第五話 レモン
ふう、助かった。
あの嫌な真横と一緒じゃなくてよかった。
とにかく、あたし達とゲロはマサコプターに椅子の振り回し方を教えてもらうことになった。
と言うわけで、あたし達は学校が終わると毎日団地の近くの公園に集まって椅子を振り回す練習をするようになったの。
まず最初にマサコプターが言ったのは、薄切りレモンで頭を守ること。
「なんで薄切りレモンなの?」
あたしは思わず聞いちゃった。
「レモンは、ミカン科の常緑樹で、インド北部が原産地なんだ。1本で100個から150個ほどの果実が採れるんだ」
「一本の木からそんなにとれるの・・・それならここ一週間のできごと全部納得いくわ」
あたしは思わず息をのんだ。
「なんで納得してるの!?意味がわからないよ!レモンで、なんで頭を守るのか全然説明してないじゃん」
模酢が軟らかくジューシーにわめく。
「そのことが聞きたかったのか。レモンはすごく酸っぱくて、pHは2くらいあるよ。 ジュースにしたり、果汁はレモネードとかね。揚げ物にかけたりすることもあるね。ビタミンが多くて美顔用の材料にも使われているね」
「美容にいいなんて素敵!レモンを顔に埋め込みたい!DNAにレモンを組み込みたい!」
佳代は肩や腰など決死のフル回転。
「美容にいいのはうれしいんだけど・・・全然、レモンで頭を守る説明になってないじゃん!?さっきからずっとレモンの説明ばっかりじゃないか!」
模酢は叫んだ。
「そっちか・・・うっかりしいてたよ。レモンの皮を砂糖で煮たものに、グラニュー糖をまぶすとレモンピールが作れて、ケーキなどに使われるよ。輸入されたレモンには輸出時に発癌性のあるポストハーベスト農薬をかけられるので、食べるときは注意してね」
「まぁ、怖い」
「怖いといえば幽霊よね」
あたしと佳代は、意識ははっきりしており、外傷もなかったけどブルブルと震えちゃった。
だってあたし幽霊とかすごく苦手なんだもん。
「じゃあ、そういうわけで。レモンの薄切りつけてね。頭は打ち所によっては大変なことになるからね・・・ヤギが」
「ヤギが!?」
ヤギが大変なことになると聞いて、みんな薄切りレモンを頭にのせた。
「ヤギが大変なことになるから薄切りレモンのせるのかぁ・・・なんでヤギ!ってか頭、全然守れてないよ!薄切りレモンくらいじゃ何もないのと変わらないよ!」
模酢が訴えた模様。
「あとは、肘と、膝にもくっつけてね。もう、これには意味とかないけどノリの問題だから」
「ノリなんだ・・・」
そういうマサコプターは何もつけてない。
あとで聞いてみたら、レモンなんて頭や、肘や膝につけているなんて馬鹿みたいだからだそうだ。
そしてマサコプターはお金持ちのおぼっちゃまらしいの。
でも全然、鼻にかけないし、すごくやさしい。
「椅子を振り回すのが早くうまくなるために必要な物が二つあるんだ。ひとつはお金!もう一つは才能!」
「あっ・・・う・・・」
模酢は思わず絶句。
でも本当のことだからね。
あたしもマサコプターの言ってることが正しいと思う。
「おまえらみたいな者は、金もなければ、才能もないんだろ?」
「はい!ありません!」
あたしと佳代とゲロは声をそろえた。
「すごい認めた!なんでみんなそんな卑屈になってるの!?」
「いい返事だ!特別に僕が日本銀行に無断で発行した、お金をあげよう。いずれこのお金が世界の基軸通貨になりえるポテンシャルを持っていることは、君たちみたいな人たちでもわかるよね?」
「はい、わかります」
あたしと佳代とゲロは声をそろえた。
「それたんなるニセ札だよ!ってかキャラが急に変わりすぎだろ!?」
っと模酢が言ったと同時に
「おい!ここは俺たちが野球する場所だ」
やってきたのは同級生の菊山。
野球道具をおろすと、球場を作り始めたりしてる。
「僕達が先に使っていたんだけど」
マサコプターが穏やかな口調で言ったら、菊山のヤツ
「椅子なんて日本海側の一部を除きほぼ全国的にどこだって振り回せるだろ!」
だって。
「車が通るところではできないだろう」
「野球は心を豊かにしてくれる!野球があるから地球に酸素があるんだ」
なんて言うもんだから、あたしは完全に頭にきちゃった。
「やってもいいよ。総合ルールなら絶対に負けないから」
と言ってあたしは指をポキポキならした。