第3話 エソトオ
「そ、そんなことは――」
必死に否定の言葉を紡ぎだそうとした時、
「ツバキナ、チヤギ婆が呼んでる」
背後から透き通った声が少女を呼んだ。
振り向けば、スラリとした長身の青年が駆け寄ってくるのが視界に映る。
ツバキナより二つほど年上の落ち着いた風体。
月光のような白金髪、白皙の面に翡翠の双眸。
老人ばかりのこの村には不似合いなほど美しい容姿をした青年だ。
不思議なことに。
この青年はまるで重力を感じさせない足取りで、ぴょんぴょんと爪先を一瞬だけ地につけ、地面を蹴る反動に身を任せて、空を飛ぶように近づいてくる。
「エソトオ! 良かった、一緒に爺様たちを止めて!」
「? 止める?」
何のことかと問うように、無表情のままエソトオが首を傾げる。
「こんな小さな船で本土へ行こうとしてるのよ!」
無謀にもほどがある。
だから一緒に引き止めて欲しいと、ツバキナが困ったように訴えるも……。
「好きにすればいい。命は本人のものだから、無理に引き止める必要はない。そんなことよりツバキナ、チヤギ婆が呼んでる。早く行ったほうがいい」
エソトオの冷徹な言葉に声を失ったのは、ツバキナだけではない。
まさか今の状況で突き放されるとは夢にも思っていなかったのだろう。
小船に乗った老人たちも絶句して、そして新たに現れた美しい青年の顔を凝視している。
「なっ、エソトオ! 冷たすぎるよ。その言い方はないんじゃ――」
「ほら、本土からの使いがきた。内容を確かめず、それでも勝手に沖へ出るというのなら、もう仕方がないだろう?」
うんざりと空を指差すエソトオ。
釣られるようにして見てみれば、今にも雨が降り出しそうな空と海の間を、確かに白い鳩が飛んできた。
灰色の空中を滑空する鳥の足には、細く折られた白い紙が結わえられている。
伝書鳩、本土からの返事を持ってきたのだ。