第一章 ひび割れ(3)-2
静かに聞くというよりも誰も言葉を返す事が出来ずに支店長の次の言葉を待っていた。
支店長は自分を落ち着かせるように静かに話し始めた。
「前に少し話したと思うんだが、うちの母親の体調があまり良くなくてな…。
最近では休みの度に面倒みに行かないといけない状態で、
俺が行けな日はカミさんが行ってくれてなんとかやってたんだけど・・・どうにも。」
「・・・・・・。」
「今では目が離せなくなってカミさんが泊まり込みだ。」
支店長の話が始まったばかりだが、みんな下を向いてしまう。
私も2年前に父を亡くしたばかりで、支店長のお父様はそれより先に亡くなっている。
父がいつどうなってもとなった時に支店長は、自分の父親の時に仕事で何もしてやれなかった、
私が自分と同じ田舎育ちで境遇が似ているし、後悔だけはして欲しくないからと
毎週末、私を実家に帰るようにと話してくれ色々と仕事の面で助けてくれた
そのおかげで私は1カ月、父の死にきちんと向き合え送り出すことが出来た。
だから支店長を応援しようと心に決め、話を聞く。
「施設に入れる事も考えたが母親がどうしても嫌がってな。」
支店長はその時の事を思い出しているのか苦笑いをして話しを続ける。
「まぁうちは子供も自立したし、カミさんとも話て田舎に帰る事にしたんだわ。
・・・・で仕事辞める事にした。」
支店が無くなるだけでなく支店長も辞めるとなり、たまらず若い子達が、
「実家から通う事は出来ないんですか?」
「そうですよ!俺ら協力しますから。」
「支店長が辞めるとなんで支店がなくなるんですか?・・・・。」
なんとか考えを変えてもらえないか思いついた言葉を発したり、疑問を口にしたが
「悪いな。それで・・か・・・」
納得のいかない社員達は、支店長の言葉を遮り、
まだ何か言おうとしたが副支店長が止めた。
「お前ら、きちんと最後まで話を聞こう。それからだ。」
支店長が副支店長の顔を見てうなずき、再び話し始めた。
「俺が辞める事を本社へ伝え、社長とこれからどうするかの話し合いを何度もしてきた。」
そういえば支店長は本社へ行く事が多くなっていて、最近では副支店長と2人という事もあった。
「今年に入ってからうちの支店がある土地のオーナーから本社側へ土地を買わないかと打診が
あったんだが、金額の折り合いがなかなかつかなくてな。
事務所移転は避けられなかった。そこで候補としてあった閉店を俺と副支店長で決めた。
本当にすまない。」
支店長と副支店長は2人で深々と頭を下げた。