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ノーマン(執事)の呟き

『ノーマン、リーナの事すき?』


『えぇ、もちろん大好きですよ』


『リーナもノーマンすき、ずっといっしょにいてくれる?』


『もちろんでございます』


『ノーマン、リーナが大きくなったらけっこんするー?』


『ふふっ、お嬢様は将来好きな人が出来たらその方とご結婚して下さい』


 可愛いお嬢様の頭を撫でている。


 ーーーーーーーーーー


 夢で起きた……一体いつの昔の……

 お嬢様がまだ幼くて、ブラッド様がおいでになる前の……懐かしい記憶だ。


 私が十歳の時にお嬢様がお生まれになった。

 とっても可愛くて守るべき私の主人。可愛くて、素直で、私の後ろをちょろちょろとついてくる姿がとっても愛らしい。

 こんな愛らしいお嬢様にお仕えできるのは、心からの悦びだ。



 お嬢様は愛らしい笑顔でみんなを虜にする。勿論私も例外ではない。

 人懐っこい性格が災いして、人攫いに遭いそうにもなった。寿命が縮んだ。



 私の父はお嬢様の邸の執事をしていて、私も小さい頃から邸に住まわせてもらっている。執事見習いの為、お嬢様の為にもしっかりとお役目を果たさなければならない。


 愛すべきお嬢様の為にも、完璧な執事を目指す為、学園に入学した。

 お嬢様と身分は違うが、一応貴族の端くれである。



 学園を卒業し執事見習いの為、他家へ数年預けられることとなった。

 お嬢様と遊んでいる際に、しばらくお邸を離れますと、挨拶をした。

 お嬢様はいやだ。と泣き出してしまった。

 奥様に、私が居なくなる理由を説明されてもいやだぁ~と泣き止まない……


 よしよしと頭を撫でると、私に抱きつき


『ずっと一緒だってゆっだ、ぐすっ。嘘つききらいだもん。ぐすっ。いなくなったら、もうあわないもん。ぐすっ。』



『あらあら。困った子ね……ノーマンごめんなさいね。こらリーナ離れなさい、お菓子を取り上げるわよ?』


 奥様がお嬢様を私から引き離そうとしました。



『いいもん。ぐすっ。いらないもん。お菓子も、お茶もいらない。お稽古も頑張るから、ノーマンいなくなるのは、やぁ~ダメなの』


 お嬢様は泣き疲れてスイッチが切れて寝てしまわれました。




 結局、旦那様と奥様に今出ていかれると、お嬢様に恨まれてしまうからいかないでくれ。と言われました。

 普段は聞き分けがいいのに、ノーマンの事はお兄様のように思っているのね……我儘に付き合ってくれてありがとう。と奥様からお言葉をいただきました。


 次の日お嬢様は満面の笑顔で私に抱きついてきます。


『我儘言ってごめんなさい。いたくない嫌がらせならしても良いから、リーナを嫌いにならないで! 何しても怒らないから、ノーマンの事、好きだもん』



 バカだなぁ……嫌いになることなんて一生ないのに。貴女に死ねと言われたら、私は喜んで死にますよ? それくらい大事に思っているのです。


 頭を撫でると嬉しそうな顔をした。



『言いましたね? 母はしかと聞きました。ノーマン、この子が悪い事をしたらお菓子を取り上げて、まずい紅茶を出してもいいです。課題を増やしても、何しても文句はないわよね、リーナ』



『……うん。ノーマンが居てくれるなら良いよ。ずっとずっとず~っと、リーナと居てくれる?』


 無垢な顔で私を見つめてきます。



 はい。ず~っと一緒です。と返事をしたら約束ね! とお嬢様は言いました。



 奥様からのお許しで嫌がらせのためにまずいお茶を(薬草茶)淹れる練習もしました。レパートリーは無限です。

 まずいお茶を飲む時のお嬢様の顔が、歪んでつい笑みを浮かべてしまいます。


 奥様には、ノーマンの人生だから娘にそこまで付き合う必要はありませんからね。と釘を刺されましたが、私の人生はお嬢様の物です。




 お嬢様に嫌がらせをする為に執事らしくない態度も取ってしまいますが、そこは奥様から許しがあってのことです。あぁ……完璧な執事像からは遠ざかっていますね。



 お嬢様は結局殿下と婚約なさるのか。

 ブラッド様はお嬢様の事を家族愛だと言った。それも嘘ではないだろう。

 お嬢様の幸せを願ったんだと思う。


 オーウェン様とお嬢様が結婚したら穏やかな家庭になっただろう。でも身を引くのならお嬢様の相手には相応しくない。

 お嬢様のことを誰よりも(私より)幸せにしてくれる方でないと、やはりお嬢様の見張りを続けなくては……




 お嬢様と殿下の婚約が発表されました。それからしばらくして話があると言われます。


 改まってどうしたのでしょうか……?



「ノーマンさえ良ければブラッドの執事になっていいからね」


 突然お嬢様がそんな事を口に出しました。


「なんの話ですか?どうして私がブラッド様に?」



 急に変な事を言い出すので、内心では焦ってしまう。とうとう嫌われてしまったのか……? それなら死んだ方がマシだ。



「子供の頃、約束、したでしょ、ずっと一緒だって」


 恥ずかしそうに下を向くお嬢様なんだかモジモジしていていつもと様子が違う。


「はい。お約束いたしました」


「忘れて、いいから。ノーマンの人生はノーマンのものだから、侯爵家の為を思うならブラッドに仕えて欲しいの」


 はっ? 何を言ってるんだ……私のお嬢様は。



「話はそれだけ、私からお母様に言っておくから、また執事長に聞いて」


「勝手に話を進めないでください! 私の主は生涯貴女だけです。約束と違いますよ、お嬢様」



「小さい子の戯言だったの、ごめんなさい、ノーマンを縛りたくないの」


「私は私の信念の元、貴女に仕えているんだ。戯言なんかではない! 貴女が私の主です」



「私、いつかこの邸から出て行くよ?」


「婚家にも行きますよ? 何言ってんだ?」


「執事長と離れることになるよ? 家族なのに」


「お嬢様を一人でやるわけには行かない、お嬢様に付き合えるのは私くらいだ……」


「結婚しないの? モテるんでしょう」


「……昔、ある人に結婚してくれと言われ断ったので、生涯結婚しないと決めています」


「そっか……それならノーマンの最期を看取ってあげる」



「約束ですよ、我が主」



 頭にポンと手をやったら、下を向いたお嬢様が涙を流していた。優しい主で私は幸せ者だ。


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