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理不尽な始まり

 何かを選ぶということ、それは何かを得、何かを失うということ。

 誰もが分かれ道に突き当たるたびに、得て失って、そして先へと進む。


 何が正しいかなんて、「答え」はどこにもない。

 けれど私達は選ばなければ、ならない。

 正しかったのか、あるいは間違っていたのか、永遠に分からないものであったとしても。







 静かな物語の最初が好きだ。

 何かが起こる前。

 穏やかな空間。

 光がさす和やかさと、その裏に潜む緊張感。



 そこに選択権があったのならば、ユメは間違いなく静かな始まりを選んだ。

 選ぶ権利があったのなら、絶対にこんな理不尽な展開は間違っても選ばなかっただろう。



 昔から不公平だと思う。

 どうして選びたくない時に限って選択肢を与えられ、肝心の選びたい時にはいたずらに流されてしまう。

 うまくいかない。

 人生そういうものだと割り切れればいいだけの話かもしれないが、なぜか歯がゆい。



 ゆったりと流れていた日常が、あの日を境に次元ごと崩壊していった。

 それが良かったのかどうか。

 今でも分からない。

 

 でもきっと誰も知ることはできないのだろう。

 皆ひとつの道しか選択できない、最初からそう決まっているのだから。




「は……? あの……。どちら様?」

「ウガルル……」

 その突然目の前に現れた黒い物体は、あからさまにユメに向かって威嚇している。

 これは獣なのか、または霊体のようなものなのか、ユメは目を細めて見極めようとしたが分からなかった。


 これはやばい状況。

 十中八九やばい。


 耳でその音が聞こえるくらいに喉の奥で、唾をごくりと飲む。

 そして深く、次に備えて一息吸うと。



「ぎゃー!」

 声の限り叫びながら、ユメは全速力で逃げ出した。

 こんな怖い経験はもちろん初めて。

 もしかしたら、こんなに大声を出したのも初めてかもしれない。そのせいか、必死に出してるつもりだがそこまで声が響かない。

 ホラー映画とか絶叫マシーンとか、スリリングなものはだいたい好きだったけど、この状況とは次元が違う話。



「あり得ない。あり得ない。あり得ない。え、これ夢? 夢でしょ?」

 存在しない誰かに話しかけながら、後ろを振り返ると、期待を裏切らずにこっちに向かってくる黒い影。


「嘘でしょ!? 誰か助け……ふぎゃ」

 突如、体の体勢が水の中ににダイブするような角度で傾き始め、時の流れがスローモーションに切り替わる。

 物語でも現実世界でも異世界でもこれはお決まりのことなのだろうか。

 急激に近づいてくる、衝突するととても痛そうな地面を睨みつけながら、ユメは思った。



 物語ではここらへんで助っ人が登場するはず。

 だけど、ここは物語の中じゃない。

 そんなにうまくいく訳ないってのが現実か。


 地面に身体が投げ出された衝撃を、そのまま受け止めた後、ユメは覚悟を決めて目を伏せた。

 自慢ではないが、元から諦めはかなり早い方だ。得意、と言ったほうが正しいかもしれない。

 自然に身を任せて、嵐が過ぎ去るのをじっと待つ。今回はその「嵐」が過ぎ去ってくれそうにないけれど、それはもう自分の運命として潔く観念するしかない。


 何も期待しないほうが、諦めて超然としていたほうが、潜り抜けられる。

 物心ついて間もなく、ユメが学んだ教訓だ。

 超然と。何物にも頓着することなく。

 

 生死の境界線を越えることも、身を任せればきっと抜けられるはずだ。

 まぁ今まで体験談は聞いたことないし、というかこの世界は体験した人とはもう話すことのできない、という仕組みになってるし、今回ばかりは自信ないけど、信じたいところ。最期に。



 あまり冴えない人生だったな。

 そんなことを思いながら。


 

 ユメの複雑な心境を当然気にもとめず、唸り声をあげながら襲い掛かってくる黒い魔物。


 これまでか……。

 世界よ、グッドバイ。

 


 しかし、目を閉じた暗い世界で次の刹那、瞼に感じたのは「黒」ではなく、まばゆい光だった。

「え……?」

 目をあけると、先程の黒い物体がどこからか出ているまばゆい光の中でもがいている。

 見るからに苦しそうだ。


「ギギュルァーー」

 断末魔の叫びをあげながら、その黒い物体は完全に光に包まれ、やがて光が消えていた時には消滅していた。

「何今の……?」


 いきなりまばゆい光を受け止めため、目がうまく機能していない。

 ただ光があったところの少し離れたところに、人影を捕らえることだけはできた。

「誰……? もしかしてうまくいった――」

 

 

 ありとあらゆるショッキングな出来事への耐性を自負して生きてきたはずだが。

 そこで、あっけなくユメの意識は飛んだ。



 助けてもらったのはラッキーだった。

 それはあの時もそして今でもそう思えること。


 けれどあの時ラクスに出会わなければ、きっとここまで辛い思いはしなかっただろう。

 それは後にユメが何度も思うことだった。

 どうして私達は出会ってしまったのだろうか。




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