第14話 嵐の夜に
猛烈な風と波。
五十年前のその日、天地をひっくり返すような嵐がエィヌ島を襲っていた。
生暖かい風が吹きはじめる季節、このあたりの海域を毎年台風が通過する。
しかし、その年はどういうわけか例年よりもずっと数が多かった。
思うように漁にも出られず、島に住まう者たちは少しの憂慮を抱いていた。
こんな夜は決して外へ出てはいけない。
嵐と共にやってきた禍を拾ってしまうから。
そんな迷信を信じる村人たちは皆、家の鎧戸を固く閉じ台風が去るのをじっと待っていた。
激しい風雨に軋む家の隅で、亡霊の叫びのような風音に身を震えさせながら。
ただただ、何事もなく嵐が通り過ぎるのを祈るように、息さえも潜めて。
そんな彼らの耳を、突如、轟音が打ち付けた。
何か大きなものが破損した音。
バリバリと炸裂する世にも恐ろしい騒音。
それが、暴風雨と荒波の音に掻き消されることなく村人の耳へと届く。
「船だ! でっかい船が座礁しているぞ!!」
外で村人の声がした。
今夜の灯台守だ。
断崖の上に建っている灯台からおりてきて、雨風に打たれながら必死の形相で走ってくる。
「生きている者がいるかもしれん! 救助に向かおう!」
迷信などどこ吹く風。
村民たちは皆、すぐに身支度を調えて海辺へと向かう。
そこで、なんとか船から逃げ出し、島に辿り着いた十数人の人間を保護したのだった。
翌朝、海面を見た村人たちは皆絶句した。
岩場や浜辺に散らばる船の破片、その合間に横たわる多くの遺体。
女たちはその場で気を失い、男たちも思わず目を背けてしまうような、惨憺たる光景だった。




