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史上最悪の国王誕生祭 2

揺れる馬車内の窓から、カーテンを開けて遠ざかっていく月城を眺める。前にも見た風景。小高い丘に森に囲まれて聳え立っている。


 あの時は、あの城が自分の帰る場所だとは思いも寄らなかった。


 どんな顔をするだろう。ユメは思った。ラクス、そしてレニタス、フローラ、イグニフェルもだ。


 国王誕生祭なのだからラクス、イグニフェルは当然、レニタスやフローラも出席するに違いない。国中をあげての一大イベントであり、様々な種族の精霊を率いるリーダー達が集まる他、


 王宮前の広場には埋め尽くすほどの他の精霊達も集まると聞いた。


 彼らの驚く顔は、あまり見たい気がしない。ユメが月の精霊、しかも頭首であるゲントゥムの孫娘であるとは、にわかには信じられないに違いない。



「緊張するのか?」


 ユメの真向かいに座っているゲントゥムが、ふいに問うた。


「え、えぇ」


 少し狼狽えながら曖昧に頷いたユメは、カーテンを閉め前に向き直った。


「ゲントゥム様、無理もないです。何もかもが突然すぎて、一度に全部受け入れるのは難しいでしょう」


 ゲントゥムの隣に座っている正装をした中年の男、紹介されたとこによると、星の精霊の長老の息子、名はマルスでゲントゥムの執事を務めていると聞いた。


 今日の誕生祭に公に出席するのは、身内ではこの馬車に乗っている3人のみ。

 給仕や召使たちは、別の馬車に乗ってユメ達を追いかけてきている。


 どの馬車も星の精霊が術でで繰り出した黄金のたてがみを持った光る馬に率いられている。


 星の精霊は、生き物や物などを術で作り出すのを得意とする一族。月の精霊の直属の精霊達であり、その関係は言わずもがな密である。


 月の精霊は現在、ゲントゥムとユメ以外に、王都から遠く離れた地で隠居しているらしい弟、そしてその息子以外は存在しない一方、星の精霊は把握しきれないくらい無数にいるらしい。


 もちろん、所有するオリゴはそれぞれ異なっており、僅かなオリゴにしか拠らない星の精霊も少なくないが、なんと言っても一族の数、そして使用する術の特殊性は脅威的であり、王家も侮れない存在だとか。



 バックにいる星の精霊の存在が月の精霊の存在をより影響あるものにしていると言っても過言ではない。


ーー月の精霊である我々の存在そして権威は星の精霊達によって守られている。


 ゲントゥムは、そのことを肝に銘じておかなければならないと言った。


“月城”に仕えている者は、星の精霊達で占められており、ダルフィムも例外ではない。星の精霊の中の、イルカ座の精霊の一人だ。


 また、マルスはと言うと、火星の精霊の一人だと聞いた。


 ユメが昨夜の回想に耽っている間も、マルスはユメを落ち着かせようと気遣ってか始終話続けている。


「まぁ、それでも注目されるのは間違いないでしょうが、堂々としておられればいいですよ。ディアナ様、あなた様は正真正銘のゲントゥム様の孫娘、ましてあのデュセム様のお嬢様であられるのですから」



孫娘、娘、祖父、母親。昨日目が覚めてからやたらと耳にする言葉。だが、今までそういうものとは無縁に過ごしてきたユメには今ひとつその感覚が掴めない。


 

 また、そういう経験の有無にかかわらず、誰にとってもこの状況は受け入れ難いに違いない。なんと言っても、母親が判明したはいいが、その女性は随分前に既に亡くなっているのだから。



 ゴトン。

 何かの衝撃で前方に馬車全体が傾き、後輪が少し跳ね上がって地についた後、馬車が止まる。



「やれやれ、またダークリットですか」


 マルスが重々しい口調で言う。ゲントゥムは微動だにせず、ただ静かに目を閉じた。ユメは恐る恐るカーテンを開けた。


 予想通り、窓の外に見える数体の影。耳を塞ぎたくなるような、叫喚。


『道連れにしてやる。誰も彼もだ! なぜ俺が呪わなければならない!? 俺が何をしたというのだ!?』


 ゲントゥムの手前、震え出しそうな身体にぐっと力を入れて堪える。何故だか臆病者だとは思われたくなかった。


 マルスは落ち着きを払った様子で、私が処理してきましょう、と言い一人で馬車を降りる。ゲントゥムは変わらず動こうとせず、マルスに事態を全て任せたかのように見えた。


馬車に残された二人は沈黙だったが、ユメには苦悶した叫び声が間断なく聞こえ続ける。


 得体の知れない悲しみがユメの心をじわじわと覆いそうになるのを紛らわしたい一心で、ユメは思い切った質問を勢いでゲントゥムに投げかけた。



「声が聞こえるのです。ダークリットに会うといつも。ラクス、いえラクス様達は誰も信じてくれなかったのですけど、やはり私の幻聴なのでしょうか?」


  ゲントゥムがユメの言葉に目をゆっくりと開く。何の感情も読み取れない顔。しばらく無言でユメの顔を眺めていたが、やがて口を開いた。



「私は聞こえないし、他の者も同様だろう。だが、それは幻聴でなく恐らくお前が生まれながらに授かった能力。ダークリットは知っての通り精霊の残滓だ。奴らが一般の精霊が理解できない方法で何かを訴えていても不思議ではない。むしろその方が自然とも言える。周囲に無差別に襲いかかりながらも、一番に奴らが苦しんでいるというのは私らにも様子で分かる。生者と死者の中間の存在に、何かの要因で禁忌を犯して入り込んでしまった者達の末路だ」


 ゲントゥムが窓の外に初めて目を向ける。マルスがちょうど術を放ったところだ。夜空に浮かぶ星々のような小さな光でできた球体が一瞬空中に浮かんだと思うと、次の瞬間それは爆発し、金色に輝く小さな竜が現れた。


 ユメよりもやや小さいくらいの小型の竜だったが、勇猛果敢に相手を威嚇し、マルスの指で鳴らしたポンという合図で、一直線に影へと、渦を描く炎を吐きながら突っ込んで行った。


 次々と強力な炎に消されていくダークリット。ユメはいつもと様子が違うことに気づいた。炎に巻かれたダークリットは、例えばラクスの光で焼かれていたダークリットのようにもがくことなく、叫びもせずに静止している。


 次の刹那、決定的なことが起き、ユメはあっ、と驚きの声をあげた。ゲントゥムがその理由を理解したらしく、口を開く。


「マルスは優秀な術使いだ。私と同様に『浄化の光』が使える」


 窓の外に見えたもの、ほんの一瞬の出来事だったが、それは精霊達の姿だった。半透明ではあるが、一般の精霊とほとんど姿が変わらない。瞬きをした後には既に消え去ってしまっていたが、彼らは恐らく……。


「マルスはダークリットを浄化したのだ。殺して消滅させるのではなく、元のあるべき姿、死者へと返す術だ。セレーネに属する術の奥義の一つとも言える」


「殺すのと浄化するのでは、どの様な違いがあるのですか?」


「結果は何も違いはないだろう。強いて言うなら、浄化は効率が悪い。かなりのエナジーを消費する高度な技だ。これもまたセレーネの奥義、『真実の光』と同様に」


 真実の光。ユメはこれまでに数度その光を目にしたことがある。ラクスが繰り出したものだ。


 ゲントゥムが話を続ける。


「また浄化したからといって、一度ダークリットに成り下がってしまった精霊を救えるわけでもない。あくまで残滓であり、その魂の大部分はとうにどこかへと消滅あるいは奪われてしまっている。だが推測ではあるが、浄化の方がダークリットにとっては苦しみが少ないだろう」


 再びユメは窓の外に目を向けた。もうそこにはマルス、そして小型の竜しか残っていなかった。



 先ほど一瞬だけ見えた精霊達、それはダークリットになる前の元の姿なのだろう。


「声が聞こえるのは心苦しかろうが、ダークリットの件は私も動いている。お前はこの件は関わる必要はない。その前にやるべきことが沢山ある」


 ゲントゥムの言葉に、特段不満もないユメは素直に頷く。それより、ゲントゥムがダークリットの件で調査にあたっているというのをユメは意外に思った。この国ために、一頭首として務めにあたっているのだろうか。


 言動からは、身内はともかくこの国に対する忠誠心は見受けられなかったが……。


ユメがそんなことを考えていると、マルスが小脇に先ほどの竜をかかえ馬車内に戻ってきた。

 


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