第二章 亀裂(3)
予定では一度自分の支店へ戻って業務の確認をして帰ろうと思ったけど、
時間も14時30分と微妙でとにかく疲れてしまい支店長へ電話して直帰させてもらう事にした。
業務も少なくなっているので、すんなり了承してもらえた。
家に帰り夫に今日の出来事を話した。
「断ってもいいんじゃないの?急いで仕事探してるわけでもないし。」
夫の答えに私は少し驚いた。
我が家は夫が自営という事もあり家計は夫が握っていて結構厳しいと思っていたからだ。
特に考えての言動ではなかったらしいが、失業保険で少しのんびりしようかなと話した時に
「えっ!?すぐに就活しないの?」と言われていたので、すぐに働いて欲しいのかと
私が勝手に思い込んでいたようだ。
「そう言ってもらえるならお断りしようかな。本社はすぐに働いて欲しいみたいだけど、
瑞季の卒業式と入学式もあるから入ったばかりでお休みもらうのも気がひけるしね。」
瑞季とは我が家の長男で、男の子なのにとても大人しく繊細。
小さい時には3つ下の次男の聖弥にいつも泣かされていた子がもう中学生だ。
この話をすると本人はとても嫌がる。
2人とも0歳から保育園に預けていたので、子供達の行事などには絶対に参加するというのが
私たち夫婦の考えでもり、融通の利く職場で働きたい事も踏まえて後日断りの連絡を入れた。
しかし3日もしないうちに松井部長から
私を睨んでいた女性は解雇する事が決まり、私の入社日はGW明けまで延ばす事で話が進んでるので
再度考えて欲しいと連絡がきた。
ここまでしてもらっては私には断るという選択肢がなくなってしまい、
夫も私の話を聞いた後、苦笑いで「働いてみれば」と言った。
だがその後に「気を付けてね」とも言っていたのがずっと私には引っ掛かっていて
本人も「頑張ってね!」ではなく、なぜ「気を付けてね」だったんだろうと思っていたらしい。
夫の口から無意識に出た言葉が現在の事を予期していたのかもしれない。