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陽だまりに咲く花

奇妙な一週間が過ぎた。

光に満ちた静かな洋館での暮らし。

非日常的で初めて見るものばかりでとまどうこともあるが、時間はゆっくりと何もかもを呑みこんで流れていく。

長い夢でも見てるのではないかと、何度も思った。

その度にユメは頬をつねってみるのだが、確かにそれは痛みを伴う。



それに現実か夢か。

その問自体、もはやどうでもよかった。

自分がかつていた世界に、とりわけ未練などない。


あの日ダークリットとかいう黒い物体に遭遇した時にも思ったことだが、それだけ今までのユメの生活は簡素で、味気が無くて、惜しむものは何もなかった。



ラクスはあの日からユメのためにいろいろ調べてくれている。

本を漁ったり、不思議な力でユメを光で包んでみたり。

ラクスは光の精霊だという。

だからさまざまな光の術を使えるらしい。

ラクスの出す光には、さまざまな種類がある。

まばゆい光。儚い光。オーロラのように幻想的な光。

その力の源はこの世界に溢れる全ての光だと、ラクスは言った。

よく分からない、とユメが首をかしげると、言葉で説明するのは難しいね、と小さく笑った。



「花の精霊?」

「ええ、そうです」

レニタスが食事の準備をするのを手伝っていた時のことだ。

今日はお客が来るということを、レニタスがユメに言った。

「フローラ様は花の精霊の一族の長の孫娘にあられます。更にラクス様の許嫁でもあられるのですよ」

「許嫁? ラクスに許嫁がいたんだ。まだ若いのにね」

ラクスの年はユメより3つ上の19歳だと聞いた。

しかし人間と比べていいのかどうかは分からない。

何でも精霊は200年は軽く生きるらしい。

「フローラ様はラクス様と同い年であり、幼馴染でもあられます。こんな都から離れた洋館に、週に一度は訪ねてきてくださるのですよ」

「へぇ。仲がいいんだね」

「フローラ様はとても社交的で、気立ての言い方です。きっとユメ様の良いお友達になると思いますよ」

「そうなったらいいな」

ユメは小さくつぶやいた。




オトモダチ。

ちくりと胸が痛む。

ユメは今まで友達と呼べる人をもったことがない。

小学生の頃や中学生の頃はよくいじめられていた。

高校に上がって、小中学生の時のようないじめはなくなったものの、ユメはクラスで一人孤立していた。



「今日もいい天気ね!」

小さなかごを下げたその少女は、お昼過ぎごろに洋館を訪れた。

玄関でホールでユメを見ると目をまるくしたが、レニタスが説明すると、すぐに笑顔でユメに挨拶をした。

「はじめまして! 私、フローラというの。よろしくね」

ユメもなんとかぎこちない挨拶を返した。

慣れていないせいだろうか。

うまく笑うことも、話すこともできない。

恥ずかしくなって俯きかけたユメだが、驚いたことにその手をフローラに優しく掴まれた。

「おいしいお茶を持ってきたの。ラクスは書斎かしら? みんなでお茶しましょう」

幸せが溢れ出ている、華やかな笑顔。

光の精霊であるラクスの許嫁と言われて、なるほどと頷ける少女だった。

優雅なカールのかかった茶色の髪。

長いまつげに、赤茶色の瞳。

花の精霊だからだからだろうか。

その可憐さは日向に咲く花を髣髴させる。

陽だまりのような少女だった。

「ユメって呼んでいいかしら」

慌てて無言で何度も頷くと、フローラはニコっと嬉しそうに笑った。

「私のこともフローラと呼び捨てにしてね」

見知らぬユメにも心を開いてくれる優しさを嬉しく思う一方で、ほろ苦い「羨望」という名の感情が入り混じるのをユメは感じた。




「それではフローラ様。私がお茶をおいれしますよ」

レニタスがそう言うと、フローラはかごを差し出した。

「いつも悪いわね、レニタス。私がいれるべきなんだろうけど、レニタスが入れた方が数倍おいしいからお願いするわ」

「あ、私も手伝います。レニタスさん、お菓子も用意してたし、二人いた方がいいでしょ?」

「それは助かります」

横から、ユメは急いで申し出た。

なんとなく、フローラとラクスを二人きりで会わせたほうがいいような気がしたからだ。


「ユメ、ありがとう。それじゃ、私はラクスを書斎から引っ張り出して居間に連れていく係ね」

そう言うと、フローラはスキップをしているような足取りでラクスの書斎へと向かった。

奥の部屋で弾んだ声がラクスを呼ぶのが聞こえる。

「フローラ様はラクス様をとてもお慕いしておられるのです」

レニタスがその後ろ姿を眺めながら、穏やかに言った。

「そうみたいですね」

ここまで可愛らしい人は見たことがないと半ば感動に似た感情を抱きながら、ユメもその後ろ姿を見つめた。




フローラが持ってきたお茶は薔薇茶で、淡いローズ色だった。

フローラのイメージカラーにぴったりな色。

甘い香り。

ゆっくりと仄かにティーカップから出る湯気。


ユメは少し居心地悪く、少し前後に体を揺らした。

どこの世界にいても、人見知りの癖はなくならない。

さっきが沈黙が続いているが、それがユメがいることでそうなっているのか、もともと静かにお茶するのが習わしなのかひどく気になる。



そのユメのとまどいを察してかあるいは否か、ふいにフローラがユメに話しかけた。

「ユメは人間界から来たのでしょう? ここの生活は慣れた?」

「ええと……」

ユメは言葉につまる。

緊張したからではなく、純粋に分からなかったからだ。

『慣れた』、それはどういうことを意味するのだろう。

ここでの生活は静かながらも驚きの連続で、非日常的なことが起こっても意識が遠のいたり、これは夢だと現実逃避したりすることがなくなったことを考えれば、『慣れた』のだろうか。

答えに窮していると、レニタスが助け船を出した。

「人間界とここは比較しようがないくらい違うでしょうから、まだ慣れることは不可能でしょう、フローラ様」

「そうね、当然よね。ごめんね、変な質問をして」

「ううん。何もかもが初めてでとまどうこともあるけど、レニタスさんやラクスが親切にしてくれるから大丈夫」

「ラクスが親切に?」

そこでフローラは少し驚いた表情をした。

「相変わらず君は、感情を隠さないな。フローラ。なんでも手に取るように、君の考えてることが分かるよ」

そう言うラクスの瞳は、ややいたずらっぽく輝いていた。

「そんなことないわよ!」

少し頬を膨らませたフローラが、反論する。

「やっぱり意地悪なラクスのままじゃない。ユメが親切なんて言うから、少しは紳士になったのかと期待をかけてみれば……」

「長年の付き合いなのに、未だに虚しい期待を抱いてるのかい?」

「もう、ラクスったら! レニタス様も苦労が本当絶えないでしょうね」

見ると、レニタスは二人の言い争いに目を細めていた。

どうやら日常茶飯時らしい。




幼馴染かぁ。

そういえば昔少女漫画を読みふけっていた時、そういう存在に憧れてたっけ?

揺らがない濃い絆がある二人。

憧れる半面、ユメがずっと諦めてきたもの。


孤児だったユメには、深い絆のある家族はいない。

また人に馴染みにくい性格のせいか、一人の時間を好むせいか、友達と呼べる人はほとんどいないに等しい。

「彼氏」なんてきらきらしたものは、雲の上の世界だった。



「ユメ、騙されちゃだめよ! ラクスは本当に油断ならないんだから」

「フローラ、せっかく親切だと僕を称してくれた彼女に人聞きの悪いことを言わないでくれるかな」


暖かい日差しが差し込むその客間で、二人の言い争いは平和に続いていく。




今思えば、いつだってこの洋館は、光で溢れていた。














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