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史上最悪の国王誕生祭

 複雑な心境で鏡に映る自分を眺める。


 そういえば、前にも同様のことがあった、とユメは思い出す。洋館で暮らしている時身につけたフローラの服。


 あの時はこんな可憐な服は自分には似合わないと、溜息をついた。もう遠い昔のことのように思える。


 今ユメはフローラの服のような可憐なものではないが、クリーム色でラメの入った、シンプルだがかなり高価そうなドレスに袖を通している。


 ドレスを着るのをダルフィムが手伝っているが彼女は、またもや目に涙を浮かべている。


「このような日が再び訪れるなんて夢のようです。ディアナ様、よくお似合いですよ」


 ユメは溜息をついた。昨日にゲントゥムから聞かされた話。正直、未だに全く信じることができないでいる。


 だがその一方で、頭の隅で直感が全部真実であると頻りに主張していた。と同時に、もう一つの直感が、信じることを阻む。


 一度この事実を受け入れたら元には戻れないと。杉原ユメとは別れを告げ、ゲントゥムの孫娘のディアナ、ディアナ・クレセントとして生きていく覚悟があるのかと。



 ドレスを着た後、ダルフィムが朝食の時間ですと告げたので、ユメはダルフィムの後について部屋を出た。



 あのラクスの洋館とは雰囲気ががらりと変わるが調度品の豪華さは全く見劣りしない。長い廊下に面している無数の部屋。そもそもこの月の精霊頭首の城は、洋館の数倍以上の規模。



 この城より大きな城、それは王宮ぐらいだとレニタスが言っていた。


 ここが本当にセレーネの言う通り自分の帰るべき場所なのだろか?


 そして自分は本当に……?




 「目覚めはいかがかな?」


 広いダイニングに入るなり、先に朝食の席についていたゲントゥムが、ユメに声をかけた。



「ぐっすり眠れたので、体調も万全だと思います」


 本当は色々と考えていて、昨夜は殆ど眠れなかったのだが、それを告げる必要もないと思ったので嘘をつく。


 チラリと斜め横のダルフィムを見ると、その薄紫色の瞳にぶつかった。何かを訴えている目。



 そこで、ここに来る前にダルフィムに念押しされていたことを思い出し、慌ててゲントゥムの方に向き直る。



「お、お祖父様はご機嫌いかがですか?」


するとゲントゥムは、何かを答える訳でもなく、代わりに満足そうに頷いた。


 そしてユメは ダルフィムに促されるまま、20人がけの長いテーブルの席についた。ゲントゥムの真向かい。


 緊張して背筋を正す。 テーブルに腰掛けているのは、ゲントゥムとユメのみ。給仕達はずらりと背後に控えているものの、やはりがらんとしたテーブルは寂しい。


 ゲントゥムは毎日ここで一人で食事をとっていたのだろうか。ふとユメはそんなことを考えた。


「今日の国王誕生祭のことだが、 私が昨日言った通り」


「昨日話したことは、他言無用ですね」


 目の前に出されたサラダ、多種類のハムにスクランブルエッグののったプレートを眺めながら、ユメは答えた。



「その通りだ。立場上、王家に下手に詮索されると困る」


 その「王家」には当然ラクスも含まれる。 


「ラクス……、ラクス様についてはどうすれば……?」


「余計なことを話さなければ、普通に接して構わないだろう。だが必要以上に関わるな。お前の首を絞める結果に繋がるかもしれん」


「どういう意味ですか?」


「今はそれを教えるべき時ではないだろう。それを知るまでに、お前はもう少し成長する必要がある」


  成長。それは術のことを言っているのだろうか?

 指の先が、昨夜のことを思い出したかのように痺れる。まるで解放を待ち望んでいるかのようだ。それを察してか否か、ゲントゥムがユメに指示を与える。


 「少し腕輪を外してみなさい」



 左の手首にはめられている金の腕輪。同様の金細工が施されたクリーム色の大きな石がはめられたネックレス。


 昨日ユメが目を覚ましたときには、既にはめられていたものだが、幾重の術から開放されて溢れ出したエナジーを制御するためのものらしい。


 心臓の鼓動が、他人に聞こえてしまいそうなくらい煩い。未だ軽く痺れる指をそっと動かし、ユメは言われた通りゆっくりと腕輪を外した。外すのはこれで二度目だ。


 瞬間、前回と同様にユメの全身から溢れる銀色の光。


 給仕達から歓声が上がるも、ユメは困惑してただ光の中でじっと座っていた。


 これが自分の中から出される光だとは奇妙な感じだ。こっちの世界にきてから、術の光には何度も包まれたが、それはあくまで外部の力。


 自分のエナジーだとは到底信じ難いことだったが、エナジーが発生している時に感じる、体の隅々までにじんわりと小さい痺れのように広がる暖かい感覚と、何かがユメの体から空気中に発されている感覚は、この世界でも新しい感覚だった。


 ゲントゥムが目を伏せてやめるように指示したので、慌てて腕輪をつけ直す。途端に銀色の光がふつりと消える。


「慣れないうちは迂闊にその腕輪を外さないように。そのネックレスについては、私の術で外せないようになっているので心配ないが……」


 ゲントゥムはコーヒーを一口啜るとさらに付けたした。


「エナジーは天賦のもの。生より与えられた恩恵だが、それには同時に避けられない責任と義務が伴うことを忘れてはいけない」


 ユメはよく飲み込めないまま、だが丸く埋めるために頷いた。


 セレーネとゲントゥムはどこか似ているところがある。肝心なところを直接言及するのを避け、ぼやかすところだ。




 そんなことを考えながら食後の紅茶を啜っていると、ダイニングルームにユメ達と同様正装をした中年くらいの男性が入ってきて、出発の時間であることを告げた。

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