栄えある王都
再び馬車に乗り込み、3時間。
馬車は森から出ると王都アクロピアに到着した。
ユメ先程からふさぎこんでいる。
苦しそうな女の子の声が頭から消えないのだ。
フローラが心配そうに何度も覗きこんだが、足元を見つめて気づかないふりをした。
一方ラクスもご機嫌麗しうというわけではない。
怪訝な顔でユメを見たり、ため息をついたり。
それらも全てユメは無視した。
何も話したくない。
「ほら、窓を見て! 綺麗な都でしょ? もうすぐ王宮につくわ」
フローラが明るく話しかけるも、ユメは曖昧な返事をするだけで窓を覗こうとしなかった。
――苦しい、ニコラ
体が冷たくなる。
湧きあがるのは悲しみと、信じてくれないラクス達への静かな怒り。
確かに声が聞こえた。
あの闇の生き物、ダークリットから。
風の音が次第に小さくなり、ついには消え、馬車がとまる。
「城に着きました。降りましょう」
レニタスの柔らかい声に、ようやくユメは顔を上げる。
ラクスは馬車が停車すると、無言で一番最初に飛び降りた。
憂鬱な気持ちでフローラに促されるまま、馬車を降りたユメだが、目の前に光景に一瞬全てを忘れて見入った。
馬車が停止したのは、白いファサード。
厳かな雰囲気をまとっている。
そしてその向こうに見えるのは、綺麗に整備された広い庭。
さらに奥には、この世界の中心である王宮。
城は全て白で統一されている。
彫刻による装飾がいたるところに施されており、荘厳さを醸し出している。
「すごく立派ね」
「王宮だもの」
フローラは肩をすくめながら、何でもないというふうに答える。
「先程の月の精霊のお城とは全然違う」
「月の精霊のお城は神秘さをまとっているものね」
「神秘」という言い回しをユメはとてもうまいと思った。
ユメの頭を過った言葉は、「不気味」。
それに比べ目の前の王宮は、さすが光の精霊の城と言ったところか。
威厳を保ちながらも、輝いているようにみえる。
「さて、ここでラクス達とは一旦お別れね」
その背後でラクスはすたすたと城の方へ歩いていっている。
「そうですね。私はラクス様とお城にいきますが、お二人は大丈夫ですか?」
「もちろん」
レニタスにフローラが明るく答える。
「王都なんて私ほど知り尽くしている人はいないんじゃないかしら」
「それは頼もしいです。ユメさんを頼みますよ」
「任せて」
フローラがユメを振り向き、ユメの手をとった。
「さあ、行きましょう。私、空腹だからレストランからでいいかしら? このすぐ近くにとてもおいしいお店があるの」
「いいけど、私お金とかもってないよ?」
ユメのまごつく返事に、フローラを声をあげて笑う。
「当然じゃない。あなたは異世界からきたのだもの。お金はちゃんとあるわ。さあ、行きましょう」
手を引っ張られるがまま、ユメはフローラと走り出す。
ふと後ろを振り返ると、レニタスが微笑を浮かべ見送っていた。
ラクスの姿はもうそこにはなかった。
フローラがユメを連れ込んだレストランはこじんまりとはしていたが、絵画や小さな花瓶が至る所に置いてあるなど、洒落たところだった。
ユメとフローラは王宮前の広場を見渡すことができる、窓際の席に落ち着いた。
「不思議ね」
注文した料理を待っているあいだ、ユメはぽつりとつぶやいた。
二人の間には、紅茶が入ったティーカップがあり、白い湯気がそこから出ている。
「何が?」
「この世界が人間の世界に似ているということが」
「ああ……。一応隣どうしの世界だし。精霊はむこうの世界を覗く手段をいくつか有しているのよ」
「どうして似たような世界を……」
「精霊が作り上げたか?」
フローラがユメの言葉を引き取る。
フローラは考え込むように首少しかしげた。
「そうね……。憧れがあるからじゃないかしら?」
「憧れ?」
「そう。人間の世界に対しての」
この答えは、ユメをすごく驚かせた。
「どうして人間の世界が? 人は凄く弱いし、術とかもないのに」
「そうだけど、精霊はきっと昔から羨ましかったのよ。昔から」
「何が?」
「人は自由だもの。私たちみたいに何かに縛られることはない」
「縛られる……」
「そう。例えば光の精霊だったら、その存在はこの世界にある光に依存している。自分の存在が他のものによって決められているの」
「良く分からないわ」
「うん、ちょっと難しいわね。もちろんこの世界も、素敵な世界よ。満足している者も多い。だけど、きっと気づかないうちに、無意識に人間に憧れてるのよ。多分ね……。これはあくまで私の考えだけど」
フローラは静かに紅茶をすすった。