第七話 バッタ兄さん
「ここなら、思う存分椅子が振り回せそうね」
「俺はもう我慢できない、椅子を振り回すぞ!」
ゲロは早速、人間の子供で言えば11歳ぐらいとほとんどかわらない椅子を振り回した。
「ここはあたしたちの空き地よ」
あたし、佳代、模酢は、おおはしゃぎして空き地に突撃!
止まらないわ!
これから学校が終わったらここに集合よ!
「ここは僕たちの場所だ!もしくは僕の土地だ!」
「いや、土地は持ち主がいるだろ!?」
「俺は認めねーぞ!」
「知るか!」
「ここに秘密の基地を作ろうよ」
「豚肉で作ろうぜ」
「気持ち悪いよ!牛肉にしようよ」
「どっちも変わらないだろ!」
みんな大盛りあがりで、人間の歴史を振り返っても今まで存在しなかったようなポーズを決めている。
「じゃあ、あたし。基地の材料今度来る時もってくる!ジャガイモでしょ、生クリームでしょ、パルメザンチーズでしょ、それにイタリアンパセリもね」
「何を作る気だよ!」
「ゆり!塩を忘れてるわ!」
と佳代。
「いっけねー」
あたしはペロリ舌を出したり引っ込めたりして、みんなができだけ不快になるようにしてみたわ。
「塩とかそういう問題じゃないだろ!?その材料では基地なんてできないよ」
「いや、これだけの材料があれば平屋の一戸建てくらいはできるだろ」
ゲロはしみじみ言ってんの。
「どう、想像したらそうなるんだよ!」
模酢が叫ぶ。
「・・・ジャガイモのグラタンができるじゃない!その材料があれば!」
「えええ!基地の材料でジャガイモのグラタンができるですって!」
佳代はあまりにもビックリして腰を抜かすどころか、腰が爆発して二キロ先まで吹っ飛んだ。
「基地はできないけどね」
「ジャガイモ!ジャガイモ!」
急にマサコプターが椅子をふりまわしながら騒ぎ始めた。
うわー、ゴッキゲン!だんぜんステキ。
「意味がまったくわからないよ!」
確かに意味はわからないけど、あたしは一緒に叫んでた。
「ジャガイモ!ジャマリル!ハンゴメ!ハンゴロシ!ハンゴロシ!」
その時、いきなり空き地の脇のドブの溝から。
「何、騒いでるんだ!」
痩せた顔にメガネかけた、バッタみたいなお兄さんが叫んだの!
もう、びっくりして万引きGメンに捕まった時の犯人みたいな顔になっちゃったの。
ゲロなんて・・・今はもう動かない。
「ゲロどうしたの?」
あたしたちはあわててゲロのまわりに集まったの。
バッタみたいなお兄さんは。
「どうした?」
とも聞かずに何か言ってる。
バッタ語なのでよくわからないけどね。
「こんなところで騒いでいるからいやだなぁこわいなぁって思ってフッと見たらグワッとなるんだ!ウワァッ!と思いましたけど、そう思った瞬間スーッと何かな~何かな~いやだないやだないやだな~と思いながら自業自得なんですよ、ええ」
もう、わけわかんない。
あたし達は、バッタ兄さんのおもしろい顔に見とれていたんだけど。
「山見さん!」
っと呼ばれて振り返ってみたら、尾田悦子が手を振っている。
「家がすぐそばなの、こっちにいらっしゃい」
みんなはゲロを蹴飛ばして、いそいで尾田悦子の家に入った。
蹴飛ばされたゲロも偶然、尾田悦子の家に入った。
「あのおにいさん。バッタの生まれ変わりみたいでしょ?いつもドブにいるの」
ゲロが床に置いてある横で尾田悦子が言った。
尾田悦子の家は全体的に薄汚れた感じの大きな家。今はリビングでゲロの様子をみんなで見ているの。
「ゲロ動かないね」
佳代は神妙な顔で言った。
「動かないんじゃなくて・・・動けないんじゃないの」
「同じことだろ!?」
こんな時でも模酢が突っ込む。
「それはそうと。あんなおにいさんがいたんじゃ、あの空き地は使えないな」
マサコプターはため息をついて、尾田悦子の家の壁に餃子って大きな字を書いた。
そういえば餃子たべたいなぁ。
「それなら大丈夫。あのお兄さん昼間はいない。ドブに帰ってくるのはいつも五時くらいだから」
「じゃあ、時間さえ気をつければいいわけね」
あたし達は歓声をあげて喜んで、ゲロを蹴っとばした。
だって床でごろごろ寝てて、じゃまなんだもん。
存在もじゃま。
「って言うかさっきの餃子はなんだったの!?」
さっきのマサコプターの字を指差して模酢が突っ込む。
「意味とかはないけど・・・そういう名前の食べ物があるんだよ」
「知ってるよ!餃子は知ってるけど、なんで急に書いたかがわからないんだよ。尾田さんも怒りなよ、家にいたずら書きされたんだよ」
模酢が怒っている。
「いいのよ、模酢さん。だって餃子じゃない」
「・・・だっての意味がわからねー!?」