町の温泉施設での話
この温泉施設には変な事が色々ありますが、実体験で目撃した話です。
割と近所に市営の温泉施設があったが、それが市営から民間に買われて経営が変わったという事で、今年からリニューアルオープンしたのだがとんでもない事が起こった。
俺が久しぶりにその施設に訪れたのが約7年振り位で、リニューアルしたならどう変わったのかなあと思ってみたのだが、別段それほど変わった所も無く、シャワーを浴びる際に座る椅子が変わったぐらいだったのだが、それ位しか目について変わった所が無い。
後は温泉のお湯の色が茶色く濁っていて、何か成分が変わったのかどうか分からないのだが、結局何だかんだでこれと言って変化は無かった。
仕方がないのでシャワーだけ浴びて、湯船に浸からなくても良い位だなあとがっかりしていたのだが、シャワーで体を洗って髭を剃ったり、頭を洗っている際に何やら隣の爺が唸ってる。
「う・・・う~ん・・・ん・・・んん!?」
こんな感じでずっとうーとかむーとか言ってるので、田舎の施設で誰でも来れるし関わらない方が良さそうかなあと思っていたのだが、俺の隣の爺はだんだんと、あーとかいやーとか、困った様子で何かもぞもぞし始めた。
俺は、何か面倒にならないと良いのだがと思いきや、俺の後ろにいたおっさんが見かねて爺さんに声をかけた。
「あんたさっきからどうしたんね?」
そう声をかけるのだが要領を得ない返答ばかりする。
いやーあのーそのーばっかりで爺はちゃんと物を言わない。
段々不審になってきて一体何だろうかと思い始めていたら、その様子から誰かがその爺が問題を起こしそうだと思ったらしく温泉施設の職員を呼んだ。
「どうかなさいましたか?」
と問われた爺は小声で何やらつぶやくので職員が聞き返すと、爺ははっきりこう言った。
「・・・取れん」
俺はそれを聞いて何が?と思ったのだが、とりあえず職員はその爺を立たせようとすると、痛いと言いながら中腰で立ち上がるのだが何故か、座っていた温泉施設のプラスチックの椅子が尻にくっ付いてる。
俺は意味が分からないのだが、一体どういうことだと思ったらついに爺が焦り始めてきた。
それを見た職員が一体どうしたんだと問いただすと爺ははっきりと信じられない事を言った。
「・・・椅子の真ん中の穴に玉が入っちまって取れやせんのだ!」
こう言うので、プラスチックの真ん中に穴の開いたお風呂で使う椅子に座ったら、スポンと玉が入って抜けなくなり、それで唸ってたと言う訳だった。
それでとりあえず職員が引っ張ったり、玉を椅子の下から棒で押したりしてたら爺が絶叫する。
「いてえ!オイ!いてえよ!」
そんな感じでどうにかしようとするのだが、もう完全にはまって取れない。
全く何でそんな事になってるのか分からないが、段々職員が焦り始めてきた。
どうやら椅子の下から押し込んだりしても玉が取れず、段々色が紫色になってきてしまっているらしい。
これはまずいと思って職員はすぐにレスキューを呼んだ。
程なくして消防車が到着し、どやどやとレスキューが入ってくると、やじ馬が何だ何だと温泉内に入ってくる。
温泉施設がある場所が本当に田舎なので、何かあると野次馬根性丸出しの下品な連中はすぐに集まって来る。
そうこうしている内に、風呂内で事の顛末を聞いたレスキュー隊員はすぐさま鎖を切るチェーンカッターを持ってきて、プラスチックの椅子の端っこから切り目を入れて取っ掛かりを作る。
だが、爺は青ざめていて汗だくで仕方ないので風呂場に寝転んで、死んだカエルみたいな恰好で仰向けになっている。
そこでいよいよレスキュー隊員がグラインダーを持ってきた。
ギュイーンと音を立てて丸い刃が回ってプラスチックの椅子を切っていく。
どんどん切り目が入ってきていよいよ股間近くなってくると爺が絶叫して
「ぎゃー!オラの玉だきゃー絶対に切らんでくりょー!」
と泣き叫んでいた。
レスキュー隊員は必死で説得するが、爺が怖がって手足をばたつかせるので落ち着いてと言うのだが、当の本人はあまりの怖さに衆人環視の中、泣きながら絶叫する。
それを見ている全員が笑いを堪え切れず、レスキュー隊員は一人がグラインダーでカットし、他二人がプラスチックの椅子をカットされるところから左右に広げ、ほどなくしてついに綺麗に割れた椅子の穴から紫色になった爺の玉は解放された。
だが爺はすぐさま自分の玉を触って確認するのだが絶叫しだす。
「オラの玉は!?玉が無い!?ある?どうなった!?分からん!何だ!?どうなってる!?」
と訳も分からず喚き散らし始めた。
俺はそれを見てて何で爺は解放されたのに、自分で玉を触って確認しているんじゃないのかと思いきや、爺が青ざめて
「オラの玉切れてどっか行っちまったんか!?」
とか言い出したので、いやあんたの玉あるじゃんと皆言うのだが、爺が顔面蒼白になり喚き散らす。
「無い!感覚が無い!玉が何も感じねえ!」
と言うので、紫色になった玉が感覚が麻痺しているので狼狽え始めてしまった。
レスキュー隊員はすぐさま救急車を要請したのだが、救急車が到着する頃には紫色になっていた玉も感覚が徐々に戻ったらしく、結局救急隊員にはとりあえず確認したけど傷も無さそうなので、後日問題があったら念のため病院に行ってくれと言われていた。
何ともまあ人騒がせなのだが、その一部始終を見るまで気になってそれをずっと全裸でシャワーを浴びつつ眺めていた俺も俺だが、それなりに暇潰しにはなったのだった。
そして、その一件以来温泉施設の椅子は全部違う物に取り換えになったらしいが、玉が紫色になった爺は激怒していたらしい。
「もう二度とこんな所には来るもんか!」
と言って帰って行ったらしいが、気持ちは痛いほど解る。
気持ちだけはだが。
そんなこんなで俺も二度とその温泉施設には行ってない。
こういう事があると、次に何が起こるか怖くなる。
誰かが排水口に玉を吸われたりしなければ良いのだが、俺はもう二度と行かないからどうでも良いけどね。
これを先日、仕事で関係者と飲みの席で話したら、涙を流して笑ってる人がいたぐらい鉄板ネタになりました。
酒が進んでいると滅茶苦茶受けるようです。
一応ミステリーにしてるんですが、何で玉が入ってしまったのか、そして何故入ったのなら取れなかったのか分からないので、そういった意味でミステリーとさせてもらいました。