第13話 書付
優しい老人たちしか住まない島の建物に施錠の必要はない。
そっと引いてみれば、何の障害もなく扉は開かれた。
交代で村人たちが掃除をしているからだろう。
中に入ってみれば、定期的に人の手が入っていることが伺えた。
しかし続く火山性地震のせいで、霊牌や装飾品は倒れ、柱や天井は剥がれかけていた。
「これ……は?」
床に落ちた霊牌の近くに一冊の書物を見つけたツバキナは、そっと膝をつき手にしてみる。
古い書付。
もともとは白かったであろう紙は黄色く変色している。
「この字――」
間違いない。
チヤギの筆跡だ。
表紙には、達筆な字で〈月昇球、ハンマユラリュ号〉と記されていた。
この洞窟に保管されている船の名称だろうか。
早く船を探さなくては。
そう思って祠堂の内部を見回すが、求めるものは見いだせなかった。
そもそもこの祠は船を収容できるほど大きくもない。
ならば、洞窟の奥へと続く扉でもあるのではと思って探してみるが、どこにもそんなものは見当たらなかった。
――もう、どうにもならない。
みんな、ここで死ぬんだ。
絶望と共に床へと崩れ落ちるツバキナ。
膝に感じた一際大きな揺れに、均衡を崩し両手をつく。
その後に続いたどこかで崖が崩れる衝撃に恐怖を募らせる。
しかし、もう涙は出なかった。
ただエソトオのことが気になった。
――わたしはダメな人間だ。エソトオまで死なせてしまう。
後先も考えず、逃げ出してきてしまった浅はかな行動をツバキナは後悔していた。
彼はまだツバキナを捜しているのだろうか。
もう自分のことは諦めて欲しい。
せめて彼だけでもこの島から逃げて欲しい。
そう伝えに行かなければとツバキナは思う。
だけど、もう――。
今のツバキナには、この祠から出てエソトオのもとへ走る気力は生憎残ってはいなかった。
心身共に茫然としてしまって、とても彼のように冷静には振る舞えない。
このままここで最期を迎える。
もう……それでいい。
――チヤギ婆、エソトオ、ごめんね。
全てを諦めたツバキナの目は、手に持つチヤギの書付へと注がれていた。
こんなもの、今さら読んでも意味はない。
そう頭で思いながらも、朦朧としたツバキナの瞳は本の表紙から離れない。
深い溜息を一つ落とし、黄色くなった書付へとツバキナは視線を走らせた。




