恋してないって…言った
マドレーヌ様の兄であるオーウェン様が公爵様と王宮で仕事を始めたとお父様から聞きました。
その後一ヶ月ほどして殿下が王太子に任命されると言う会議が行われたそうで、その時に婚約者を定めて、紹介すると言う意見が出たそうです。
「そろそろ返事をしなくてはいけないよ」
父に言われて迷っています。殿下はとても優しいのです。嫌だと言うことはしないので好感が前よりも高まりました。
無理矢理ドレスを贈ってこないし、ランチも断ると分かったと引いてくれますし、待ち伏せもなくなりました。ブラッドとも普通に話をしています。
「話は変わるが実はマドレーヌ嬢を殿下の婚約者にと言う話も出ているんだよ」
真剣な顔で父が言うので嘘では無さそうです。
「貴族院が殿下に相手がいないのならもう時間もない事だし、相手はマドレーヌ嬢なら問題ないと言い出した」
公爵家と言う王族に次ぐ身分なのだから、問題はないどころか、万々歳でしょう。そう思いますが、心が落ち着かないのはどうしてでしょうか
「そうなれば皆さんは納得されて、喜ぶのでしょうか?」
尋ねるように父に聞いてみた。マドレーヌ様なら将来の王妃様として、皆さんの心を掴んで離さないと思います。
「さぁ、どうだろうね?カテリーナが相手でも誰も文句を言わないよ、安心していい、君の心しだいだよ」
優しく頭を撫でられました。私の心しだい……?
その後マドレーヌ様からお手紙を貰い、話がしたいから、うちの邸に来るとの事でした。
マドレーヌ様とお話をするのは楽しいですし、光栄です。是非お越しくださいとお返事を書きました。
急ぎ用意をする侍女達に申し訳ありません。急に公爵家の令嬢が来るのですから、失礼があってはいけません。客人はよく来ますが公爵令嬢となると別格ですもの。
「急に来てごめんなさいね。どうしても会ってお話ししたくて」
マドレーヌ様を迎え出る我が家の使用人達にも笑みを漏らす。これで皆はマドレーヌ様の虜になっている。
さすがです! 見習わなければなりません!!
「今回の殿下の王太子任命と婚約のお話はお聞きまして?」
困ったように話出すマドレーヌ様。
「はい、先ほど父から聞きました。マドレーヌ様と殿下の婚約のお話ですよね?」
マドレーヌ様が望んでいるのなら、身分が高いもの同士でお似合いだろうと思います。幼馴染ですし、気の知れた仲という事もありますもの。
「ごめんなさい! お兄様が勝手に話をしたの! 私は殿下とは友人で、婚約なんてしたくないのっ本当よ。絶対! 生理的に無理! 100%無理なのっ」
とてつもなく否定をしてきますが……
お話も合いそうですし、側から見ても美男美女でお似合いですもの。私にいうよりも、オーウェン様に仰った方が……困った顔をしてしまいました。
「あ、あら、嫌だわたくしは殿下のこと何とも思っていないという事をお伝えしたかっただけですのよ……カテリーナ様、気になさらないでね……」
マドレーヌ様のこのような姿を見るのは初めてでした。
するとブラッドがノックをして入ってきた。マドレーヌ様に挨拶をしに来たようです。
「あれ僕、邪魔だった?」
カテリーナに聞くとマドレーヌ様がいいえと答えました。
「ブラッド様も聞いてください。私と殿下を婚約させて、カテリーナ様は……お兄様と婚約させられようとしています」
「「えっ?」」
ブラッドと同時に驚き声を上げてしまいます。
「わたくしがオーウェン様と……?」
考えたことがありませんでした……これにはノーマンも驚き訝しい顔をしている。
「殿下はカテリーナ様と婚約をしたいと思ってらっしゃるし、カテリーナ様そろそろ返事をして差し上げないと、取り返しのつかない事になりますよ」
返事を先延ばしにする事は出来ないようです……
マドレーヌ様が帰った後に手紙が届いた、オーウェン様からでした。
約束のお茶会をしようとお誘いを受けました。学園に行きマドレーヌ様に相談をしようと思ったら、何故か殿下も同席をしていました。ブラッドも事情を知っていますので、一緒に話を聞きます。
「カテリーナ、どうか返事をくれないだろうか。カテリーナはオーウェン殿と婚約したい?」
そう言う言い方は卑怯だと思うのですが……
もう何年もオーウェン様とは会っていません、十歳も歳が離れているし兄のような存在です。もし殿下と婚約の話がなかったら、光栄な話だと思いますが。
……恥ずかしながら、恐らく殿下に絆されて? いるのだと思います。どうかと思います。
自分勝手な人ですし……
しつこいですし……
暫定婚約者なんて意味わかりませんし……
マドレーヌ様には勿体ないですし……
もう会いたくなかったのに……
あの時私に恋してないって……言ったのに!