第12話 謎
左手にチヤギから渡された〈飛翔石〉を握りしめ、山の麓に向かってツバキナは駆けていった。
「これが……慰霊のための祠堂……」
辿り着いた社祠を見て、ツバキナはその奇観に目を瞠る。
山肌にできた大きな洞窟に、祠堂は半ば呑み込まれる形で建てられていた。
見ようによっては、洞窟を塞いでいるようにも見える。
続く群発地震のせいなのか。
洞窟の前には崩れた岩や土砂が積もっている場所もあった。
足を踏み入れた時、もし洞窟が崩れてしまうことになったならば……。
そんな懸念が脳裏を横切っていく。
けれども今は、そんな憂慮よりも現実的な問題がツバキナの考えを絡め取っていた。
「この奥に――」
五十年前に引きあげられた船がある?
村人全てを救い出せる大きさの船が?
それは無理だとツバキナには思われた。
確かに大きな洞窟と祠だが、それほどまで大きな船を収容するには狭すぎる感じがしたのだ。
ここに保管されている船は、実はそれほど大きなものではないのかもしれない。
せいぜい十人程度が乗れる、小型の船なのかもしれない。
それに、と更に深く考えて、ツバキナは焦慮する。
座礁した船。
それが無傷であるわけはない。
激しい嵐に呑み込まれ、暗礁に乗り上げたのだ。
恐らくは激しく破損しているだろう。
使い物にならない可能性が高い。
そうでなければ、救助された人々は怪我が治った後この船で帰国できたはず。
船がこの島に残されているのはおかしい。
と、そこまで考えて、ツバキナはハッとした。
重大なことに気づいたのだ。
「その人たちは、どうやって――」
遭難した船から脱出し幸運にも島へと辿り着いた人たちは、村人たちの手厚い看護の甲斐あって辛うじて一命を取り留めたという。
彼らはこの村で傷の手当てを受け、その後どうしたのだろう。
多くの仲間を失った彼らを不憫に思った村民たちは、慰霊のために祠を作った。
島の美談はそこで終わっている。
その後の彼らについては語られていない。
ぞくっと、なぜだかツバキナの背が氷を撫でつけられたかのように戦慄いた。
「でも……入ってみなきゃ」
こうしていても仕方がない。
時間は刻一刻と過ぎている。
心なし、時々訪れる地震が大きくなってきたように感じる。
考えあぐねている暇はない。
意を決して階段を上り、祠堂の戸口へと立つ。
嚥下を一つ、漆塗りの扉へと手を掛けた。




