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パルプトランスレーション  作者: ヘルべチカベチベチ
シーズン1『狒々』
9/9

5.放っておかれるほど彼女のシルエットが膨らむ感じ

 午前中のタスコはいつになく気分が上だった。本日バイトなし。側にはいつもチリホがいる。

「きーみはー どーしたいー」

「タスコ、何言ってんの?」

「歌だよ。最近気に入りの。」

「ふーん。タスコは何がしたいと思っているの?」

「……きーみはー どーしたいー」

 チリホ、それは辛い質問だ。バイト戦士の気分がやや下降する。タスコは歌いながら優しい過去だけを考える。

 昼。チリホの姿がなかった。時々、チリホは何も言わないでいなくなることがある。それはチリホにだって秘密はあるということ。友人の秘密は知りたくなる。放っておかれるほど彼女のシルエットが膨らむ感じ。タスコはなんだか静止していられない。

「きーみはー どーしたいー」

 バイトのないタスコには歌うだけが用事だった。

 夜、街は遠く、天の川銀河。海峡ブリッジの上、タスコがレンタル車に乗って走っている。助手席にはどこからか戻ってきたチリホを置く。

「タスコすごおいね。いつの間に免許を受けていたんだ。」

「はは。免許なしのドライブがいけないことだとは知ってる。それだけ。」

 窓を開けて風が気持ちよい。潮の香り、秘密の香り。夜のドライブは人々を大らかにする。それがチリホにまで適応されるかは分からない。だけど楽しんでくれている様子だ。

『きーみはー どーしたいー……』

「ああ。これはタスコの歌。」

「そうそう私の歌。最近気に入りのね。」

「よき歌だ。」

「最近気に入りだ。」

 歌は盛り上がりに入る。この盛り上がりが終わったら、私はチリホに秘密を質問してみよう。海峡ブリッジに渋滞は起きていない。だからどこまでもスピードを上昇できるというのに、いつまでも向こう側に着く気がしないのは私の夜目のせいなのか。

『きーみはー どーしたいー……』

「なあチリホ。本日の昼てさ……。」

 私は一体何を迷う? 単純に友達の一日を聞くだけ。おかしなことはない。しかしなんでこんなにも緊張させられている? これは聞いていけないことなのか? 聞けばチリホがまたすぐにいなくなると? 聞けばどうなるのか、私はそれを明確にしたかった。

「本日の昼てさ……チリホ?」

 助手席へ向くとチリホの姿が消失。代わりに後ろから声が聞こえる。

「おお、後部座席は柔らかな~! タスコも運転止める?」

 助手席から抜け出したチリホだった。

「うおーい、怖がらせないで……。」

「怖がらせ? タスコは誰かに怖がらされた?」

「いいえこっちの話だ。もう……音量を上げる!」

『人に愛されること それよくあること~……』

「タスコ、これ古い歌だ。まだ景気がよかった時代の歌だ。」

「へえ、知っているんだ。するとチリホは昔の音楽に詳しいですか?」

「タスコ。チリホはタスコを愛しています。」

 チリホは膝に上って、タスコは恥ずかしくて、海峡ブリッジが向こう側に渡して。

シーズン1『狒々』おしまい。シーズン2『正則行列』はありません。

そして本作を楽しめた人も楽しめなかった人も、steamで無料体験版が配信中の『MEAT-GRINDER』をよろしく。僕のやりたかったノリとスピード感はこれです。ぜひ日本語でプレイしてください。

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― 新着の感想 ―
連載お疲れ様でした! なかなかの翻訳バグのような世界観と駆け抜けるふたりのクレイジーがディストピアを彩っていました。 面白かったです!
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