい過去だけを考える。
昼。チリホの姿がなかった。時々、チリホは何も言わないでいなくなることがある。それはチリホにだって秘密はあるということ。友人の秘密は知りたくなる。放っておかれるほど彼女のシルエットが膨らむ感じ。タスコはなんだか静止していられない。
「きーみはー どーしたいー」
バイトのないタスコには歌うだけが用事だった。
夜、街は遠く、天の川銀河。海峡ブリッジの上、タスコがレンタル車に乗って走っている。助手席にはどこからか戻ってきたチリホを置く。
「タスコすごおいね。いつの間に免許を受けていたんだ。」
「はは。免許なしのドライブがいけないことだとは知ってる。それだけ。」
窓を開けて風が気持ちよい。潮の香り、秘密の香り。夜のドライブは人々を大らかにする。それがチリホにまで適応されるかは分からない。だけど楽しんでくれている様子だ。
『きーみはー どーしたいー……』
「ああ。これはタスコの歌。」
「そうそう私の歌。最近気に入りのね。」
「よき歌だ。」
「最近気に入りだ。」
歌は盛り上がりに入る。この盛り上がりが終わったら、私はチリホに秘密を質問してみよう。海峡ブリッジに渋滞は起きていない。だからどこまでもスピードを上昇できるというのに、いつまでも向こう側に着く気がしないのは私の夜目のせいなのか。
『きーみはー どーしたいー……』
「なあチリホ。本日の昼てさ……。」
私は一体何を迷う? 単純に友達の一日を聞くだけ。おかしなことはない。しかしなんでこんなにも緊張させられている? これは聞いていけないことなのか? 聞けばチリホがまたすぐにいなくなると? 聞けばどうなるのか、私はそれを明確にしたかった。
「本日の昼てさ……チリホ?」
助手席へ向くとチリホの姿が消失。代わりに後ろから声が聞こえる。
「おお、後部座席は柔らかな~! タスコも運転止める?」
助手席から抜け出したチリホだった。
「うおーい、怖がらせないで……。」
「怖がらせ? タスコは誰かに怖がらされた?」
「いいえこっちの話だ。もう……音量を上げる!」
『人に愛されること それよくあること~……』
「タスコ、これ古い歌だ。まだ景気がよかった時代の歌だ。」
「へえ、知っているんだ。するとチリホは昔の音楽に詳しいですか?」
「タスコ。チリホはタスコを愛しています。」
チリホは膝に上って、タスコは恥ずかしくて、海峡ブリッジが向こう側に渡して。
シーズン1『狒々』おしまい。シーズン2『正則行列』はありません。
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