第29話 噴火
「み、見ろ! 島が火を噴いた!」
「お天道様が……焼かれているぞ」
「もうこの世は終わりじゃ」
エィヌ島は火を噴いていた。
世界を震撼させるような轟音をたて、真っ黒な空に向かって紅蓮の炎を吐いている。
濛々と流れ出る濃灰色の煙に朱色の火飛沫が紛れ、色彩の共演がまるで地獄の釜のように毒々しい。
数日前までの穏やかだった島の風景が嘘のよう。
村に様々な恩恵をもたらしてくれた静かな山は、今では鬼の化身となっていた。
噴煙柱がたち、爆音と共に天へ岩を投げつけている。
みんなが過ごした大切な村へと、真っ赤な火の雨を容赦なく降らせていた。
家は瞬く間に全て炎に呑み込まれ、真っ黒な残骸へと成り果てている。
村民たちはひとり残らず声をあげて泣いた。
「エソトオ……」
溶岩が流れ込み、激しく水蒸気をあげる海上を眺めながら、ツバキナはエソトオの背をそっとさすった。
金と銀で美しく装飾された大きな飛翔船〈ハンマユラリュ号〉。
船首に龍の頭、船尾に龍の尾が模られている。
煌びやかなこの船は、海上ではなく煙に塗れた暗い空を進んでいた。
洞窟に繋がる海からこの船を移動し、村人たち全員を乗り込ませた時。
既にエィヌ島は火を噴き始めていた。
海は狂ったように荒れ、とても航海できる状態ではない。
そう判断したエソトオは、ツバキナが持つ〈飛翔石〉を受け取り、二つの石の力を使って船を空中へと飛ばせたのだった。
島民たちは全員、五十年前の遭難事件、その救助に携わった者たちだ。
飛翔船〈ハンマユラリュ号〉が埠頭へと現れた瞬間に、全てを理解したのだろう。
船が海上から空へと浮かんでも、それほど動揺はしなかった。
皆分かっているのだ。
かつて、月昇人が空を飛び、この島を去っていくのを見送った人たちなのだから。
空は墨色に染められ、眼下の海は沸騰したように踊り狂っている。
その狭間を飛翔船がゆっくりと進んでいく。
しかし、これだけの大きな船を浮かせる行為は、並々ならぬ負担をエソトオの心臓にかけているようだった。
チヤギが二人だけを逃がそうとした本当の理由を、ツバキナは今になって知った。
こうなることを、チヤギは避けたかったのだ。
飛翔船を飛ばすことになれば、エソトオの命に危険が及ぶと分かっていたから。
無知な自分に怖気が走る。
直感的にしか行動できない自分に嫌気がさす。
最低だ。
みんなを助けたいと願っておきながら、エソトオを命の危機に晒している。
自分自身を苛む言葉に打ちのめされながら、ツバキナは視界の中心にエソトオの姿を捉えた。
船首に立つ美しい青年。
手に持つ〈飛翔石〉を掲げ、エソトオは船を浮かせ進ませることに神経を集中させている。
マダクシの〈飛翔石〉とエソトオの胸が白い光を放っている。
これが月から得るという力の正体なのだろうか。
強い風に靡く白金髪の下、白皙の額からは玉のような汗が浮かびあがっていた。
鋭く進路を見つめる双眸は重い疲労に影っている。




