デビュー
~オーウェン視点~
今年のデビュタントではカテリーナが一番爵位が高い令嬢で、最後に紹介されていた
初々しいデビュタントの白いドレス……あの可愛かったカテリーナがもう十五歳か……。そりゃ私も歳をとるはずだ……白いドレスが妙に艶かしく感じる。
昔と変わらず可愛いカテリーナ。あの転んで泣いていたカテリーナがもう十五歳か……感慨深い。
「お兄様! お兄様ったら」
マドレーヌに声をかけられふと我に返る。
「悪い……何だ?」
「カテリーナ様に声をかけに行きましょう」
「あぁ……あのカテリーナのパートナーは誰だ?」
整った顔をしていて、やけにカテリーナと親しげにしている。
「ブラッド様ですか? カテリーナ様の義弟ですわよ」
親戚を養子にしたと宰相が言っていたな。カテリーナと同じ歳だとか言う。
「仲がよろしいのです。ブラッド様はとても頭が良くて学年トップですのよ。お顔も整っていて人気がある方なのですわよ」
……へー嬉しそうにブラッド君の事を話すんだなぁ、マドレーヌよ。
カテリーナが子息達に囲まれている。まぁあれだけ可愛くて婚約者不在となればそうなるわな。
……なぜか殿下が遠巻きにカテリーナを見つめているのが気になるが……距離を詰めているのか?
「あっ! マドレーヌ様ごきげんよう」
マドレーヌに気がついてカテリーナが声をかけて来た。
「カテリーナ様デビュタントおめでとうございます」
「ありがとうございます」
チラッとこちらを見るカテリーナ……覚えているかな? 取り敢えず微笑んでおこう。
「カテリーナ様、こちら私のお兄様よ。覚えていますよね?」
カテリーナは大きな目を開いて驚きの表情を浮かべた。
「オーウェン様!! お久しぶりです」
淑女の礼をされた。覚えていたのか……嬉しいものだな。顔を上げたカテリーナは満面の笑みを浮かべた。体は大きくなったけど笑い顔は変わってないな……大きな瞳が今にも溢れそうだぞ。
「久しぶりだ。デビュタントを無事に迎えられたようだね。おめでとう」
「はい、ありがとうございます。オーウェン様お元気でしたか? 私の事を覚えていてくださったんですね。嬉しいです」
笑顔のまま話を進める。
「もちろんだよ、懐かしいな。大きくなったね」
くすくすと笑いながらも話をすると、カテリーナは少しむくれたような顔をした。
「もう十五歳ですよ! いつの話をしているんですか!」
「そうだな転んで泣いてた時は七歳だったか?」
「もうっ! 意地悪」
くすくすと笑いながら聞き流した。カテリーナは少しだけ顔を赤くしていた。
「お兄様、お話し中に申し訳ございません。ブラッド様とドリンクコーナーに行って来てもよろしいでしょうか?」
マドレーヌに言われてブラッド君を見た。
「あぁ、もちろんいいよ。ブラッド君? だっけマドレーヌをよろしく頼むよ」
「はい」
「……お兄様、殿下がカテリーナ様に近寄ろうとしてますよ、お気をつけてくださいね」
こそっと私に耳打ちをして、マドレーヌとブラッド君が去っていった。
「さて、カテリーナ、私と一緒に踊ってくれませんか?」
「はいっ! 喜んで」
大きくなったとはいえ、華奢な身体つきだがどうも成長はしている……らしいな、目のやり場に困る。
ダンスを一曲踊り風にあたろうとテラスへ移動した。殿下がずっと見てるからな……避難だ避難!
「カテリーナは殿下の婚約者候補から外れたんだって?」
聞きにくい質問だが大事なことだ、ちゃんとカテリーナの口から聞いておきたい。
「はい。殿下は恋がしたいそうです、マドレーヌ様が話をしてくださって外れました」
少し罰の悪そうな顔をするカテリーナ、殿下の事が好きだったのか?
「それはショックだっただろうね」
眉を顰めてしまった。マドレーヌは嬉しそうに婚約者候補から外れたなどと話をしていたからな……カテリーナはショックだったのかもしれない。
「ショックと言うか……マドレーヌ様のように優しくて美しい人を前に恋をしたいって。よくわかりませんよね」
なんだよ……ショックは受けてないのか?
「殿下は見る目が無いと言うか……んー。それにはショックを受けました」
カテリーナの返事を聞いてまた笑ってしまった。
「オーウェン様なんですか! さっきから笑ってばっか!」
頬を膨らませて抗議をするカテリーナ。
はぁ……可愛いな、全然変わらないじゃ無いかと思い息を吐く。
「本当に見る目が無いんだな殿下は……こんなに可愛いカテリーナを婚約者候補から外すなんてバカだ、いやアホだな、マヌケでトンマで、」
「オーウェン様ってば、他の人に聞かれたら、不敬罪で捕まっちゃいますよ」
キョロキョロと周りを心配するカテリーナ。オロオロする姿も可愛らしい。
「大丈夫だよ。ここは私とカテリーナの二人きりだからね、しかし先程からマヌケがカテリーナを気にしていたよ、なんかあった?」
ドリンクを口にした、カテリーナと話をしていると楽しいようだ。
「今日のエスコートは殿下がすると手紙を貰いました。きっとバカにされているんだと思います。婚約者候補から外した相手にそんな手紙を書いてくるなんて!」
ぷんぷんという副音声が聞こえてきそうだ。
……なるほど。マドレーヌの言った通り殿下はカテリーナに恋をしていることに気が付いたのか……ふーん。これは面白くない。
「バカは放っておくと良い。それより今度、うちでパーティーをするんだが、カテリーナさえよければ私のパートナーになってくれない?」
私が領地から帰って来たおかえりパーティーなるものを開くらしい。
「私ですか? でも……」
「宰相に言っておくよ、ダメか?」
「私ですか良いんですか? オーウェン様から見たら子供ですよね? 私といて恥ずかしくないですか?」
「なんで? デビュタントを迎えたから立派な成人だろ」
「そうですけど、チビだし」
「そのくらいの年代の令嬢はそんなものだろ? 昔に比べたら随分と大きくなったけどな」
頭をポンポンと軽く叩く。
「オーウェン様が大きいから!」
ひょいと腰を掴んで抱き上げた。細い腰だ。折れはしまいな……?
「きゃあっ! オーウェン様ってば」
足をバタバタと浮かせるカテリーナ。
同じ視線になると、カテリーナの顔がピンクに染まった……ヤバいな! これは!
「昔はよくカテリーナを、抱きあげていたのにね、急にごめん。意地悪したくなった」
そっとカテリーナの足を地面に着かせた。
「びっくりしました! 急にレディに触れるなんて!」
ふん。っと顔を背けられたが、怒ってはないようだ。
「さっきは子供って言ってたのに、急にレディになったのか……レディ・カテリーナ可愛い貴女に触れたくなったんだ」
カテリーナの手を取りキスをした。
「……もう良いです、意地悪しないでくださいね」
いじけた顔も可愛い。
「はい。お約束しますよレディ、ところで先程の返事はいただけないのですか?」
「……お受けします」




