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BLUE NAIL  作者: 空蝉ゆあん
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cross and anemone


誰にだって背負うものはある。遊羅の場合は他より少し重たかった。自分が生きる事で誰かが犠牲になる現実を目の当たりにしてから、彼女は変わった。大人達は遊羅から全ての感情を奪う為に親しい人間から掃除していく。時代が重なり合いながらも、表面からは決して見つからない手段で軽々と瓦礫の山を作っていく。


「全てはお前の為だよ。私は忠告をしたじゃないか……それを安易に考えたのは遊羅、お前だ」

「どうして。僕が何かしたの? だから良くしてくれる人達に地獄を見せるの?」


愛する事はマヤカシ、信じる事は崩壊に繋がる。人間として生まれてきたはずなのに、周囲が求めるものは違った。


「お前は失敗作だよ。私達の計画書通りに選択をすれば、この家の子供として認めてやるって言ってるのに、逆らうから、こうなるんだよ」


ただ単に友達がほしいと思っての行動だった。遊羅は純粋に壊されたものを取り戻したかったのかもしれない。


それは喜怒哀楽だった。


「……」

「言う事聞くよね? 逆らわないよね?」


御堂涼葉はにっこり笑うと遊羅の右頬に切り捨てるように切り裂いた。涙の代わりに血が泣いている。そう思いながら、無表情で涼葉を見つめ、しゃがんだ。


「全ては涼葉様の為に……」


言いたくもない誓いを交わされ、自分の生きている意味も分からない。これが夢なのか現実なのかも。そんな事を考えている自分に対しても反吐が出る。


例え子供でも反発は許されない。この家で一番の出来損ないの烙印を押された遊羅に、守る力なんてなかった。最初は自分の考えを受け止めてくれるんじゃないかと理解してくれるんじゃないかと夢を見ていた。口に出したら最後、遊羅に影響を与えて光を見せてしまった人を囲い込みをして、逃げれなくする。そして相手が表に出そうとすると、血が流れるだけ。


「優しさは必要ない。いつまでも失望させるなよ。人を助けてなんになる、お前を見た目で判断して利用するのが関の山だろうな。そんな事私達が許す訳ないのだよ」


この人が遊羅のルールそのもの。昔の彼女なら受け入れる事はなかっただろう。涼葉の瞳が一瞬揺らいだ気がした。彼の視線の先にいたのは遊羅ではなく、彼女の背中を支えている人物に注がれていく。


「涼葉、やりすぎだ」

「……何故お前がここにいる」

「この子はまだ子供だ。俺がいない間に好き勝手していたのか、こんなの間違ってる」


振り向く事なんて出来ない遊羅は2人に挟まれた状態で硬直している。ただそっと添えられた手の温もりに懐かしさが流れてくる。


「じゃ、こいつは連れていくわ。涼葉、お前じゃ無理だよ、子育ては。その古臭い考え方、捨ててからじゃないと話にならない」


サッと遊羅を抱き抱えると頭を撫でながら「よく耐えたな。すまない」と悲しみを含んだ微笑みを向けてきた。その姿は過去の遊羅が一番欲しがっていた自由さを象徴しているようで、チクリと心臓が傷んだ。



無理矢理じゃないと逃げ出すのは難しい。昔なら何処へ逃げても追いかけてきただろう。沢山の人々に金と権力をばら撒きながら。しかし時代が変わった。昔の風習も薄れている。この時だからこそ、この男が動けた。


本家が潰れると血筋を継続させる為に分家を本家へと昇格し、名前と血筋を守ってきた。誰かが犠牲になる事で続く家。過去には複数の幼子や、青年がルーレットのように選ばれていく。


人が選ぶのではない。家が選ぶのだ。


「俺達はこの家に生かされている、か。あのジジイは変わらないね。そこから脱出して幸せになった奴もいるのにな」

「……大丈夫なんですか、あんな事言って」


抱き抱えられたままの遊羅はため息を吐くと、またいつも通り冷たい瞳で空を見ている。


「平気、平気。お前が俺の傍にいる限りはな。なんせ遺言通りに動いている訳だし。立場的には対等だから」

「対等とは?」


彼の言葉に引き寄せられるように、聞いてしまった遊羅は我に返ると渋い表情をして黙ってしまった。


「権力とか金ってさ最低限でいいのよ。俺はそう思って涼葉と縁切りした訳。めんどくさいからさ対等って言ったけど色々ある訳さ。涼葉に出来る事は俺にも出来るのよ。あいつが君の邪魔をしているなら、それをひっくり返す事もね」


抱えていた遊羅を下ろすと、ハンカチで血を拭う。固まった血は雁字搦めな彼女そのもののようで、複雑さをより加速していくようだった。


「そろそろ君の家に着くから、叔父さんに挨拶してきなさい」

「僕の家?」

「そ、新しい家だよ。俺も厄介になってるからさ。今日から俺らは家族だ。よろしくなー妹よ」


ふんふんと鼻歌を奏でながら楽しそうにしている彼を見ていると、無意識に足が前に進んでいく。



カランコロンと音と珈琲の香りが迎える。


「カイトー、姪っ子連れてきたぞ」


それがこの店「アネモネ」との出会いだった──


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