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答えの先は始まり 4

 ユメは洞窟の中を一人で走っていた。息を切らしながらも、必死に走り続ける。海鳴りのような唸り声をあげて迫ってくる怪物と化したカエル、そしてウサギ。立ち止まったら、それは自分の最期を意味する。


「ラクス! レニタスさん! イグニフェルさん! どこー!?」


 洞窟内に響き渡る自分の声。返事は返ってこない。


 突然何かに足が捕らえられる。魔法陣だ。溢れ出るのは光ではなく、灰色の煙。吸い込んだ後に喉に焼けるような痛みを感じ、ユメは咳き込んだ。


 ふと前を見ると、セレーネがたっている。黒髪は下から風が吹いてるかのように、上に向かってなびいている。



「セレーネ! 助けて! 怪物たちが襲ってくる」


 セレーネは必死に懇願するユメに向かって、静かに微笑んだ。



「あなたは、自力で彼等に立ち向かわなければなりません」


「無理に決まってるでしょ!? 私は人間。術なんか使えないの!?」


 首筋に触れる砂埃。振り向くと同時に、その影にとらわれる。上から襲い掛かってくる、カエルとウサギ。



 ユメは悲鳴をあげた。




そして、一気に視界が変わる。







「だいぶうなされてましたね。ご気分はもう大丈夫ですか?」


夢から覚め、上体を起こして荒く呼吸をしているところに、傍から女性の声が聞こえてきた。


見ると、召使いらしい服を身につけた中年くらいの女性が、心配そうな顔をしてユメの寝ているベッドの横に立っている。


この場合、「あなたは誰?」や「ここはどこ?」、「どうして私はここにいるの?」という言葉がふさわしいだろう。


事実、ユメも同様のことを聞こうとし、軽く唾をゴクリと飲んだ後、口を開きかけたが、瞬間女性の背後に見えた大きな肖像画を目にして、思わず全く別のことを口にした。



「綺麗な人……」


女性は、一瞬だけユメの視線の先を振り向くと、微笑みながら答えた。



「デュセム様です。それはもう、お美しく心優しい方として評判だった方です」


どこかで聞いたことがある名だ。「だった」という過去形が使われていることから察するに、もう亡くなっている方なのだろうか。


そこで、ようやく聞くべき質問を口にする。


「あなたは誰?」


 すると、女性は軽く頭を下げた。


「申し遅れてすみません。私はこの城に仕えている女中の、ダルフィムと申します」


「城? ここはどこかのお城なの?」


「はい、その通りでございます、お嬢様。長い年月を経たとはいえ、またさまざまな不幸に見舞われた後だとしても、私達はこうしてお嬢様のお迎えできることができて、本当に幸せです」


 驚いたことにダルフィムは目に涙を浮かべていた。セレーネはユメが帰るべき場所にユメを送ると言った。


 それが本当ならここは一体どこなのだろう?


 急に胸が高鳴りだす。今、自分の長年抱いてきた疑問が解き明かされようとしているのだろうか。


 今いるお城とは誰のものなのか、そして自分がここにいる理由、肝心の質問を聞こうとしてユメが口を開くと同時に、部屋のドアが開き別の人物が入ってきた。  


  入ってきた人物を目にし、ユメは唖然とする。


「ゲントゥムさん、なぜここに?!」 

ゲントゥムはユメの言葉に口の端を吊り上げる。予想通りの反応だ、とでも言うように。


  ベッドの傍に立っていたダルフィムは、ゲントゥムが部屋に足を踏み入れるや否や、頭を下げながら数歩後ろへ退いた。


「さて、何から話すべきか。いや、何を話すべきか」


そこで一拍置くと、ゲントゥムは一言付け加えた。


「我が孫娘、ディアナよ」


 ディアナ。初めて聞く響きなのになぜか懐しく感じる。


 言葉の意味をまだ飲み込めていないうちに、ぼんやりと頭に浮かんできたのは、ラクス、そしてレニタス、フローラの顔だ。


 ユメの直感が、もう人間界へも、そしてあの光溢れる穏やかな洋館へも帰れないと言うことを告げていた。





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