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第31話 覚悟

 息を吸っているのか吐いているのかも分からない。


 極度の緊迫感が飛翔船を隙間なく埋めていく。



 やがて、鬼の舌のように渦巻く荒波が間近に迫ってきた。



 ――こんな海に放り出されたら。



 一巻の終わりだ。


 船は一瞬でバラバラに分解され、村人たちは散り散りになり、海の藻屑と成り果てるだろう。



 エソトオとツバキナも、彼らと共に散る。


 ツバキナはゴクリと大きく喉を鳴らした。




「エソトオ、これ以上お前に負担はかけられん」



 凛とした声に振り向けば、そこにはチヤギの姿があった。


 その後ろには、ずらりと村民たちが並んでいる。



 皆、なぜか清々しいほどの微笑を湛えていた。


 ツバキナの胸にざわりと不安の虫が湧いてくる。



「儂らは船を降りる。エソトオ、ツバキナを頼む」



 一意専心。


 たった一つ、己の胸に残った〈飛翔石〉だけでどうにかこの危機を乗り越えようと集中しているエソトオに、チヤギの言葉は届かない。


 もう砂一粒たりとも彼に余裕がないのは明白だった。



「いやっ! やめて、チヤギ婆!」



 叫びながらもツバキナは周りを見回す。


 人が海に飛び込むよりも先に、荷物を捨てるべきだと考え至ったのだ。



 しかし、そんな思いつきなどとっくに村人たちは気づいていたようで、すっかり荷物は捨てられていた。


 ツバキナの表情に絶望が浮かぶ。



「ツバキナ、このままではエソトオが死ぬ。身軽な月昇人にとって、この船は重すぎるんじゃ。これ以上ひとりでは支えられまい。お前も見たじゃろ。マダクシの〈飛翔石〉は割れてしまった。次はエソトオの心臓がそうなる!」



 ――分かっている。



 エソトオを死なせたくはない。


 けれど、みんなにも死んで欲しくない。



 エソトオだってそう願っているからこそ、決死の覚悟で頑張ってくれているのだ。


 せっかく火を噴き始めたエィヌ島から脱出してきたというのに。


 ここで島民たちが自ら海へ飛び込んだりしたら、エソトオの努力は報われない。



 でも、でも……チヤギの言う通り、エソトオはもう限界を超えてしまっている。



 血が滲むほどに唇を噛みしめて。


 苦渋の表情をしながらも、なおも気丈にツバキナは首を振った。



「ツバキナ、お前とエソトオは儂らの大事な子供じゃ。どうか、生きてくれ」



 他の村人の声。


 チヤギの後ろから掛けられたその声が、ツバキナの心を優しく抉る。


 そしてひとりの声が響けば、それが他の人々の声を誘発する。


 我も我もと島民たちの切ない言葉が続く。



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