第二章 亀裂(1)
私は2月の中旬、閉店ギリギリに新規事業部へ異動を決めた。
この時、何で断らなかったのか。やってみたい事がなかったわけでもなかった。
ーーー 今はそのやりたい事さへ出来ない ーーー
引継ぎに行った2日間でなぜか挨拶という名の社長や早瀬さんと面接が行われた。
松井部長や支店長から雑談だからと言われていたし、私は本社では働けないと思っていた。
私の第一条件は正社員での採用。
各支店では売上のノルマさえ達成していれば結構自由にさせる風通しの良い会社であったので
社員雇用も各支店独自で行われていた為、私を含めほとんどの事務員が正社員。
しかし本社では松井部長以外の事務員は全員アルバイト。
社長は営業は売上を上げるが、事務は売上に繋がらないという考えを持っていてる為
本社での事務員の正社員雇用はないと聞いていた。
彼女は会社が設立して間もない頃から働いていて当時は営業もしたらしく特例だった。
「夫が自営業で安定しない為、私は子供のために正社員で働く事を第一で考えています。
通勤も今まで1時間30分かかっていたのでこれを期に家族との時間の為に近場で仕事を
探そうと思っています。」
と間接的にお断りの話をした。正社員になれない事と通勤時間も今までと変わらないからだ。
引継ぎも予定通り終わり日常業務も少なくなってきて、閉店と自分が無職になる実感が湧いて来た頃
また本社から呼び出しがあった。
いつもの会議室、松井部長と早瀬さん。
松井部長が、
「会社で検討した結果、東藤さんが3月から、新規事業部に来てくれるなら、
3カ月の研修期間後に正社員として雇用。社員になるから車通勤も社長から許可出ました。」
続けて早瀬さんから
「悪くない話ではあると思うし、どうでしょう?
それとこれから新規事業部1度見てもらえないでしょうか?」
「・・・正社員で雇用して貰えるなら問題ないし、車通勤なら30分で通えます。
でも、3月、4月は上の子がちょうど中学生になるので卒業や入学式もあるし、
就活しながらのんびりしょうかと思ってたんです。」
今まで働いて来たから失業手当がもらえる間、ゆっくりしたいという本音と
いつも本社に来た時に感じる暗い空気感に良い条件を出してもらったのに即答出来ないでいた。
「良い返事がもらえるなら、入社日は再度相談しましょう。」
松井部長と早瀬さんが頷き、
「すみません。僕はこれから社長に報告して営業に出るのでここで失礼します。
働く前にあんまり見せたくはないけど、働き始めてからナニコレとか言われたくないので
新規事業部必ず見て行って下さい。東藤さん良い返事待ってます。」
早瀬さんが会議室を出るので私も立ち上がり、
「色々と有難うございました。家族と相談して早めにご連絡します。」
と返事をし別れた。
「じゃあ早速行ってみる?新規事業部。」
松井部長に連れられて来たのは2Fにある新規事業部の事務所。
ここで私の心を壊すきっかけや止めを刺した人物達と初めて顔を合わせる事になる。