七大貴族 2
周囲の精霊達と同様に頭を低くしていたフローラだが、声をかけられ少し顔をあげた。
「アルボア様! ご無沙汰しております。アルボア様のお陰で、私達花の精霊は何不自由なく穏やかに暮らしております」
アルボアが静かに微笑を浮かべる。
「それはよきことですね。それで、こちらのお方は……?」
ユメに注がれる視線。顔を上げなくても感じられた。
緊張で、ユメの心臓の鼓動が早くなる。
フローラが少し困惑して、ユメを見た。
「えっと、こちらは……私の友達、カ、カスミ草の精霊、ユメです」
ユメは驚いて顔を上げそうになったが、なんとか視線を低く保った。
ちらりと見ると、フローラはまっすぐにアルボアを見上げている。
前から思っていたが、見かけによらずフローラは度胸が備わった子だとユメは思う。
「あら、うちの精霊さんなのですね。そんなに緊張しなくてもいいのですよ。ユメさん、顔をあげてもらえますか?」
アルボアの声は一定して穏やかだった。
嘘がバレやしないだろうかとハラハラしながらも、ユメはゆっくりとアルボアを見上げた。
近くで見ると、ますますアルボアは美しかった。
白い肌、焦げ茶色の長い睫毛に、透き通った茶色の瞳。
「顔色が悪いようだけど、あまり具合がよろしくないのかしら? エナジーも感じられないようですけど」
「え、ええ。実は少し病気でエナジーをうまく得られていないので、今から薬草の精霊達の村に一緒に向かうところなのです」
「相変わらず、フローラさんはお優しいのですね。それでは、私も少しだけお力添えしましょう」
そう言うとアルボアは胸の前で祈るように両手を組み合わせ、目を閉じた。
その刹那、アルボアの長い髪がまるで下から風が吹いてるようにゆれ、緑の光がその髪から溢れ出す。
ユメは驚いて思わず一歩退いたが、今やアルボアの全身を取り巻いている緑の光が、蛍のような小さな光に無数に分かれ、ユメの方に向かってやってきた。
「怖がらなくて大丈夫よ」
後ろからフローラが、ユメの肩をそっと抑えた。
緑の小さな光がやがて周りで螺旋を描きながら、ユメの全身を包んでいく。
ユメの視界は緑の光の中に奪われた。
「あっ」
光の中で懐かしい匂いがした。心地よい微かな風。
まるで森林の中にいるような新鮮な空気。小川の音。木々のみずみずしい匂い。
しばらくして緑の光が消えても、あまりの心地よさにユメは恍惚状態でそのまま突っ立っていた。
「癒しの力、少しは効果があったと思うのですけど、どうかしら?」
未だにぼんやりとしているユメのわき腹の辺りを、フローラが小突く。
ユメは我に返り、急いでお礼をいった。
「おかげで、とても気分がよくなりました」
「そう」
アルボアは嬉しそうに微笑んだ。
「それはよかった」
「相変わらずお人好しなんだな、お前は。そんなの、頭首自らするべきことか?」
アルボアの背後から声がした。
みると、アルボアとは仲が悪いと噂のアウルムだった。
手を頭の後ろで組んでいる姿勢や口調からすると、男勝りな女頭首らしい。
「アウルムさん、私達頭首の役目は自分に属する精霊達を守ることではありませんこと? それがどのようなオリゴの持ち主であっても」
振り返ることなく返事をしたアルボアの顔が、少し引きつるのをユメは見逃さなかった。
「あーそうかもな。お前からしたらな、アルボア。全く、お前の言うこと言うこと毎回真面目すぎて、こっちの耳が痛くなっちまうよ」
そこへ後ろから、また別の頭首二人がやってきた。
土の精霊ルチアと日の精霊ソラだ。
続々と現れる頭首達にユメだけでなく、フローラまでも体を緊張させて視線をやや下に落とす。
「アルボア様は全く頭首の鏡ですな。わしも見習わなければ。アウルム様、あなたも見習うべきなのですぞ」
ルチアの低い声がアルボアとアウルムの間に割って入る。
ややふんぞり返った体勢だが、それはアルボアとアウルム、さらにソラが自分よりもずっと身長が高いためらしかった。
「そう、思いませぬか、ソラ様?」
「ええ、私も同感です」
ソラが静かに答えた。
物腰が穏やかなところが、どこかレニタスに似ている。
レニタスも若い時はソラのようだったのかもしれない。
「おい見ろよ、ラクス! 珍しく会議がない場所で頭首達が集まってるぞ。なんかおもしろうそうだな!」
「お前、イグニフェル。さっきから、その世話しない態度やめろと言ってるだろ。不愉快だ」
「なんだよ、ラクス。相変わらずつれねぇーなぁ」
今度はイグニフェルとラクスのお出ましだ。
フローラは正しかった。ラクスはかなりご機嫌が悪いらしい。
顔にありありと不愉快そうな表情が浮かび出ている。
フローラは先ほど二人は折り合いが悪いと言ったが、ラクスはともかくイグニフェルはラクスのことを「不愉快」には思っていないらしい。
「ラクス……!」
フローラがラクスに声をかける。
途端にこちらを向いたラクスとユメは目があった。
無感情な瞳。ダークリットを消し去る時にラクスから感じた凍るような冷たさは、ここから来ているのかもしれない。
「フローラ、ユメ。どうしたんだ? 何か問題でもあったのか?」
ラクスがイグニフェルの傍を離れ、頭首達の目の前を通りユメ達に近づく。