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紫の洞窟 11

「それにしてもさー」

イグニフェルが両手を頭の後ろ組んで歩きながら、気の抜けた声で言う。

他の3人はもちろん、ここまで能天気に歩いてはいないが。

「ここ、ほんっと紫色の洞窟なんだな。紫色の宝石かなんかが一面に埋まってるんだろうけどよ。アウルムはここに来ちゃいけねーな。あいつは無類の宝石好きだから、ここに来たら目を光らせて、壁ごと破壊して奪略行為に及びかねない」


 もちろん、イグニフェルに反応するものはない。

 けれど、本音を言えば、ずっとイグニフェルに気を紛らわすことを言い続けてほしかった。


 響く4人の足音。

 ラクスが術であたりを照らしてくれているが、少しでも歩調を緩め距離が離れると、そこはもう闇。

 たまにポツポツと天井から落ちる雫の音が、恐ろしく不気味だ。



「変ですね」

 歩き出してから初めて、イグニフェル以外の者、レニタスが口を開く。


「何も起こる気配がありません。確かに最初から結界が全体に張られていて、術を使いづらくしているのは確かですが……」

「確かに妙だ」

 ラクスが先頭を歩きながら、振り返らずに返事をする。

「聖地に足を運ぶのは初めてだが、書籍や噂では試練の場としてさまざまな罠が仕掛けられていると聞いた」

「そりゃ、聖地だからな。一族の頭首になるには、その族の聖地を制覇するのは必要最低限の資格と言われているぐらいだ」

なんでもないことのように言うイグニフェルに、レニタスとラクスが歩きながら振り返る。

「お前、以前聖地に入ったことがあるのか?」

「おい、ラクス、いつも忘れているようだが、俺は火の頭首だぜ。行ったことあるのは当然だ。修行のためにも、もう何度も一人で入ってる」

「イグニフェル様、火の聖地というのは、どんなところなのでしょうか?」

「興味があるならいつでもつれて行ってやるぞ。そうだな、こことはだいぶ雰囲気が違うな。砂漠だ。その中で仕掛けられる猛烈な攻撃に耐えながら、神殿を見つけなければならない。火の玉や砂地獄やら結構過酷なところだぞ、それにしても驚いたな、ラクス、お前が初めて――」


 ふつりと、イグニフェルの声が止む。と、同時にユメの周りに浮かんでいた4つの火の玉が消えた。


「え……]

 ユメが足を止める。ラクスとレニタスも驚いて、立ち止まった。


「あの馬鹿どこに行ったんだ?」

「消えた……? ですが、何の前兆もなく? たった今まで話し続けておられましたよね」



 3人はある一点を、困惑して眺めていた。

 そう、ほんの一瞬までイグニフェルがいた場所を。

 忽然と何の前兆もまた痕跡もなく消えてしまった。



「試練が始まったということか」


 ラクスがあたりを睨みつけるように見回しながら、依然として落ち着いた態度で言う。


「あいつ、あれほど自信満々だったくせに一番最初に消されるとはどうしようもないやつだな」

「しかし、大丈夫でしょうか? ここは下手をすると命を落とす可能性もある場所……」

「これは、きっと月の精霊の得意とする雲隠れ、欺きの術だ。まぁ、あいつも一応頭首だ、しぶとい性格だから、簡単には死なないだろう。まぁ死んだら、葬儀花はフローラに頼めばいいことだ」

「ラクス様、葬儀花の心配をしてるわけでは……」


 レニタスの咎めるような突込みを聞き流しながら、ラクスは視線をずらし、ユメに合わせた。

 先程のの気まずさが以前と二人の間の空間に陣取って座り込んでいるので、ユメは少し身を縮こまらせる。


「レニタス、ユメの後ろについてくれ。あの馬鹿はともかく、肝心のユメが消されるとこの先厄介だ。細心の注意を払って、風の感知の術を使ってもらえるか?」

 レニタスは重々しく頷いた。

「ええ、やってみます。ただ結界が強すぎて、思うようには術がうまく使えませんが……」

レニタスがユメを振り返りる。


「ユメさん、私の前へお願いできますか? ささ、こちらへ」


無言でコクンと頷くと、ユメはゆっくり足を踏み出した。



 再び歩き出す、一行。

 心なしか冷たく見える、ラクスの背中。

 さっきからまともに目を合わせてない。

 ユメはため息をついた。

 自分達の足音とたまに聞こえる水滴の音しか聞こえない静寂さが、ユメの神経を逆撫でする。


 何が起こるか分からない洞窟。

 気まずい雰囲気。


 早く終わってほしい。あと泉にはどのくらいでつくのだろうか。



 紫色の地面を踏み歩く自分の足を見つめながら歩いていたため、ふいに前を歩くラクスが止まったことに気づかず、額のあたりをラクスにぶつけてしまい、ユメは青ざめながら急いで後ろに飛びのいた。顔を俯かせたまま、謝る。


「ごめん、見てなかった」

「……」


 ラクスは何も答えなかった。おずおずと顔をあげると、ラクスはユメがぶつかったことなど気にしていないようで、何かを調べていた。


 自分の前にまるで壁があるかのように、手を這わしている。


「ラクス様? そこに何か?」


 レニタスがユメの背後から声をかける。


「ああ、何かを感じる」


 そう言うと、ラクスは一歩下がり、光を出した。それはユメにも見覚えのある光、「真実の光」。その光の中に入った経験があるせいか、感覚で判別できる。


 すると、その光に照らされ、ラクスの前に半透明の光の壁が現れる。そして、それだけではなく、ラクスの少し離れた右側に現れる銀色に光る魔法陣。



「それは……」

「嫌な予感がする」

 レニタスの問いに、ラクスが顔をしかめる。魔法陣に近寄ると、座り込み慎重に調べ始めた。ユメは目の前にある光の壁に吸い寄せられるように近づいた。不思議だ。先程まではなにも存在しない空間のように見えたのに。そっと壁の方に手を伸ばす。ほとんど無意識の行為だった。


ふとラクスがユメの方を見、叫ぶ。


「触るな!」


 その叫び声よりも一瞬先に壁に触れる、ユメの手。光の壁は冷たかった、と感じた瞬間、ユメは体全体に不思議な痺れが走るの感じ、次の刹那、後ろに勢いよく飛ばされた。慌ててレニタスが受け止める。


「大丈夫ですか、ユメさん」

 

 ユメは頷き、自分の力でレニタスから離れ立ち上がる。驚きはしたものの、自分でも意外なほど冷静だった。


「頭がどうかしているのか?」


 怒ったラクスの声が響く。


「正体の分からない物に、容易に触れるなどどうかしているとしか思えない」

 

 ユメは怒られているのにもかかわらず、どこか超然として聞き流していた。まるで他人が怒られているのを眺めている感じ。「正体が分からないもの」と言ったが、なぜかユメは目の前にある光の壁が危険なものではないと分かっていた気がした。


「まぁ、ラクス様、ユメさんはいろいろと分からないことが多いんですし、それに今のは……」

 レニタスがラクスを宥める。


 ラクスが二人から顔を背け、ため息をつく。


「ああ、シールドの術だ。強力な。そして、この魔法陣はきっとこのシールドを解除するための魔法陣だろう。だが、どうやれば解除できるのかまでは……」


 ふとユメがラクスと魔法陣から視線をはずし、その横の壁に目をやる。そこで初めて気がつく。


「それ……」


 ユメがその一点を指でさした。レニタスとラクスが同時にその先を見る。ユメがさした一点は、そこだけ紫の光沢がなく、誰かが削ったかのように少し窪んでいた。ちょうど四角い形になっており、その窪んだところの平らな面には、色のついた絵が書かれてあった。


 カーテンのように開いた光の壁とその近くには銀色の魔法陣。その魔法陣の上には精霊らしきものが描かれている。



「さっきまで、この壁画あったか?」

 ラクスが鋭い声で聞く。


「いえ、気づきませんでした。でも、これは……」



 この壁画が意味すること、それはユメにとっても明瞭だった。


「私しかいないでしょう」


 レニタスがきっぱり言う。ユメはラクスの顔が歪むのがみえた。だが、何も言葉を発しなかった。確かに否定のしようがない。


 レニタスが魔法陣に歩み寄る。


「月の精霊なら」

 苦々しげにラクスが魔法陣を睨む。

「いや、僕がもう少し熟していれば、魔法陣を欺く術が使え、誰かを犠牲にしなくとも――」


「大丈夫です、ラクス様。心配なさらないでください。それより、先に進む準備を」


 レニタスがラクスを見てコクっと頷く。ラクスはしばらくその顔を不安げに見ていたが

やがて同様に頷き返した。


「ユメ」


 名前を呼ぶと同時に、ラクスがユメの手首を掴む。ラクスの綺麗な横顔に現れる決心の強さ、少しも恐れを見せず微笑むレニタスに、ユメは心配すると同時に、自分のためにこういう状況に出くわしているという罪悪感似たものを感じた。



「それでは後で」


 最後にレニタスは微笑み、一瞬のためらいもなく魔法陣に足を踏み入れる。途端に魔法陣から光があふれ出し、レニタスを包む。そして全身を包んでレニタスの姿が見えなくなった後、光が消えた。当然、そこにはもう、レニタスはいない。



 今度は前の光の壁が光り始め、壁画に描かれているとおりゆっくりと開く。



「いくぞ」


 ラクスがユメの手首を掴んだまま、開いた道を進みだす。



「レニタスは?!」


 予想はしていたものの、いざレニタスが消えたところみるとショックを受ける。引っ張られながらがらも、どうしても問わずにはいられずラクスに聞く。ラクスは前を向いたまま、答えた。


「大丈夫だ。それより、自分の心配をしろ。油断するな」


 ラクスのいつもの余裕な表情が消え、今は真剣な色が浮かんでいる。ユメは唇をかみ締め、引きずられるのではなく、しっかりと自分の足で歩き始めた。


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