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紫の洞窟

今日もよく晴れた日だった。

今はまだ、静かな朝。

事が起こる前。

ベッドの上で上体を起こしたユメは、大きく背伸びをした。


外では小鳥が楽しそうにさえずっている。


伸びをした腕をストンとおろすと、ユメはベッドのすぐ傍にある窓を、レースのカーテンを開けて覗いた。近くには大きなブナの木が数本生えている。

小鳥2羽がそのブナの木の枝に止まっているのを見つけた。

何の種類だろう。緑色の羽に黄色も混じっていて、とても綺麗だ。



これもレニタスが作り出したという小鳥だろうか?

レニタスとラクスがここに住むようになってから、静か過ぎるこの洋館にほんのちょっと色を添えるために。


ここの世界にもユメがもといた世界のように動物はいる。

けれど、それらは精霊によって作り出された幻影らしい。

血が通った肉体は何ら人間界のものと変わりないが、それでいて全く別のものだと言った。

難しくてよく分からないわ、と答えたユメに対し、レニタスは微笑みながら言った。

「鏡に映った小鳥だと考えてください。私は鏡の中に映る小鳥を作り出したのです。なぜ作り出すことができるのか。それは、この世界そのものが鏡のような世界だからなのでしょう」



その時に二人がいたキッチンは静かで、小鳥の囀りも聞こえていなかった。

ただレニタスが持つポットからでる紅茶が、湯気をたてながらティーカップに中に静かに落ちていく音だけが響いていた。


「ユメさんのいらした世界、その鏡なのです。この世界は」



気のせいだろうか。

いつもと変わらないその穏やかなレニタスの声は、どこか物悲しく聞こえ、ユメは自分の胸の奥がキュッと小さく閉まるのを感じた。




「レニタス! 味見してくれないかしら。もう、自分でおいしいかどうか判断できないの」

階下から聞こえる、フローラの焦った声にはっとユメは我に返る。


「いけない、私も手伝わなきゃ」

ユメはつぶやくと、勢いよくベッドを飛び出した。


フローラに貰ったワンピースの袖を綺麗に伸ばしながら、階下におりると、玄関で面したホールではレニタスが花瓶にお花を飾っていた。


「綺麗なお花……」

「ユメさん、起きてらしたんですか、おがようございます。この花はもちろん、フローラさんが早朝にもってきてくれたものででして」


「あら、ユメ! おはよう!」

フローラがキッチンから顔を出す。

「よかった、ユメも味見してくれないかしら、このクッキー。頭首様方にお出しするものだから、念には念をいれないといけないわ」

フローラがラクスの代わって、貴族達を歓迎するのに必死になってるのがみてとれた。

「ええ、もちろん! 嬉しい」

「よかった。じゃぁ、こっちにすぐ来てくれる?」


そう言うなり、フローラは足早にキッチンに戻る。

「フローラさんは、あのように朝からすっかりはりきってらっしゃるのですよ。将来よい主婦になりそうですね」

ユメとレニタスは目を合わせて、クスリと小さく笑った。

途端、フローラのユメを呼ぶ声がする。

「はいはい、今いきまーす」

ユメは返事すると、キッチンの方に駆けていった。




「ちょっと気になるのは……」


フローラが戸棚の前に立ち、クッキーにあわせて出すお茶を選別している時。

「ラクスがこの洋館に頭首様方を呼んだという事」

「おかしいの?」

「ラクスは昔から、本当に親しい者以外をここに招くのを極端に嫌っていたの」

「今回は、国王様、ラクスのお父様のお誕生日の件だからとかじゃなくて?」

うーん、とフローラが首を捻る。


「悲しいことに、ラクスはそこまで父親想いでは……。あ、このお茶にしましょう! ライチティー。ラクスもお気に入りだし」

フローラがユメにオレンジ色のお茶缶を渡す。

蓋を空けると、ライチの甘やかな香りがした。

「きっとラクス、何か思惑があって招待したんだと思うわ」

「思惑? 何の?」

フローラが肩をすくめる。

「そこまでは分からないけど」


「ところで、そのラクスは今どこにいるの?」

レニタスとフローラは精を出して頭首達の歓迎の準備に励んでいるというのに、肝心のラクスの姿は朝から見当たらない。

「書斎に篭ってるわ。なにやら、難しい本を真剣な顔で読んでた」

何でもなさそうにフローラは答えると、がしっとユメの腕を掴んだ。

「お茶とクッキーは大丈夫! 次は応接間の最終チェックにいきましょう」

ユメは半ば引きずられるようにして、キッチンをフローラと共にあとにした。




頭首達が訪れたのはそれぞれバラバラの時間だった。

一応決められた時間は午後一時。

その時間前に来たのは、アルボア、ソラ、ルチアのみ。


きっかり一時に来たのはゲントゥム。あと3人来てないのをみて、舌打ちをする。

「頭首たるもの時間を守れないやつがいるとは、けしからん」


やや5分遅れてマレ、そしてルチア。

「わーここがラクス様の洋館! 綺麗! 飾ってあるお花も素敵! マレちゃんもこんなところに住んでみたいなぁ」

「遅れてすみませぬな。珍しくダークリットに数回も会ってしまった。今日はついてない」


15分遅れて最後についてのはイグニフェル。全く悪びれる様子もなく、ホールでラクスを見つけると嬉しそうに飛びつく。

「おい、ラクス! 元気にしてたか? ほれ、ドーナツ持ってきたぞ」

「肩に触るな。馴れ馴れしくするな。早く応接間にいけ」

「あ、あぁ、イグニフェル様、ドーナツは私が預かりますわ。後で頭首様方にお出ししますわね。ありがとうございます」

フローラが慌てて、イグニフェルに駆け寄る。

「お、ありがとうフローラちゃん。ラクスはこんな可愛い許婚がいて幸せ者だな。たく、うらやましいぜ」

イグニフェルが最後まで言い終えないうちに、ラクスは彼をホールに残し応接間へと先に入って行った。



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