第17話 村の意思
それから数日経った頃。
村は食糧危機に直面した。
もともと四十軒ばかりの家しかない村に、十数名もの怪我人が転がり込んできたのだ。
みるみるうちに蓄えてあった食料は消えていく。
それに加え、今年はどういうわけか集中して嵐に見舞われたため、漁に出られない日も多かった。
続く台風に畑も荒らされ、日照時間も足りなかった。
だから育った野菜は小さく、その上少ししか採れない。
あっという間に村の備蓄は底をついてしまった。
「もう……この島には何もない」
「可哀想だが、これ以上は……」
非情な声が心優しい村人たちの口から漏れる。
苦しげな声音が示していた。
善良な人々の心が良心に激しく苛まれているのを。
しかし、綺麗事だけでは生きてはいけない。
状況はそれほどまでに逼迫しているのだ。
一寸先は闇。
もうどうにもならない。
自分たちが生き残るためには、他の者を切って捨てる必要がある。
「いいえ……まだ鶏がいるわ。それに牛だって」
心の闇をうち払うべく、潔いまでにチヤギがはっきりと告げた。
食料として最後に残った家畜の存在を指摘したのだ。
「でも、家畜を食べてしまったら俺たちは――」
本当に、何もなくなってしまう。
家畜に手を出してしまったら、もう後がない。
集った村民たちの顔は皆、血の気が引き蒼白になっていた。
生気の失せた人間の顔は、既に死人のように萎靡している。
苦悩を映す彼らの表情を見て、病に伏してしまった父の代わりに村長代理を務めるチヤギは心を決めた。
今、決断を誤ってはならない。
このまま成り行きに任せてしまったら、辛うじて命を繋げたところで自分たちは救われない。
誰かを犠牲にして生き残っても意味がないのだ。
「だからって、あの人たちを見捨てられるの?」
チヤギは言った。
迷いなく言い切った。
ここで彼ら月昇人を見捨てたら、自分たちは〈鬼〉となってしまうだろう。
なんとかこの危機を乗り越えたところで、彼らを見殺しにしたという悔恨は乗り超えられない。
罪に苛まれて生きていくことになる。
未来永劫、どこまでも。
それよりも、たとえ自分たちがさらなる苦境に陥ったとしても、精一杯尽くしたのならば、これからの未来を胸を張って生きていける。
今、必要なのは決断と自分の心に素直になる勇気だ。
村を率いる者として、皆の心を一つに纏め、声高く代弁しなければ。
村民たち全員が自分の内にある気持ちに気づくように。
そんなチヤギの心に、村人たちも同意してくれた。
「ああ、そうだな……、あの人たちを見捨てたら、俺たちは揃って地獄行きだ」
「なんて酷いことを考えていたんだろう! 食料がなくなるからって、同じ人間を見殺しにしようなんて……あたし、恥ずかしい」
「家畜がいなくなってもなんとかなるさ。みんな、まかせておけ! 明日から俺たちが漁に出て魚を沢山とってくるからな!」
村民たちの顔に笑顔が戻る。
なにか吹っ切れたような、痞えていたものが取り除かれたような、清々しい表情だった。
「大丈夫。きっと神様が守ってくださるわ」
彼らの勇気を称賛するように、祈りの言葉をチヤギは皆へと贈った。




