第35話 彼の死
魔の風に吹き荒れる空と暗黒の海。
その狭間を突き抜けて、飛翔船〈ハンマユラリュ号〉は本土の港へと辿り着いた。
そこで彼らエィヌ島の村民たちを待っていたのは――。
「爺ちゃん、婆ちゃん!」
島を捨て本土に居を移してしまった家族たちだった。
飛翔船から地上へ降り立つ老人たちへと駆け寄って、その身を力一杯抱きしめている。
想像していなかった事態に、迎えられた島民たちの方が狼狽えていた。
「ああ、良かった! エィヌ島へ救助船を出さないなんて知らせを聞いたから、居ても立っても居られなくて、みんなで港まで来たんだけど……」
「なんて酷いことをするんだ。いくら危険とはいえ、生きてる人たちを見殺しにするなんて!」
怒り狂った家族たちは、国が救助の船を出さないのならば自分たちで助けに行こうとこの港へと押し寄せたらしい。
しかし、集まってはみたものの為す術があるわけもなく、この場で途方に暮れていたのだという。
そんな中に、ツバキナの両親の姿もあった。
「ツバキナ! お母さん!」
チヤギとツバキナのもとへ駆け寄った両親は、ぎゅっと二人を掻き抱いた。
自分を抱きしめる父と母。
二人の腕の力強さに、ツバキナの胸がチクリと痛む。
十年前。
ツバキナがエィヌ島へ行くと決めた時、両親は反対しなかった。
まだ幼い娘が離れていこうとしているのに、一言も「行くな」とは言わなかった。
だから、自分は愛されていないのだと思った。
けれど。
そうではなかったことを、今ツバキナは知った。
両親もエィヌ島を愛していたのだ。
しかし島での生活は貧しく辛いものだし、若者がどんどんいなくなっていく中、彼らも本土へ移るしかなかった。
だから父母はこう思ったのだろう。
娘が望むのならば、エィヌ島へ行かせてやろう。
本土の都会で窮屈に育つより、娘にはのびのびと島で育って欲しい。
仕事に追われる両親のもとにいるよりも、優しい村民たちに囲まれて過ごした方がツバキナのためになるだろう、と。
今は両親の広い心に感謝している。
エィヌ島での十年間、自分は本当に幸せに過ごしてきたのだから。
――だけれども、彼を亡くしてしまった。
これがエソトオの望んだ結末だったのだということはツバキナも理解している。
あの時、祠堂で「みんなを救おう」と言ってくれた彼は、きっとこうなる未来を予期していたのだと思う。
飛翔船を飛ばしたならば、胸にある〈飛翔石〉は砕けてしまうかもしれない。
その危険性を彼は誰よりも理解していた。
それでも、エソトオは村民たちを救うと決断してくれたのだ。
彼を失ったと思うと、苦しくて悲しくて心が引き裂かれてしまいそうだった。




