ウィルフレッド
「なんなんだ……? このメンバーは、私カテリーナとお茶がしたいんだけど」
私の前にはブラッドが座り、その後ろにはカテリーナにいっつも付いている執事がいた。
「リーナはもうすぐ来るから先に話をしておこうと思いまして」
ブラッドがそんな事を言い出した。
「何かあったっけ?」
「結婚するまでリーナに手を出すな! 良いですよね?」
ブラッドが笑みを浮かべながら恐ろしい事を言った。手を、出すな? 無理だろ、いや、頑張るよ、でもどこまで良いのかな……
「えっと、最後までは、」
バンっとテーブルを叩かれた……
「はっ? 聞こえないんだけど」
ブラッドが笑みを消して睨んでくる、後ろの執事、私を殺す気か? 圧と殺気を同時に出すな!
イケメンの睨んだ顔って怖いよね! 整っている分怖さ倍増……
「……努力しま、ひぃっ。いいえ……出しません。だせません。結婚したいので」
すっと殺気が消えた……こえーよ! なんなんだ。
寒気がする!!
「リーナを、嫁がせるときにはリーナが小さい時からついている、この後ろにいる執事と侍女もつけて欲しいんだけど」
「侍女は良いけど、執事は、」
「ノーマン、構わないから話して」
ブラッドがノーマンと言う執事に声をかけた。
君は私に遠慮がないよね……
「はい、ブラッド様。失礼ながら王太子殿下、私はお嬢様が幼い頃からお世話をさせていただいております」
あぁ、確かによく見る顔だ。カテリーナがこの男とよくいるのは知っている。カテリーナはこいつといると楽しそうなんだよな……
怒ったり笑ったり、私にはそんな顔を見せない。
「そうだね、よく見る顔だ」
「光栄でございます。お嬢様は我が主人として、たった一人のお方です、お嬢様が王太子殿下に嫁ぎましても、お側にいることをお許しください」
正直言って嫌だ、でもカテリーナはそれを望んでいるのか?
「僕からもお願いします。ノーマンが付いてこないって分かったら、リーナが悲しむと思います。リーナの為ですよ」
ブラッドまでこいつを推すのか!
「ひとつ聞くが、カテリーナとどう言う関係だ?」
「一言で言いますと主従関係。でございます。ですがお嬢様がお生まれになった時から、私の主人はお嬢様のみ、それだけです」
「……もしカテリーナの身になにかあったら、お前は命を惜しまないか?何があってもカテリーナだけは助かるように、手を尽くせるか? もし私とカテリーナ二人とも危険な目に遭ったら、カテリーナだけは助けられるか?」
「お嬢様が助かるのならば喜んでこの命を捧げましょう、貴方を見殺しにしても私はお嬢様をお守りします」
随分とあっさり命をかけるんだな、私を見殺しにしても良いだなんて……
それ、他所で言うなよ。
「ではカテリーナの盾となれ、何かあったらその命をかけてカテリーナを守れ、それを約束できるのなら、構わん」
「はい、お言葉のままに」
執事は深々と頭を下げた。
「へー。思ったより懐が広いんですね、殿下って。見直しました」
「失礼なやつだな……カテリーナが望むのなら仕方がなかろう。なんかよく分からんが、この男が本気だと言う事は伝わった……ノーマンと言ったか? 何か私に言う事はもうないか?」
今のうちに聞いておこう……
なんかそう言う雰囲気だし。
侯爵家の執事だし怪しいところはなさそうだ。
「失礼ながら……私のお嬢様をよろしくお願いします。大切なお嬢様です。私ができる事はお嬢様を見守ること、それだけです。殿下には誰よりも……私よりもお嬢様を大事にしていただきたいのです。お嬢様が健やかに過ごせること、それが私の喜びです」
本心だろう。こいつの気持ちは恐らく恋とか愛とかではなさそうだ。もっと大きな……人生をカテリーナに預けている、ちゃんと返事をしなくては。
「お前の命より大事なものを私に預けると言うのだな?」
「はい、私の主人が貴方を選びましたので」
「分かった。約束するよ」
あれだ! カテリーナは魔性の女だな!
変な男ばっかり虜にしている。執念深そうだしな、こいつら。
自分より大切にしろだの、大事にしろだの!
当たり前だろうがっ! そこは譲らんから安心しろ。
シスコンに、あとよくわからん、気持ちの重すぎる執事!
カテリーナの周りには変な奴しかいないから、私がまともにみえるんじゃないのか? 良かった!普通で!
しばらくしてカテリーナとマドレーヌがやって来た。
「どうしたの? 少し外すって言ってたのブラッドに付いていたの?」
「はい、左様でございます。お嬢様、殿下がお待ちでしたよ」
私より先に執事に声をかけるのか……まぁ良い。
「殿下どうしました?」
隣に腰掛けるカテリーナ、気にかけてくれるのか? 優しいな。
「いい加減名前で呼んでほしいよ、カテリーナ」
指を重ねるように手を繋ぐ。
「それは二人の時だけにするって約束です」
恥ずかしそうに下を向くカテリーナ、可愛いな。ノーマンの顔をチラッと見るとしらっとした顔をしている。あんな事を言った後なのに、しっかり執事の仕事は出来るんだな。
若干、薄気味悪いけど、それは……人のこと言えないしな……
王太子になったら執務の量も倍に増えた……
この前オーウェンが持ってきた書類が、まためんどくさかった……嫌がらせだろう。
カテリーナも王太子妃教育がありうちに来てくれると言うが、執務の量半端ないよ。
カテリーナとゆっくり過ごすのはしばらくは無理だ……でも会えるだけでも幸せです。
これから迷惑をかけた人たちへの恩を返すために、頑張ります。
これからの私を見守って欲しい。と言ったらどの口が言う! とまた怒られそうだから、態度で示します……
カテリーナは男の趣味が悪いとマドレーヌに言われたんですよ。
ごめんカテリーナ。私のせいで悪趣味呼ばわれされてしまってるね。
あと数年……結婚するまでにはなんとか名誉を挽回したいと思います。
カテリーナの名誉を……
カテリーナ、幸せにしてください……。