大晦日、3丁目交差点、0時にアラームを鳴らせ
ようやく見つけたよ。神の落とし子の君。
ああ、なんて憐れなのだ。新年の言祝ぎに浮かれるセカイなのに、棄てられた仔猫の様に薄汚れ歩道の隅に、うずくまる君。
清浄なる光に満ちたセカイを取り戻す為、与えられし御力を行使し、独り闘っていたからか満身創痍。助けは無いばかりか、歯を向かれたのか。
君を取り巻く風が、教えてくれる。哀しみも苦しみも悔しさも何もかも全て、教えてくれる。
どう? セカイを滅ぼす方法を教えてあげる。やってみない?
この街。3丁目の交差点へ鏡を持ち向かうんだ。大晦日の0時にその交差する中央に立ち、時計のアラームを鳴らし、鏡をアスファルトに叩きつけろ。
君に運が残されていれば可能だ。
デジタルツールが蔓延しているこのセカイ。携帯で設定さえしておけば寸分の狂いも無く、鳴るよ。ええ? 携帯も鏡も持っていない。
僕のを貸してあげよう。鏡はそこの百均で買ったものだから、遠慮なく使っていい。
アラームが鳴ると、君の前に大波が現れる。恐れず真正面に受けて立ち、落ちた銀の破片を投げろ、空間を切り裂く刃に姿を変える。
狭間が生まれ顕れたサーファーが、ボードの上から左手を差し出し、君に3つの的を射抜き、ハットトリックを成せと言う。
空に浮かぶラジカセが、胎内に宿すカセットテープに言質を録音するからね。大きな声ではっきりと返事をするんだ。
「了解」
と。すると、アスファルトに落ちている残りの鏡の欠片が、3本の銀の矢になる。それぞれ一発勝負。
水壁を背に姿を出す的。
最初の的は『夢』
2番目に現れるのは『笑い』
最後の的は『愛』
それぞれ、このセカイの人々に、益を持たらす人外が封じ込められているんだ。ちょっと神様とゲームをし、勝ったから貰ってきたんだ。
矢を投げ、それらの真芯を射抜け。
それらを、木っ端微塵にしろ。
セカイからソレラを消滅させろ。
世のため人のため、十悪と独り闘う君を嘲笑い、虚言癖があると言い、倒れた君を足蹴にする、セカイには不要な代物だ。
面白いよ、きっと。
夢も笑いも愛も消え去ったら。もう行くのかい?
「ありがとう。うん、行ってくる」
もそもそと立ち上がる君が、口を開いたよ。
「やるのかい?」
僕はニンマリ笑いながら聞いてみた。
「うん、これもきっと運命」
血で汚れた、口の端を袖口でゴシゴシ拭う落とし子。そのまま駆け去る。
夢と笑いと愛、このセカイから3つが消滅するのは、間近。
愉しみだ。
ようやく見つけたよ。神の落とし子の君。