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悪目立ちの新入生 2

 広々としたホール。壁際に等間隔に置かれた虚像。ホールの中央にはキューブ型のガラスが置かれてあり、中に不思議な陶器でできた青いマスクが置かれている。その奇妙なオブジェをぼんやりと眺めていると、カツカツと足音が聞こえてきた。



 中庭は四方をガラスで囲まれており、つまり中庭挟んで向こう側の廊下や折れ曲がって続くところは、この玄関ホールから十分に見ることができる。


 ラクスと白銀の長い髪を腰までたらした長身の男が、こちらに向かって歩いてくる。男は一本の羽のついた深緑の帽子を被っている。


 ユメは無意識に眉をひそめた。ラクスは校長を呼んでくると言ったが、まさかあれが校長だと言うのだろうか。その姿からは、あまりにも似つかわしくない……。人間界での小中高、校長といえばたいてい年季の入った老人であり、高確率でその毛髪は苦労が多いせいか乏しかった。だからまさかあんなにも豊かに腰まで髪を伸ばしている男が校長などと、ユメが予期できるはずもないのだ。






「お待たせしました、ディアナ・クレセント君。私がこの学院の校長を務めているリートゥス・リザレクションです」


 校長はその艶やかな長髪がよく似合う美形で、美男子であるラクスにも全く見劣りしない。ただ年齢は30前後に見えた。人間と精霊の寿命や老け方は異なっているから、実際の年齢は全く検討はつかないが。一瞬ユメはその顔と白銀の髪に見とれたが、はっとなると急いで深くお辞儀をした。


「今日からお世話になります、ディアナ・クレセントです。よ、よろしくお願いします」



「これはこれは、貴族の中でも名高い良家のお嬢様とあって、奢り高ぶるところか少しも見られない。見事。もっとも」


 微笑をわずかに浮かべ、校長が付け加える。



「この学院では、身分は一切関係ない世界。ただ一心に知の探求に勤しんでもらうのが、根本の原則となっているのでご了承もらいたい」



 ここは一流の家柄の子供達が集まる学院。そういう規則があって、学や秩序を妨げないようにしているのは理解できる。しかし。


 ユメは口に出さずとも。「はい」と返事しながら苦笑する。



 自分に限っては心配無用。高貴な家柄出身という自覚なんて全く無いのだから。今でもユメは人間界の孤児院出身のクラスの片隅にいる冴えない女の子だ。


 長くて薄地のマントのような黒いコート。校長はそのポケットから青銀色の縁でかたどられた懐中時計を取り出し時間を確認した。


「今1限目の授業が行われていますが、それもあと5分で終わる。そうすれば、ここにディアナ君の編入するクラス学級委員長と君の世話係を当分担うチューターがここに来てくれることになっている。それまで簡単にこの学院の授業の仕組みについて説明をしておこう。おっとその前に」


 校長がラクスに顔を向ける。


「ラクス君はこれからどうするのかな? もう帰路につかれるか?」


 ユメは驚いた。校長ははっきりとラクスのことを「ラクス君」と呼んだ。第二王子であり今や王位継承者候補の一人を。


 ラクスは至極普通に、それに反応する。どうやら、いつものことであるらしい。


「いや、校長先生、僕はこれで失礼することにします。懐かしい母校こうも早く立ち去るのは名残り惜しいですが、やらなければならないことも積もっているので」



「そうか・・・・・・。まぁ、授業の終わりのチャイムが鳴る前に君は帰ったほうがいい。私の可愛い女子生徒たちが君を取り囲んで離さなくなってしまうかもしれないからね。とにかく、今日は久しぶりに会えて嬉しかったよ。何、またいつでも時間ができたら訪れてくれ。幸い君は誰よりも学院に最も近いところに住んでいるのだから」



「恐れ入ります」



「何度も言うが、君は後にも先にも私の誇れる非常に優秀な生徒の一人だ。これからいろいろとあると思うが、学への探求、そして奢らず謙遜でいることを忘れず、精一杯頑張ってくれ」


 

 ラクスを見下ろすその表情は、横から見ても優しげだった。ラクスは間違いなく彼のお気に入りの生徒だったのだろう。



「ありがとうございます。それではこれにて、失礼します」


 最後にラクスは視線をユメに移す。


「それじぁ、健闘を祈る。また放課後に」



 さっき急に取り付けられた約束を、不満ながらもユメは無言で頷いて承諾する。仕方が無い。厄介ごとそのものだが、彼には王座がかかっている重大事項なのだから。



 もっとも自分が役にたつとは思えないが。



 ラクスがホールから姿を消すと、校長は端的に学院の制度について説明を始めた。





*      *      *




 この学園に所属する生徒は最年少で5歳、最年長で28歳までいるらしい。人間界でいうところの幼稚園、小学校、高校、大学、大学院等を全てかねているといったところか。



 授業の履修は単位制であり、取得単位数より、初級学士、中級学士、上級学士の称号が得られるとか。上級学士まで得たものは通常、卒業となるが更なる知の探求を目指すものは学院に残り、初級修士、中級修士、上級修士、そして険しい道ではあるが 初級博士、中級博士、上級博士までの称号がが得られる。



 しかし、これは正規課程の話。ユメは短期履修生として、初級学士、中級学士、上級学士を短期で取得することを目指す。正規課程と違って、短期履修生はあらかじめ決められた授業を履修をしなければならず、つまり授業科目を選択することができない。またそれぞれの高得点を得て単位をとらなければ、短期といえど、上級学士はそうそう簡単にはもらえない。いわゆる秀才であれば、最短で1年かからず卒業できるが、定められた科目を基準を満たす高得点で全て修めるまでは卒業とはならない。





 「そうそう、授業とは別に大事なことが」


 授業の説明後、校長が思い出したように付け加えた話は、クラス制度の話。朝とお昼、そして任意で放課後、生徒は各自、自分の属するクラスに割り当てられた教室にいくことが義務づけられている。クラスは取得している学位とは関係なく、同じ年代の生徒達でまとめられる。そこで行われるのはいわゆるホームルーム。そして共同生活の訓練。



「あなたのクラスは7A。直にそのクラス委員長がここへ来てくれる手はずになっている。おや、その前 に」



 校長がふと何かに気づき、視線をユメの背後にそらした。つられて、ユメが振り返ると。



「フローラ!?」


「我が院の生徒会長がまず来てくれたみたいだ」



 驚いて目を見張っているユメにかまわず、フローラはにっこり微笑んで校長にお辞儀をする。


「私の大事な友人ですので、心配で」


 フローラから漂うふわりとした甘い香りと「大事な友人」という言葉に、じんわりと緊張がほぐれ温かくなる。



 フローラと月城に移り住んで初めて直に話すが、変わらず友人と思ってくれていることに感謝の気持ちがこみあげる。



「そうか。それなら、ディアナ君も心強いだろう。さて君のクラスの委員長が訪れるまで待って、私はお暇することとしよう」



「あら、校長先生。もう待つには及びませんわ」



 今度は、校長の背後から芯の通ったはっきりとした声。校長が振り返りその姿を目にとめる。



「おお、フェーナ君。よく来てくれた」



 燃えるような紅の髪に、薄いピンク色の大きなリボン。気の強そうな大きな瞳。どこか済ました表情で立つ目の前の少女に、ユメは微かに首をかしげる。



 この子、どこかで見覚えがある。だがどこで見たのか、はっきり思い出すには至らなかった。



「あなたが噂のディアナ・クレセントね。まぁ初めて見るわけではないけど、こんなに近くで見たのは初めてかしら? 私は7Aのクラス委員長、フェーナ・サンロング。以後お見知りおきを」


 息をつくまもなくつらつらと話す少女に、ユメはどう反応していいか分からず、とりあえず小さく頭を下げる。


「それでは、後のことはお二人にお任せしていいかな? ディアナ君もこの二人がいればもう心配要らないよ」



「あ、ありがとうございました」



 慌ててお辞儀をすると、校長はユメにコクリと頷いて優雅に髪を揺らしながら、その場を去った。



 校長の後姿が見えなくなると同時に、フェーナは口を開いた。


「生徒会長、せっかくですけど、ここは私一人で十分かと。生徒会長もお忙しいでしょうし、ここはどうぞ、私に任せてください」


 その声にはどこか棘があった。ユメは対するフローラが微かに眉を顰めるのを見た。フローラでもこのような表情をみせるのだと、ユメは内心驚く。



「お気遣いありがとう。でも私はユ、ディアナの友人としてここへ来てるの。いろいろと心配だから、学級にいくまで見届けようと思うわ」



「そうですか」


 フィーナはあっさりと引き下がったが、同時に体ごと向きをフローラからそらした。


「それでは、ディアナ。ディアナって呼んで差し支えありませんね? 私のことはフェーナでかまいませんので」


 ユメはコクリと頷く。


「クラスに急いで向かいましょう。今のランチの時間にクラスの生徒が集まるので、その時にあなたを紹介しますわ」


 そう言うなり、フェーナは速い歩調でつかつかと廊下を進み始めた。ユメが困惑してフローラを振り返ると、フローラは苦笑しながらそれでも後についていくように身振りで示した。紅の揺れる髪を凝視して歩きながら、ユメは嘆息する。彼女のような気の強いタイプは苦手だった。嫌いではないのだが、フェーナの言葉には元来そういう性分なのかもしれないが、発せられる言葉にどこか敵意をが含まれているように感じられる。



 思い過ごしの可能性もあるけどね、もちろん。ユメは自分を諭しながら、視線をそらした。授業が終わり生徒達の声が辺りで溢れ出している。耳に入ってくる周りの喧噪にユメは懐かしさを覚えた。人間界で通っていた学校も、お昼休みはこうだった。好きではなかったけれど、自分の生活の一部、日常だったのだ。



 似てるようで遠い。交わることのない別世界。廊下に等間隔におかれている胸像の視線に居心地の悪さを感じる。長く続く廊下。ユメは嘆息した。


 


 私は、ずいぶん遠いところまで来た。



 



 







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