異世界転生
激ムズ
またやられた
完全にクソゲー
この怒りをどこにぶつけたら良いのか
カースポイズンはスマホでできるダンジョン型ロールプレイングゲームの最新作だ。ダウンロードから一秒で手軽に遊べるのを売りにしている。
内容はウツロという町の地下にできた迷宮を探索するというごくシンプルなもの。
だが、僕が作ったプレイヤーのオトイウは地下三階で倒れた。
それも、三階なんかに現れるはずの無いゴブリン三体に襲われたのだ。
こんなのダメだろ。
仲間だった奴らがオトイウの弓とナイフを奪う。
革鎧は金目の物と判断され無かったのか、魔法使いが腹に蹴りを入れていた。
ゲス過ぎる。
サクサクできて楽しくダンジョン探索、お友達と一緒に楽しく遊ぼう。あのキャッチコピーはどうなったんだよ。弱肉強食な上に他者の足を引っ張るジメジメとした暗い世界設定。
ゲーム内の店頭には高価格で低スペック装備品のラインナップが並び無理して揃えてもダンジョンに潜ればあっという間に死亡。
代り映えしないダンジョンへ淡々と探索者を送り込み全滅。ただそれだけを繰り返す。
オトイウも三階層という浅い階層でゴブリンにやられてしまった。
ちなみにオトイウはリセマラ勇者だ。成長因子、九つの命、器用さ、祝福の鐘と最初から四つもギフトを所持していてステータスが高く、まだ10才。まだ体が小さくて弱いのは仕方ない。鍛えないと強くはならない。慎重に育てていた筈だった。
「くそ」
仰向けになってベッドに寝転んだ。
視線を外した画面には文字が浮かび上がり、鐘の音が鳴り響いていた。
システムエラー
システムエラー
システムエラー
祝福の鐘が発動します
システムエラー
システムエラー
システムエラー
祝福の鐘が発動します
システムエラー
システムエラー
システムエラー
祝福の鐘が発動します
システムエラー
その日、日本国某県某市某所にある町のアパートの一室でガス爆発が起きたという報道がなされたが、世間的にはどうでもいいニュースだった。
ドクン
あああああああ。
衝撃と内から突き上げる熱。身体から心臓を吐き出そうとする様な痛みが四肢を貫く。
痛みを通り越して、苦しさと光。口から溢れるドロリとした謎の液体。
暗闇に沈んでいた意識が水底から浮き上がる。
ゲホッ、ゲホゲホ
脳が酸素を欲していた。
左りの脇腹と背中肩甲骨の下が死ぬほど痛い。
地上三階の部屋のベッドから表の道路に転がり落ちたのか。
辺りは薄暗く、街灯も車のヘッドライトも見えない。閉塞感があり風の音がする。
靴、靴を僕は履いている。
おかしい。
何かが違う。
そう、暗闇に慣れてきた目が捉えたのは、小さな小人の様な恐ろしいゴブリンが足元で牙をむき出しにした醜悪な骸を晒していた。
なんだ。これは夢か。だが、身体が痛い。
内側に縮こまっていく感覚。ゴムで引っ張られ内へ内へと丸められグイグイと骨が軋む。
苦しい。
痛い。
ぐぁああ。
胃の腑から苦痛の雄叫びをあげる。
その時、低く何かが聞こえた気がした。
殺意、飢え。強烈な感情。
薄暗がりの中、襲いかかって来たグレイウルフの鼻っ面を思いっ切り殴りつけた。
蒸気が出るほど体が熱い。
そして、軽い。
殴られたグレイウルフは一撃でピクリともしなくなった。
息を整える。
そして、フラッシュバックするありもしない記憶。
終わらない悪夢。
そして、ずっと背負っていかなければいけない。
可愛い妹。真っ黒になってもう動かない。
泣き声が聞こえる。
甲高い泣き声が。
冷たく小さな妹。
産まれて三十日のお祝いも出来なかった。
冒険者だった父が帰って来なくなった。
母がその日からだんだんとおかしくなった。
明るい笑顔の満ちた家庭が壊れるまで、あっという間だ。
父は迷宮で失踪。パーティメンバーも戻らなかった。
数日して、母がふらふらと外出した時に着いて行けば良かった。止めたほうが良かったのか。
俺はその時泣いている妹で手一杯だった。
後日、母と同じ服を着た腐敗ガスで脹らんだ水死体が、川から上がった。顔なんて判別できなかった。だが、着ている服からして確かだろう。
こうして、俺たち兄妹は浮浪者になった。
何日経ったのだろう、妹に飲ませるミルクはとても高価で買ってやる事が出来なかった。
腕の中で泣いていた妹は、もう泣いていない。
俺は歯を食いしばり開いたままだった妹の瞼をそっと閉じた。
蓋をしていた暗い哀しい記憶。
そうだ、思い出したよ。俺はオトイウ。貧民街の奴隷商で何処かからここに召喚された冒険者だ。