戦国時代にメロン・クリームソーダを作ることは可能か【歴史考察】
※ 辻堂安古市様・幻邏様共同主催『クリームソーダ後遺症祭り』参加作品です。
歴史小説の中でも『逆行転生もの』『逆行転移もの』は、あまり歴史に詳しくない人でもとっつきやすいジャンルです。
それらの作品の醍醐味のひとつが、現代知識を駆使した『内政チート』ですね。
農業に新しい手法を導入したり、鉄砲を改良したり、蒸気船を作ったりというあたりは定番ですが、現代の食べ物を披露して当時の人たちを驚かせる、なんていうパターンもよく見かけます。
織田信長に『かれー・らいす』や『鶏の唐揚げ』を出したら絶賛された、なんていうシーンは、もうお約束といってもいいでしょう。
そこで今回は、『クリームソーダ後遺症祭り』(辻堂安古市様・幻邏様共同主催)に合わせて、戦国時代にメロン・クリームソーダを作ることが可能かどうかを、大真面目に考察してみます。
あなたもいつ戦国時代に飛ばされて、信長様のご機嫌をとらないと首が飛ぶ、なんていう事態に直面するかわかりません。その時に備えて、知識を蓄えておきましょう。
1. メロン
そもそも、まずこれが難問です。西洋メロンが日本に入ってきたのは明治になってからで、戦国時代にはありません。
甘い西洋メロンがヨーロッパで普及したのが15世紀末以降と言われているので、主人公が南蛮貿易を差配できるほどの立場なら、種の輸入は可能かもしれません。
でも、それだと本稿の趣旨にそぐわない気がするので、これは禁じ手としておきます。
実は、日本には古くからメロンの変種であるマクワウリが普及しています。どのくらい古いかというと、万葉集に記述があったり、縄文初期の唐古・鍵遺跡からも出土しているほどです。
夏場の甘味として親しまれていたようですが、今日のメロンに比べると甘みはかなり少ないようですね。
これをメロンの代用品とするには、品種改良で甘いものを地道に開発するしかありませんが、短気な信長様はとても待ってはくれないでしょう。ここは、甘味料をぶち込んで煮詰めて濃いシロップにして、炭酸水で割るしかなさそうです(炭酸水に関しては後述)。
2. 甘味料
甘味料はメロンソーダだけじゃなく、上に乗せるアイスクリームにも必要ですね。
代表的なものはもちろん砂糖ですが、この時代には輸入ものしかないので超高級品でした。なので却下。
日本古来の甘味料としてはまず『甘葛』があります。ツタ状の植物の樹液を煮詰めて作るそうですが、これも縄文時代の貝塚から出土していたり、『枕草子』にも記述があります。
ただ、砂糖が普及するにつれて需要がなくなり、詳しい製法が伝わっていません。使う植物もブドウ科のツルだとかナツヅタ、アマチャヅルなど諸説あります。トライ&エラーが必要かもしれません。
なお、『アマヅラ』で検索すると奈良女子大学による再現実験のレポートが出てきます。参考にするとよいでしょう。
──というか、その時代の人に作ってもらう方が早いかな。
もうひとつ古くからあるのが『水飴』ですね。
材料は発芽した玄米や麦(麦芽)と米だけ。
原理は簡単です。麦芽などに含まれる酵素アミラーゼででんぷんを糖化させるのです。
手順としては、麦芽をすりつぶし、お粥状にした米に混ぜて60℃~65℃で8時間放置。布などで絞って水分だけを取り、その水分を煮詰めるだけです。
アミラーゼが多く含まれている大根や、でんぷんの多いサツマイモ、ジャガイモでも作れるそうです。──あ、ジャガイモもサツマイモも、渡来してきた時期的にアウトでした。米だと『もったいない!』という批判もありそうですし、他にでんぷんの多い作物というと、うーん……ソバがお手頃でしょうか。栽培もしやすいですしね。
この水飴の方が、甘味料としては安定供給できそうなのでお勧めです。
3. アイスクリーム
アイスクリーム作りに必要なのは牛乳や馬乳などの乳と甘味料、そして氷です。
実は、この氷の入手が一番大変なのです。なにしろ、製氷技術のない時代です。冬の間に寒い地で出来た天然氷を大量に確保し、温度変化の少ない洞窟などに詰め込み、なるべく溶けないようにするしかないんです。運ぶ時も大きな塊を切り出し、藁などでくるんで、溶け切る前に急いで運ぶ以外にありません。
奈良時代から天皇に氷を献上する制度もあり、平安時代にも『枕草子』にアマヅラをかけた『削り氷』の表記がありますが、夏場の氷はかなり高貴な方しか味わえない超高級品だったのです。
主人公の内政チートが進んでいれば、もう少し保温効果の高い断熱材なども作ることは可能かもしれませんが、まず大量の氷を確保しないことには始まりません。
高位の公家や寒い土地の有力者などにも、早いうちから積極的にツテを作っておきましょう。
さて、氷を入手したらアイスクリーム作りです。
まず金属製の容器を作り、牛乳や甘味料を入れます。その容器を樽やタライに入れ、隙間に氷を詰めます。そして氷に塩をかけると氷点下まで温度が下がるので、凍りつかないように空気を含ませながら、ひたすら原料をかき混ぜ続けるだけです。
かなりしんどい作業になりますので、事前にクランク式の手動撹拌機を作るのもいいでしょう。大丈夫、後にアメリカの主婦が発明したくらいですから、あなたなら容易に開発できるはずです。
また、金属容器が密閉できるなら、もう少し簡単な手抜き方法もあります。
金属容器と氷を入れた樽に蓋をして、子どもたちに転がして遊ばせておけばいいのです。
なお、バニラに関してはまだヨーロッパで普及し始めた頃なので、輸入は困難でしょう。これも却下で。
4. 炭酸水
さて、他の材料は揃いました。ここで、最も肝心な炭酸水の入手方法です。
重曹とクエン酸を反応させて作るという方法もありますが、そもそも重曹の作り方が海水を電気分解するか、モンゴルの鉱石から作るかなので、現実味がありません。
ここは、天然の炭酸水を使うとしましょう。
数は少ないですが、日本にも天然の炭酸水が湧出しているところがあります。福島の奥会津金山や、九州の阿蘇など──。
そんな中、畿内にあって湧出量も豊富、湧出ポイントもはっきりしているおススメの場所があります。
それはズバリ、兵庫県西宮市・宝塚市近郊です!
明治の中頃、とあるイギリス人が両市の境辺りで、狩猟中に炭酸水が湧き出ていることを発見し、これを瓶詰にして売り出すことを思いつきました。彼の名前にちなんで付けられたブランド名が『ウィルキンソン』──そう、コンビニや自販機で見かけるウィルキンソンの炭酸水って、実は日本の兵庫県が発祥なんです!
G○ogle Mapで『ウィルキンソン鉱泉』で調べてみると、元々の鉱泉がどこにあったのかがわかります。
ちなみに、お隣りの川西市でも良質な炭酸水が採れるようで、その炭酸水を使って売り出したのがあの『三ツ矢サイダー』なんですよ!
戦国時代にメロン・クリームソーダを再現したいと思っている方なら、あの辺りの地理情報はぜひとも入念にチェックして記憶しておくべきです。
5. 終わりに
ここまで解説した内容で、戦国時代にメロン・クリームソーダを作ることが可能であることはお判りいただけたと思います。
もちろん現代のメロン・クリームソーダに比べれば、すいぶん物足りないものだとは思いますが、それでも戦国時代の人々の度肝を抜くものであることは疑うまでもないでしょう。
なお、クリームソーダの頂点にあるべきチェリーのシロップ漬けですが、残念ながら食用サクランボが入ってくるのが江戸時代以降なので、本稿の趣旨的には却下せざるを得ません。
どうしてもあのビジュアルを再現したいのなら、梅か小ぶりのスモモあたりを乗せるしかないんですが──まあ、そこまでする必要もないでしょう。何しろ戦国時代の人たちは、皆さんが理想形と思うあのメロン・クリームソーダの姿を知らないんですから。
というわけで、本稿はここまで。
皆さまが戦国時代に転移か転生をされても、ここで学んだ知識を駆使して成り上がっていくことを、心よりお祈りしておきます。では。
(イラスト提供:幻邏様)
なお、ここに記載した内容は、検索すれば割とすぐに見つかるような情報です。
もちろん、皆様の作品で使っていただいても全然かまいません。
ただし、念のためご自分でも調べてみてくださいね。