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答えの先は始まり

「ディアナ」


低い声が室内の空気を震わす。自分の心の奥にまで響く言葉。

真っ先に頭に浮かんだのは、彼と彼らの顔だった――。



*   *   *



「泉もそう遠くないはずだ、だが油断するな」


神経を尖らせたラクスの声があたりに響く。

先程よりも速く進む歩調に、後ろからついていくユメはほとんど小走り状態だった。



「だが、きっと泉の前では最難関の罠がしかけてられているはず。僕に何かあっても、ユメは前に進め。いいな?」


有無を言わせない口調。だが、ユメは当然困惑する。


「一人で? そんなの無理だよ……。その後何かあっても、私、なにもできない」


「全速力で走って進め。泉を見つけたら、迷わず飛び込むんだ。それで、この試練が終わる」


「私が一人になった場合でしょ? そうならないかもしれない」


「ああ、それが最善ではあるが、嫌な予感がする」



 ラクスが静止する。今度はぶつからないように、慌ててユメも足をぴたりととめた。自分の足元を苦笑いして眺めているラクス。見ると、いつのまにかラクス、そしてユメも直径2mほどの青く光る魔法陣の上、ちょうど中心のあたりに立っていた。


「月の術にはやられてばかりだ。これほど、大きな魔法陣が隠されているのに気づかなかったとは、どうやら全体に張り巡らされている結界に感覚を鈍らせる作用があるみたいだ」



 これがお約束とばかりに、青く光りだす魔法陣。ユメは慌てて飛びのこうとし、そこで気づいた。足が動かない。といよりも青い魔法陣に貼りついてしまっているらしく、足をあげようと動かすも魔法陣の張られた地面から離す事ができない。


 苦々しげに自分の足を見ているラクスも、察するところ同様らしい。



「ラクス、これ、どうすれ――」


「キャウゥゥゥ」


 明らかに不穏な鳴き声に、ユメは口を閉じる。この静かな洞窟では、遠くからやってきているらしい獣の声は容易に聞き取ることができる。


「ギャゥゥゥ」


 親切なことに、やってくる獣は一匹だけじゃないらしい。背後から聞こえてくる鳴き声と足音、微かに見え出した砂埃からするに、数匹ではなく、大量。ユメは顔から血の気がひいていくのを感じた。と、同時に、ラクスが舌打ちするのが聞こえる。



「どうする?」


 それはユメに聞いたのではなく、ラクスの自問だった。


「魔法陣の破壊を試みるか? だが結界の中での弱い術では、容易に跳ね返されて自分らが真っ先にダメージを受ける可能性がある。くそ、厄介だ」


 そう呟いている間にも迫り来る獣達の影が露になる。


「ウサギ……?」


 猛烈な勢いでこちらに向かってくる大群は、全長2mをゆうに超えてそうなウサギ達だった。とてもウサギが発するものとは思えない、戦隊ものの番組に出てくる怪獣のような低い鳴き声。大きく口から飛び出した牙のような前歯。半分ほどで垂れ下がった耳、血のようなどす黒い赤の目。


「可愛くなっ!」


 ここまで可愛げのないウサギは当然見たことなかったので、思わず恐怖を忘れて突っ込んでしまう。



「ああ、確かに可愛くない」


 驚いたことに、ラクスがこの迫りくる大危機の中で、ユメに同調した。


「あの、醜い前歯。あれに噛まれたら、僕達は一溜まりもないな」


 なるほど。見た目だけでなく、敵としての能力も全く「可愛くない」仕様らしい。自分が頭からウサギに噛まれるグロテスクな想像をして、ユメは震え上がった。



「ラクス、どうにかなるんでしょ? 死ぬにしても、あんな不細工ウサギに噛まれて死ぬのは私もいや!」


「一匹ずつ倒していくのは可能だ」


 先頭のウサギが、魔法陣から1mしか離れていないところにさしかかる。そして一瞬ぐっと足を曲げたかと思うと、次の刹那、空中に飛び上がり、上から二人に襲い掛かってきた。

 

 思わず目を瞑るユメ。すぐ傍で、ラクスの声が聞こえる。


「貫く光よ。ブリュナーク」


 ラクスの頭上に現れる数本の巨大な光の槍が現れ、即座にまばゆい光を放ちながら、頭上を襲い掛かってくるウサギを迎え撃つ。容赦なくウサギの体の至る所を貫いた。甲高い悲鳴と共に消えるウザギ。だがその後から、同時に飛び掛ってkる2匹のウサギ。その後ろにも無数のウサギ達が続くのが見える。



 ラクスは舌打ちをし、再び槍を今度は先程よりも多く生じさせ、次々にウサギ達を消滅させていく。


「参ったな。キリがない。きっと無数に出てくる仕組み。このままだとエナジー消耗に繋がり、やられてしまう」

 

 現れては間髪おかずに貫いていく、光の槍たち。当面は大丈夫でも、術は無限に使えるわけではない。


「こうなったら、一かバチかだ。ユメ、できる限り体を横にそらせ!」

「え、足が捕らえられてるから」

「いいから、できる限り横に逸らすんだ。さもないと、下敷きになるぞ」

「それどういう意――」

「行くぞ!」


 問いかけるユメに上からかぶせるようにして、ラクスが叫ぶ。



「出でよ、光の鏡、スペクルム!」


 呪文と同時に現れる、光の鏡。ユメが見上げると、垂直ではなくやや前に傾いて浮かんでおり、ユメ達を頭上から映し出している。ユメは悟った。冗談じゃない。


 次に飛び掛ってきたウサギが見事、綺麗に鏡にヒットする。そこまではよい。問題はその後だ。


 ユメは悲鳴をあげながら、腰が引きつってしまうのでないかというくらい、思いっきり横に体をそらした。鏡にはじかれ、スピードを増しながらウサギが魔法陣の上に落ちてくる。思わず目を閉じる。


 ドサっと鈍い衝撃の後、恐る恐る目を開けると、ユメのすぐ傍に、歯が魔法陣の描かれた地面に刺さった状態で気絶したウサギが倒れている。ごわごわとした、白い体毛。仕留められたのではなく、気絶しているだけのため、微かに息をしている。生々しい獣の匂い。それだけでユメは腰が抜けそうになった。


 恐怖のあまりよろめく、ユメ。そう確かに、ユメは数歩よろめき、傍の壁で背中をもたれさせ、ようやく自分の体を支えた。


「うまくいった!」


 なぜか満足げに叫ぶラクス。その間にも槍は次々に現れ、途切れなく向かって来るウサギを1匹も逃すことなく順調に消滅させていっている――。



「今ので破壊できたのは、魔法陣の一部。僕は動けない」


 そこでようやく、ユメは気づいた。自分が魔法陣を離れていることに。魔法陣がいつのまにか、ユメの足を解放していた。


「さっき言ったように、走れ! そう遠くないはずだ。僕ももう一度破壊を試みた後、すぐに追いつく」


「でも……」



 再び言いようのない恐怖がユメを襲う。

 一人でこの先の闇を進めと?

 無茶に決まっている。



「この先から、力を感じる。結界の中でも感じるほどの、強い力だ。泉はすぐそこのはずだ!」

 

 それでも、ユメは渋った。絶え間なく聞こえてくる唸り声、そして甲高い断末魔。足がどうしようもなく震えだし、再び魔法陣にとらえられたかのように地面に張り付いてしまっている。



「君が泉に飛び込めば、この試練が終わる。この試練を終わらせられるのは、ユメ、君だけだ」


 ユメはぎゅっと握りこぶしを爪が食い込むくらいに握り締めた。



 「ユメ、行くんだ!」


 まるでその言葉がユメに術をかけたかのように、ユメは息を吸うと、くるりとラクスに背を向けて、振り返ることなく走り出した。ラクスの光から離れて、闇の中に一人飛び込む。



 走りながらも、全身がガチガチに震えている。大丈夫。ユメは自分を励ました。

 闇なんか怖くない。この世界に来る前も人々が恐れ怖がったところに、平気で入れたじゃない。

 それと同じよ。



 一度も振り返ることなく、早くこの試練を終わらせたい一心で、ユメは一人走り続けた。




 




 


 

 

 


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