カテリーナの不安を取り除こう
待ちに待ったカテリーナの入学がもうすぐだ。入学準備で屋敷の中はバタバタと慌ただしい。
女の子は男と違って用意するものが多いらしい。
この二年間リーナは王宮へ通ったり、家庭教師にみっちりと勉強を習ったり、友人達とのお茶会で忙しいようだった。
家では屋敷中の皆んなに甘やかされ、のびのびとしているのに、外に出るとちゃんと淑女になるのだから、そこは凄い! ただ少しズレているというか、鈍感と言うか……天然と言えば聞こえが良いな。うん。
今日リーナは恒例の王子に会いに行く日だった。本を読みながらリーナを待っていたら、なんだか元気がない。
お菓子の食べ過ぎてお腹の調子でも悪いのか?
理由を聞くと
もう王宮に行かない。
もう殿下にも会わない。
もう遊ばないと言った。
しばらくしてから婚約者候補から外されたと聞いた。
いままで散々リーナを呼び出しておいて……! 会いたくないなら学園でも会わなくても良いようにしよう!
もしかしてあの美しいマドレーヌ様との婚約が決まったのかと思ったけれど、どうやらそうではないようだった。
『恋がしたい?』
あの王子が言ったのか?
バカだ! 絶対!!
リーナやマドレーヌ様を間近で見ているのに? マドレーヌ様は美しく、リーナは愛らしい。どっちを取ってもバカ王子には勿体ないだろうに……。
リーナはショックを受けているのか、元気そうに見えて元気がない。
リーナに元気がないと僕の調子も狂うようだった。いつもリーナの明るさに助けられているから。
学園では王子とは会わないようにしているのに、なぜか王子はリーナを気にしているようだった。
視線をすごく感じるんだ。気持ちが悪い。今更惜しくなったんだろうか?
あの王子のしつこい視線にリーナは気が付かない……ある意味羨ましいよ。
リーナがマドレーヌ様と仲良くしているので、僕も会うと挨拶くらいはさせてもらうようになった。
リーナの頑張りもあり、リーナもSクラスだったし、基本は一緒に行動しているから自然にマドレーヌ様とお会いすることも増えた。
「ブラッド様は本当にカテリーナ様と仲がよろしいのですね」
マドレーヌ様に誘われてお茶を飲んでいた時だった。リーナが忘れ物をしたと少し席を外すと言って、二人になった。(二人と言ってもマドレーヌ様の護衛はいたけれど)
「リーナがそそっかしいので、両親から頼まれているんです。保護者のようなものですかね」
間違いではない。
「カテリーナ様はね、ブラッド様のことを殿下とわたくしに義弟が出来きたとそれはそれは嬉しそうにお話をされていてね、殿下がヤキモチを妬いていらしたんですよ」
ヤキモチ? そんなもの妬いても、もう関係ないだろうに。
「はぁ。それはなんとも……」
「大好きな家族が増えたと言って笑うカテリーナ様の顔はとても可愛らしくて、眩しいくらいでしたのよ。わたくしにも兄がいますけれど、あそこまで素直に大好きと言えませんもの。カテリーナ様を見ているとみなさんに愛されている事が良く分かりますわ」
「ふふっ。そうですね。リーナは凄いですよ。屋敷中のみんながリーナに甘くてみんなが味方なんですよ。ですから殿下の婚約者から外された時は喜ぶ者も多かったんです。僕もその一人です」
「まぁ、それはなぜ?」
「殿下には勿体無いからですよ」
「まぁ! ふふっ。ブラッド様もカテリーナ様のことをお好きなのですね」
「それは……はい。そうですね。好きですよ。かけがえのない家族で姉ですからね。自称ですけれど」
リーナの顔が浮かんできて自然と笑ってしまった。直接リーナに好きだなんて言わないから。
「ふふっ。そうですわね。ブラッド様はしっかりとされていて、カテリーナ様の方が妹と言った感じですわね。わたくしもカテリーナ様は妹のように思っていますのよ。こうやって二人とも婚約者候補から外れて、更に仲が深まったように感じますもの」
「それはマドレーヌ様とリーナの二人にしか分からない感覚ですね」
「そうなりますわね」
と言って目が合い笑った。こうやって令嬢と二人で話す事はないのだが(リーナは別)マドレーヌ様は話が上手で、とても穏やかで楽しいと思った。
「いつもリーナがマドレーヌ様は素敵だと言っている意味がわかりました」
「まぁ! カテリーナ様が?」
微笑むマドレーヌ様の顔は美しいのに、なぜか可愛くて、つい
「マドレーヌ様は可愛らしい方なんですね」
……言って後悔した。失礼すぎるだろ!
公爵令嬢に……穴があったら入りたい!!
「……嬉しいですわ。そんな事……今まで言われた事ありませんもの」
頬を染めて下を向き、恥ずかしがる顔がなんとも言えずに目を逸らしてしまった。